幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けているメジャーリーガー・大谷翔平。彼がアメリカ全土でも絶大なる人気を誇る理由は、その実力だけが要因ではない。ビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から"大谷番"として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
「何ですかね。サイズが合っていないんですかね」
本当のところ、今も疑問は拭い切れていない。「大谷選手のヘルメットはなぜ、あんなに脱げるの?」。今季の大リーグ取材中、デスク、同僚から、そしてテレビでたまたま見ていた友人から質問されたこともあった。
当初、大谷は「何ですかね。サイズが合っていないんですかね」と首をかしげ、その後も調整を繰り返していた。だが、やはりフルスイングすると必ずヘルメットが脱げてしまう。
打撃のさまたげになっていないかと心配になってしまうほどで、ある日、ブラッド・オースマス前監督は「あごをガードする部分(フェースガード)が右肩に当たるのだと思う」と解説。「あんなにヘルメットが脱げる選手が見たことがある?」という米メディアの質問には「あんまり見たことがないね」と苦笑いを浮かべるほどだった。
8月末。大谷がフェースガードなしの通常のヘルメットを使うようになった。すると、途端にヘルメットが脱げなくなった。「もっと早くそうしていれば……」なんて素人目には思うが、6月13日のレイズ戦で日本選手初のサイクル安打を記録した時はフェースガード付ヘルメットを使用し、一度もヘルメットを落とさなかった。完全に推測だが、良いスイングができている時はヘルメットは落ちなかったのかもしれない。
「鈍(どん)ちゃん」
振り返れば日本ハム時代、栗山監督は大谷のことを「鈍(どん)ちゃん」、「タコボウズ」などと呼んでいた。特に「鈍ちゃん」の理由について、栗山監督は「アップ中に靴が脱げたりして、あいつは"鈍感"なところがあるからね」と笑いながら話していたものだ。一般的に投手は繊細と言われるが、大谷は珍しいほどにルーティンがない。
この「鈍感力」は時に大谷の武器になる。地方球場の柔らかいマウンドや少々の風雨も苦にしない。プロ入りから4年目の2016年まで地方球場で36イニング連続無失点という快記録も残しているほどだ。
一方で、こだわりも強い。今年のキャンプ中は早朝に球場入りし、欠かさずトレーニングに励んでいた。夏場からは「滑らないように。打席の中で汗をかいてくるので」と、バットにグリップテープを巻くようになった。「鈍感」でありながら、やるべきこと、抑えるべき感覚は人一倍、大事にしている。
「鈍感、時々繊細」。今季の"ヘルメット問題"は周囲が心配するほど大谷にとって気にすることではなかったというのが筆者の結論である。