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2018.04.20

Manners Makyth Man ハリー杉山の紳士たれ 第2回

英国王エドワード1世の末裔にして、父親はニューヨーク・タイムズ誌の東京支局長として活躍した敏腕ジャーナリスト。日本で生まれ、11歳で渡英すると、英国皇太子御用達のプレップスクール(※1)から、英国最古のパブリックスクールに進学、名門ロンドン大学に進む。帰国後は、4ヶ国語を操る語学力を活かし、投資銀行やコンサル会社で働いた経験を持つ。現在は、活動の場を芸能界に置き、タレントとしてラジオDJやMC、情報番組のプレゼンターなど、さまざまな分野で活躍するハリー杉山。順風満帆な人生を送ってきたように感じるが、その人生は、情熱たぎる彼の、抜きん出た努力なしでは実現しなかった。英国の超エリート社会でもまれた日々、そして日本の芸能界でもまれる日々に、感じること――。

一生超えられない存在、 “ヘンリー”

父親とは何か? 圧倒的権力を誇る家族の大黒柱? 週末にしか姿を見せない口数少ない遠い存在? それとも仕事終わりにビールを片手に野球中継中ソファで熟睡するおじさんなのか? 父親には色んなタイプがいて、良くも悪くも自分の人生に多大な影響を与える。僕の父もそうだ。永遠のヒーローであり、自分にとっての一番の親友でもある。“Father”, “Dad”とも呼ばず、“ヘンリー”と下の名前で呼んでいる。不思議な関係なのは確かだ。

東京オリンピックが開催された1964年に初めて来日した父はフィナンシャル・タイムズ、タイムズ、ニューヨーク・タイムズの東京支局長として半世紀ほど日本を世界に伝えてきた。日本を日本人以上に愛する父は特に三島由紀夫と来日後親睦を深め、三島が結成した、“楯の会”の訓練にも富士山へと参加していた。三島はノーベル文学賞を取る事が夢だったと言う。父の書斎には今でも当時の三島からの手紙が何十枚も保管され、自決直前に書かれた最後の手紙を見る度に、深い想いに包まれている姿を自分は子供の時から何度も見てきた。

そんな父は三島の単刀直入かつ素直な所と、常に本質をつくインテリジェンスに魅了された。そしてその姿勢がいかに大事なのか、子供の僕によく伝えていた。

“Harry, assert yourself”

――“ハリー、しっかり思った事を伝えなさい、自己主張する事を恐れてはいけない。どんな場でも素朴な疑問があればすぐストレートに聞きなさい”。

いかにもジャーナリストが言いそうな素敵な言葉だが、シャイボーイで泣き虫で人見知りな子供だった自分は言われる度に耳が痛かった。

なかなか殻を破れなかった1994年、9歳のとき、大好きなACミランというサッカーチームがトヨタカップで来日した。父は僕をチームが泊まっていたホテルオークラに連れて行った。ロビーに入るとそこに立っていたのは、その夏アメリカW杯で大活躍したマッサーロ選手(後に、清水エスパルス所属)。父はそこで魔法の言葉を僕の耳元で囁きながら僕の背中をマッサーロ選手に向けて押した。顔面が凍りつくと共に緊張が稲妻のように全身を貫いたが、もたつく暇などもない。速やかにサインを頂き、父の元へと全力疾走した。初めて自分の事を“assert”できた、殻を破れた瞬間だった。

幼少期、近所を散歩中にて。”>幼少期、近所を散歩中にて。

そしてこの出来事以降、父は積極的に日本で働く外国人ジャーナリストが集まる外国特派員協会の記者会見にも僕を連れて行くようになった。そこで記者会見を行えば、それは世界に向けてのメッセージになることを踏まえ、来日中の大統領、首相、時の人、ハリウッドセレブなどがよく来ていた。 自分も、小泉元首相や、タレントの飯島愛、元大相撲力士の舞の海の記者会見に立ち会ったことがある。そして父は、次なるミッションを9歳の自分に与えた。

それは質問すること。9歳の男の子がだ。記者会見によるが、カメラは数十台、200人以上のジャーナリストと張り詰めた空気の中、僕はどんな顔で質問を聞けばいいのか?

“Age does not matter. You are a journalist too. Introduce yourself as a freelance”

――“年など関係ない。ハリーもジャーナリストだ。質問をするときはフリーランスとして自己紹介しなさい”

試練も試練だ。ただ、父に憧れていた自分は、父と同じジャーナリストという肩書きをもらえる事に興奮し、自分の的外れな質問が失笑を招いても、誇らしげに見守る父の笑顔を見ると自然とやる気が出た。記者会見の中身を理解する事は難しく、ほとんど当時の自分は寝ていたと、後に父から知らされたが、Q&Aのコーナーは誰よりも早く手を上げていたという。自信は不思議なきっかけでつくものだ。

記者会見が終わると多くのジャーナリストは情報収集のためメイン・バーへと足を運んでいったが、父は彼らの誘いをよく断っていた。”息子とこれからボールを蹴りにいくのだ!” ほとんどの同業者がすぐ仕事に取りかかるのに、父は息子との時間を優先してくれた。外国特派員協会を去った我々は、徒歩で有楽町から内堀を沿って桜田門で左折。夏には半ズボンから生えるフラミンゴのように細長い足が地に着くと、共にポケットの中で踊る小銭が不思議とリズミカルな音を立てたのを鮮明に覚えてる。早歩きの父に自分はジョグでなんとかついていく。家まで30分はかかるので、やや長めのウォーミングアップだった。

帰宅してサッカーボールを手にしても、当時ボールを蹴れる公園やスペースは自宅周りになく、マンションの外のパーキングで我々は蹴っていた。外交官、海外メディア、大使館関連や得体の知れない人々が在住していたこのマンションのパーキングにはずらりとベンツや高級車が並んでいた。この障害物の間を父と僕はワンタッチでパスを交換し、特に興奮した時はパントキックで何台ぶん越えられるかお互いを試した。距離が伸びず、ベンツのボンネットに直撃する事もあり、鈍い音がパーキングに鳴り響くと共に高笑いする父は純真無垢で満面な笑顔を見せていた。世の中で一番尊敬する父は、息子のいたずらにも付き合うことができた、“ヘンリー”という“親友”でもあった。

寄り添える、感情を露わにする父であったが、原稿に追われたり、何かしらのトラブルが発生して追い込まれても、何ひとつ文句は言わなかった。むしろ笑っていた記憶が多い。根拠なき自信からなのか、いくら困難な状況でも見方によって、観点を変えるとそれは最大のチャンスと感じた人だった。黙々とタイプライターに打ち込みながら、彼は自分の書いた文章を読み上げて笑ったり、仕事を仕事として感じず、生涯の生きがいと感じていた。その背中は僕にとって “ヒーロー”そのものだった。

そんな父も今年、80歳になる。数年前から認知症を伴うパーキンソン病を患い、今は実家から歩ける距離の介護施設で生活している。先日彼はこんな言葉を僕に伝えてくれた。

”Harry..I am mad…I don`t know where I am and what I am doing…but being mad makes life so much more interesting!!!”

――“ハリーよ、私は狂ってしまった..自分が何処にいるのか、何をしてるのかももうわからない..ただ狂うのも悪くない…何も理解できなくなると人生はまた面白くなるものだ!!!”

そう父は笑いながら言った。

いかにも父らしい言葉だった。

父に会いに施設に行ったとき。

それは現状を未だに受け入れる事ができない涙が溢れそうな息子を気遣った最大の紳士の言葉でもあり、並ならぬ精神力を表現していた自分の永遠のヒーローの言葉でもあった。

そんな父は一生超えられない存在である。

ーManners Makyth Manについてー
礼儀が紳士をつくる。これは、僕が英国で5年間通学した男子全寮制のパブリックスクール、Winchester College(ウィンチェスター・カレッジ)の教訓だ。真の紳士か否かは、家柄や身なりによって決まるのではなく、礼節を身につけようとするその気概や、努力によって決まる、という意味が込められている(ちなみに、Makythは、Make を昔のスペルで表記したものだ)。日本で育ち、11歳から英国で暮らし始めた自分にとって、上流社会に身を置いてきた級友たちとの青春は、まったくもって逆境からのスタートだった。そんなアウェイな状況を打破した経験から、僕は思う。人生は生まれや、育ちで決まるわけではない、と。濃い人生を送れるかどうかは、自分自身にかかっている。この連載を通して、その奥義を、僕の実体験を踏まえて、できる限り語っていきたい。

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