第一線を走り続ける操上が日頃過ごす場所。そこから垣間見えるのは、常に学び続け、楽しみ続けるための秘訣だった。
世界を駆け回る写真家の基地
一歩、事務所に足を踏み入れると、アートギャラリーのような世界が広がる。企画、演出、撮影まで、すべてを手がける操上にとって、事務所は行動・創造の源であり、まさに基地と言える場所だ。
「日本にいる時は、ここが基点になるから、快適で落ち着く場所であることが大事です。ですが、同じぐらい大切にしているのは、刺激的な場所であることなんです」
以前の事務所は、竹芝桟橋の鈴江倉庫で、その広さはなんと400坪。当時、日本では数少ない驚きの規模だったという。
そして、60歳の時に建てた現在の事務所は、コンパクトにはなったものの、快適さと刺激が随所に交差する。
「ただのデザインに見えるこの壁は、実は写真作品を入れる棚になっていて、階段の上を有効活用してるんです。あと、こっちの壁は、暗室からすぐに出て、写真を見比べられるように、すべてマグネットがつくような造りになっています。とても便利です」
窓際の壁側が操上の定位置。ここでさまざまな思考を巡らす。
リラックスするのは寝る時だけでいい
自身が撮影して気に入っている写真はもちろん、アーヴィング・ペンやブルース・ウェーバーのような好きな写真家の作品や写真集が並べられた室内は、モノがたくさんあるはずなのに、一定の均衡を保っている。
「ある程度の刺激がないと、緊張感が抜けてしまいます。僕はリラックスするのは、寝る時だけでいい。それ以外はしないし、できないんです。写真家として、見えるものが見えなかったり、感じるものが感じられないということがないように、そこは常に意識しています」
操上は撮影のために、徹底的に準備を行うことでも知られる。それは実質的な写真家としての撮影準備ではない。ミュージシャンなら音楽を聴き、作家なら書籍を読み、映画監督なら映画も、可能なかぎり観る。そして、自分なりの感想を書きだし、撮影に挑むのだ。その素顔が垣間見られるのが、所狭しと並ぶ、多岐のジャンルにわたる書籍やCDの数々。
「撮影は1対1のセッション。その時に相手にかける言葉がとても大事なんです。だから勉強は欠かせません」
常に刺激を受けて、学び続ける。まるで大人のおもちゃ箱のような好きなモノだけに囲まれた空間で、操上は自分を律している。