限界を知らない男、モノ、コト――過剰なモノを愛し続けたゲーテ編集部が贈る特集「最上級事典2023」。妥協を知らないゲーテ流の最上級とは何か。今回は、リッツウェルのチェアを紹介する。【特集 最上級事典2023】
誰にも気づかれないそのステッチこそが喜び
ビジネスがカジュアル化した結果、紳士靴の売れ行きも落ちている。しかし、実はハイエンドラインやオーダー靴の需要は高まっている。何もかもが安く手に入る時代、あまつさえデジタル化によってモノへの興味が薄れつつあるなかだからこそ、人はかけがえのない技術への憧れを強めるのだろう。リッツウェルの新作は、そんな時代が求めるチェアといえる。
2011年に誕生した「リヴァージュ」。日本刀の反りに着想を得た背もたれや肘掛けのゆるやかなカーブが特徴となるひとり掛けのイージーチェアだが、2022年ハンドステッチシリーズを登場させた。革をすくい縫いしながらクロスさせる手間のかかる縫製は、強度を確保しながら美しさも楽しませる。ステッチを主張することで、技術力を誇示しているのだ。さながら、ジャケットのラペルで披露する美しいステッチといったところか。
派手な意匠ではないが、見る人が見れば感心するはず。自宅で使うチェアは披露する機会もさしてなかろうが、得てして美意識とはそういうものだ。誰に知られずとも、ただいとおしむ。たとえ自己満足でも、その喜びは誰にも奪えない。
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リッツウェル表参道 TEL:03-3423-2929