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2020.05.06

歩む道があるかどうか。道が見えているなら金で悩む必要はない。ドリアン助川【ゲーテの名言⑦】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2008年9月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

ドリアン助川【ゲーテの名言】

本質的なことに金を惜しむくらい無駄な金使いはない

――『ゲーテとの対話』より

ゲーテはワイマール公国にて、宰相兼宮廷劇場の総監督も務めた。管理から演目に至るまですべての責任者となったのである。ゆえに、この劇場が火事で焼け落ちた時のショックは大きかった。「三十年に及ぶわが労苦の舞台、瓦礫と土砂に埋まる」と記している。

だが、そこはゲーテだ。不屈の人だ。その時すでに七十五という年齢でありながら、劇場再建に並々ならぬ意欲を見せた。前よりも素敵な劇場。前よりも優秀な俳優たち。前よりも偉大な演目でなければ意味がないと、一本気な論陣を張った。財源が足りないことを知りながら、「金のやりくりは役に立たない。毎晩大入り満員にすることを考えなければならない」と、ひるんだ節約に流れようとした議会の意見を真っ向から切り捨てた。目先の公演しかできない芝居は役者をだめにするだけだとして、ロングランに値する作品を探すためにヨーロッパ中に馬車を飛ばそうとしたのもゲーテである。この迫力。この熱意。この知性。

窮地に陥った時、運気が変わるまでじっと耐え忍ぶのはまっとうな方法だ。へたに打って出て取り返しのつかないことになった例はいくらでもある。

だが、だからといって、夢まで失う必要はない。劇場が燃えたあと、ワイマールの人々が経済的な理由で萎縮してしまったことをゲーテは責めているのではない。その流れとして劇場再建まで諦めるような気配が現われたからこそ、老ゲーテは立ち上がった。起きてしまったことではなく、これからの日々が大事なのだと語る青春の人として。また、言葉だけではなく、身をもって東奔西走し、具体的な方法を提示する人として。ゲーテの頑張りにより、運気はまたここで逆転し、ワイマール公国は新しい国立劇場を建てる方向で盛り上がっていく。

本質的なことに金を使っているかどうか。それはつまり、本質と呼べるだけの歩む道がその人にあるかどうかにかかわってくる。道が見えているなら、金のことでそう悩む必要はない。金は持っていないが、いつか持てたら私もそうしたい。

――雑誌『ゲーテ』2008年9月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て'94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。'99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。2015年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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