ごみを燃料にしてデロリアンを走らせる、あの映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が描いた未来を実現させ、衣類の綿からデロリアンの燃料となるバイオエタノールをつくりだす。世界を変えたいと願う岩元氏が目指すリサイクルの形に迫る。
分子レベルで再生する品質が変わらないリサイクル
滝川 地下資源に頼ることのない、半永久的に持続可能な循環型社会。誰もが渇望していたそんな未来を実現させ、リサイクルの概念をがらりと進化させた画期的な日本環境設計の技術に、世界中からラブコールが殺到しています。2020のオリンピック・パラリンピックでもリサイクルメダルの採用が決まりました。大会初の試みで、こちらも大きな注目を集めています。岩元さんたちが手がけるリサイクルは、従来のものとどのようにプロセスが異なるのでしょうか?
岩元 従来のリサイクルは、例えば石油系原料からつくられる衣服やペットボトル、プラスティック製品などの場合、細かく粉砕し洗浄して溶かしてから、再成形するのが主流です。その手法ではリサイクルできる回数に限りがありますし、再製品化するにあたっては製品企画の幅も狭くならざるを得ないことが少なくありません。でも我々の"ケミカルリサイクル"の技術では、分子構造を解いてから不純物を取り除き、再度、構造をつなぎ合わせる化学的なリサイクル技術を用いるため、同じものをほぼ制限なくリサイクルできるという特徴があります。そして、この技術においては変換率がほぼ1:1のリサイクルが可能。つまり、1着の古着から1着の新しい服をつくることができる技術なんです。
滝川 その視点と技術が、世界で唯一だということですね。日本環境設計は「BRING」というファッションブランドの展開もされていて、Tシャツなどのプロダクトを買うと、古着を回収するキットがもれなくついてきます。着なくなった服を袋に入れて、着払いでポストに入れるだけでリサイクル工場に直送される。それがまた新しい服の原料になる。素敵なアイデア。
岩元 ひとつ買ったらひとつリサイクル、という文化をつくりたいんです。企業も消費者も本当はリサイクルしたい。ただ、企業側においてはリサイクルにかけられる費用は限られているでしょうし、消費者も行動に移すにはハードルが高い。でも、丁寧に検証していけばリサイクル料金が発生したとしても赤字にならずに事業を実行できる仕組みが必ずあります。事実、リサイクルを実施することで、売り上げに貢献できることを実感してもらえた企業もあります。消費者に対しても、楽しみをプラスした手法を提案をすれば、浸透していくと思うんです。それを証明できればと。
滝川 さまざまなジャンルの民間企業との提携も盛んですね。衣服以外では、例えば、日本マクドナルドのハッピーセットのおもちゃを回収して、トレーにリサイクルするキャンペーンだとか。
岩元 はい。当社の「BRING」と連携させていただきました。いくら技術があっても、リサイクルするものが集まらなければ意味がない。それらのものを回収する仕組みと消費者に行動してもらう仕組みを、同時に設計していく必要があるんです。
「正しいを楽しいに」で人をまき込んでいく
滝川 今や世界から引く手あまたの注目企業ですが、2007年の設立当初は社員ふたり、資本金120万円だったとか。
岩元 世界で前例のない挑戦で、かつ極小ベンチャーでしたから、最初はけんもほろろ。企業の経営陣の方々に何度も説明させてもらって、少しずつ協力者が増えていった感じです。やっと北九州工場も稼働し始めたので、ここからさらに大きく動いていきたいと思っています。
滝川 いよいよ加速度的に市場にも展開されるわけですね。
岩元 もはや大手グローバルメーカーの多くは、リサイクル素材、またはリサイクルできる素材を用いたプロダクトを生産することが、企業の果たすべき責任として強く認識されています。その背景には、2015年に採択されたパリ協定であったり、2030年までの国際目標である持続可能な開発目標(S D Gs)の存在があります。世界で起きている紛争の原因の多くは石油や金鉱脈といった地下資源を巡るものだというデータがありますし、資源を循環させていくというのは意外と大きな視点で見なくてはいけないと思っています。
滝川 循環型社会が戦争を遠ざける理屈を、消費者も投資家もわかっているんですよね。そういう意味では日本は少し理解が遅れているかもしれません。
岩元 一方、海洋プラスティック問題も深刻ですよね。だいぶ国内でも危機感が高まりましたし、当社も何か貢献できないものか、と考えています。
滝川 自分事として考えないと、やはりなかなか動けない。
岩元 ですから僕らは「正しいを楽しいに」をキーワードに、さまざまなイベントを並行して進めています。一番の代名詞が「デロリアン」なんですけど。
滝川 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場した、ごみを燃料にして走る自動車型のタイムマシン。映画のなかで主人公たちがタイムトラベルした30年後の未来だった2015年10月21日、ごみをリサイクルしてつくったバイオエタノールとガソリンの混合燃料をもとにお台場で走行が実現しました。
岩元 はい。公開30周年記念イベントとして、NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパンとの合同企画としてハリウッドからお墨つきをもらって実現することができました。そのほか多くの企業、そして全国から着なくなった服をリサイクルしてくださった方々の協力があって、30年越しの悲願がかないました。
滝川 植物由来のバイオエタノールの研究は行われていましたが、まさか使い古した衣類から燃料ができるなんて。
岩元 しかも何度も洗濯したようなボロボロの服ほど、糖に変換しやすいんですよ。デロリアンを走らせることに成功して、第二弾としてバイオジェット燃料もできました。世界中を飛び交う国際線においては、CO₂などの温室効果ガス排出量を2020年の水準で維持する規制が合意され、バイオジェット燃料の導入がひとつの対応策と考えられています。そこでJALと提携し、オリンピックイヤーの2020年に、リサイクルに参加してくれた内、100組200人を抽選で招待して、飛行機を飛ばす服の回収イベントを開催します。今、私たちが担っている綿から糖液をつくるという工程を終え、バイオジェット燃料づくりも終盤。古着を提供してくれた方には年内を目途に、抽選結果を連絡する予定です。
滝川 デロリアンを動かして、飛行機を飛ばして。次は……。
岩元 ロケットをぜひ飛ばしてみたいですね。化学プロセス的には実現できると思っています。がんばります。
滝川 ずっとにこやかにさらっとお話されているんだけど、世界中で広まったらもう、社会が一変しますよね。
岩元 可能性がどんどん広がっていることにワクワクします。自分の感じているこのワクワクドキドキをたくさんみなさんと共有できるよう、楽しい提案を続けていきたいですね。
消費者参加型の仕組みづくり。前人未到のリサイクルビジネス
いらなくなった衣類を回収& リサイクルする事業は、現在、アシックス、無印良品、パタゴニアなど、150社以上の企業と提携するにいたる。実は回収ボックスを設置した店舗のほうがしなかった店舗よりも客数が増え、売り上げがアップしているという報告もあるのだとか。環境対策は利益につながることが徐々に証明されている。
Michihiko Iwamoto
1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社の営業職を経て、2007年に現社長・髙尾正樹氏とともに日本環境設計を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。