世界の富裕層の間で高い注目を集めるアンティークコイン。40年にわたってコイン販売専門店を経営し、日本におけるアンティークコイン収集の第一人者である大谷雄司氏が、資産性、アート性、歴史的価値などその多様な魅力を解説する連載の第3回。
権力の象徴として生まれたナポレオンコレクション
古の時代から権力者が魅せられてきたアンティークコイン。収集に留まらず、自らの肖像を刻んだコインを発行してきた統治者も少なくない。
「古来、時の権力者は戦争に勝利した際や自身が統治者となった際などに、記念のコインを造らせていました。発行枚数が少ない金貨は親族への贈呈のほか、戦いで手柄を立てた将軍への褒美、いわば勲章代わりに使われていたようです。銀貨や銅貨は流通用として大量に発行されましたが、写真のない時代はコインに自分の肖像を刻むことで、支配地域の民衆に、統治者はこんな顔をしているのだと知らしめる意味合いもありました」
代表格が、ナポレオン1世と甥のナポレオン3世だ。自身だけでなく、妻や兄弟など親族の肖像を刻んだコインをフランスやイタリア、スペインといった支配地域で発行したという。
「ナポレオン3世の末弟、ドイツ・ヴェストファーレン王、ジェローム・ボナパルトの子孫が受け継いできたボナパルト家コレクションを、1974年と1975年にオークションに出品。その多くが高値で落札されました」
コインを通して、かの英雄に想いを馳せる。そんな楽しみ方も、また一興だ。
Yuji Otani
1978年に外国貨幣の鑑定・販売を手がけるダルマを設立。自身も数千枚のコインを持つ収集家であり、著書に『あなたも虜になる アンティークコイン』(幻冬舎)等がある。