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2020.04.07

「マエストロと棋士」羽生善治×指揮者 小林研一郎 対談

師匠か、恩師か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ「相師相愛」ともいえるふたりの姿をご紹介。連載「相師相愛」第46回は、将棋がつなげた縁。

相師相愛46

棋士 羽生善治が語る、小林研一郎

20歳の頃、人生で初めてお会いした指揮者が小林先生でした。音楽の世界で大変有名な方ですが、将棋がお好きでお強い、という話を聞いていて、それから雑誌の対談などでお会いする機会をいただくようになりました。

一度、就位式で祝辞を頂戴したことがあったんですが、なんとサプライズでピアノを弾いてくださったんです。関係者がお願いしたようなのですが、なんとも畏れ多いことを先生は快くお引き受けくださって。その時、なんと歌まで披露してもらえたんです。私も感激しましたし、おいでくださった方々にも千載一遇の幸運をいただいたと感謝しています。

小林先生の古希のお祝いに参加した際、周囲の皆さんから先生がいかに尊敬され、慕われているかがよくわかりました。何度もコンサートを見させていただいていますが、全身全霊で音楽に向き合っている姿を見るだけで、自分自身も奮い立ちます。今後もご無理なくご活躍くださる姿を見ていたいです。

炎のマエストロと言われる情熱的な指揮ですが、私は見ていて、まるで何かと対話をされているような印象を受けていました。一方で、まるで聖徳太子のように、たくさんの楽器の音を聞き分けて、ひとつの音楽を作り上げていかれる。とても人間業とは思えません。

これは棋士に限らず、だと思いますが、年齢が上がってくると、ひたむきさやガムシャラさがだんだん薄れていくところがあります。でも、先生は年齢に関係なく、ずっと変わりなく音楽と向き合っていらっしゃる。その姿勢や姿に、とても勇気づけられるんです。

指揮者 小林研一郎が語る、羽生善治

20歳の頃、下宿先で将棋に出会い、集中できる時間がたまらなく好きで、藝大の作曲科にいることも忘れ、将棋に没頭しました。

羽生先生とお会いする機会をいただいたのは、30年ほど前になります。その後、誌上対談をきっかけに、年末にあるベートーヴェンの第9を毎年聴きに来てくださるようになりました。先生が国民栄誉賞を受賞した時は、心から嬉しくて、演奏後のステージで皆さまにご紹介させていただいたこともあります。

僕も大内延介門下で四段を持っていますが、先生に将棋を教えていただいた時は、駒を持つ手が震え、序盤から対局を続けることができず(笑)。大変な失礼をしてしまいました。

永世7冠をお取りになる竜王戦の最後の銀打ちまでの数手は、今でも克明に覚えていて忘れられません。高度な技術と深い読みを持つ先生がコンサートを見てくださる時は、私にはベートーヴェンが傍にいてくださるようで、身体が震える想いです。

一度、羽生先生と名古屋でばったりお会いしたことがありました。対局でいらしていた先生と、なんと同じホテルの同じフロアに宿泊していて、偶然にも、通路ですれ違ったのです。ところが、その場所が薄暗かったものですから、「あ、小林先生」と声をかけていただいたのに、私はすぐにはどなたか認識できず、戸惑ってしまいました。

でも、次の瞬間、私は「羽生先生だ!」と気づいたのです。それは、先生のお声でした。羽生先生は、透き通るような綺麗な高い声をされています。心の奥まで読む、歴史上桁違いの強さの棋士の声は、忘れることのできないものだったのです。

Habu Yoshiharu(左)
1970年生まれ。’85年、中学生でプロ棋士になる。永世竜王、永世名人、永世王位、名誉王座、永世棋王、永世王将、永世棋聖と、史上初となる永世7冠の資格を獲得。2018年2月、国民栄誉賞を受賞。

Kobayashi Kenichiro(右)
1940年生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科および指揮科卒。国内外のオーケストラのポジションを歴任。2013年、旭日中綬章受章。チャイコフスキー交響曲全曲チクルス公演、ハンガリー国立フィルとも共演を果たす。

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連載
相師相愛

師匠か、恩師か、目をかける若手か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ、相“師”相愛ともいえるふたりの姿を紹介する。

TEXT=上阪 徹

PHOTOGRAPH=太田隆生

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