競走馬の「馬名」は、誰が、どのようにして決めているのか? 2020年秋、編集部は、馬主・松島正昭氏と武豊騎手による凱旋門賞壮行会の席に偶然同席。その際に、文豪ゲーテの人生訓と、その名を冠した雑誌のコンセプトに共感した松島オーナーの意向で、期待のディープインパクト産駒(牡馬)の馬名がゲーテ号に決定した。今回がデビューまでの道のりを追う隔月連載の最終回。
新馬戦は、ホロ苦デビュー。
2021年10月16日12時25分の阪神競馬場。
「ガシャン!」。
武豊ジョッキーが手綱を握るゲーテ号は、ゲートが開いた瞬間、反応よくスタートを切り、初めてのレースを走りだした。
他の馬が闘争心むきだしで先行争いをうかがうなか、ゼッケン13番のゲーテ号はずるずると後退……。武豊ジョッキーが必死に手綱を動かすも、それにまったく応えることなく、最後尾へと下がってしまった。そして闘う心を一度も出すことのないまま、涼しい顔をして1800メートル先のゴール板を駆け抜けたのだった。
父はあの偉大なるディープインパクト。母のプラスヴァンドームも、2番仔がフランスG1を勝利するなど繁殖牝馬としての実績を持つ。そして、誰もが知る武豊ジョッキーが鞍上(あんじょう)に乗った。そうした期待もあって、単勝オッズは4番人気という評価を得ていたが、結果は15頭中15着と、なんともほろ苦いデビュー戦に。かねて武幸四郎調教師が「いつもヒンヒン鳴いていて、おぼこく(幼く)感じている」と話していたように、競走馬としての幼さがそのままレースに出てしまった。
今夏を過ごした社台ファームでは、週4回は坂路に入り、2歳馬としては上位レベルとなる12秒台後半〜13秒台前半のタイムを連発。育成担当者の長浜卓也氏も「こういった記録をコンスタントに出しており、順調です。調教本数に比例して四肢の可動域が広がってきて、フォームに伸びやかさが出てきています」とその成長ぶりを評価していた。しかし、その一方で、同氏も「もう少し自ら出ていくような積極性が欲しいところ」と精神面の弱さを指摘していた。
武豊ジョッキーは、レース後に「一生懸命走ってくれたのですが、まだゲーテ自身が“競走”というものを理解できていなかったということ」と振り返るとともに「レースの感覚は、徐々に覚えてくると思います」と今後の成長に期待した。
デビュー戦の結果は気持ちいいほどの惨敗だったが、サラブレッドとして確かな第一歩を踏んだゲーテ号。武豊ジョッキーはこうも言った。「私の周りでも競馬界じゃない人から“ゲーテ号、いつデビューするの? どんな感じなの?”という声をいただくなど、反響は大いにありました。良血馬なので、いつかはこの馬で勝ちたいですね」
煌(きら)めく一等星になるべく、闘争心を灯し、走れ、ゲーテ号!