ベンチャー企業が次々に立ち上がり、“21世紀のゴールドラッシュ”の様相を呈している宇宙ビジネス。成長産業の筆頭といわれるが、その実態はいかに!? 業界の最先端にいるコンサルタント、投資家、エバンジェリストに話を聞いた。
A.T. カーニー ディレクター 石田真康
「各国が民間の参入を認め、国際宇宙競争が激化」
「世界の宇宙ビジネスの市場規模は、この10年余り成長を続け、このペースで進めば2040年代には約100兆円以上に達するといわれています。特に、米国において2000年前後から始まったビリオネアによるスタートアップ企業の創業と政府による商業宇宙政策の進展が起点となり、多様な企業による宇宙ビジネスへの参入が加速。その流れはさまざまな国へと波及し、『官から民へ』という『宇宙ビジネスのビッグバン』が起きたわけです。
国際的な競争が本格化するなかで、近年爆走中なのが国を挙げて全分野の宇宙開発を進める中国です。中国は宇宙ビジネスを行う企業への投資も、’20年は日本の約10倍超の1500億円。150社ある民間企業の7~8割が’15年以降のスタートアップです。米国、欧州、ロシアは今でも宇宙大国で、日本は国家予算規模という観点では5番手あたり。さらに、近年はインドなども成長しています。新規参入国としては、オーストラリア、英国、UAE、シンガポールなど。JAXAに相当する機関は、世界60ヵ国にあります。
こうして各国の動きが活発化すると、国際的な枠組み、法整備が必要になります。しかしながら1964年の宇宙条約以降は、各国間の思惑が色濃く出るため、新たな国際条約の合意形成が難しいのが現状です。一方、日本の国内法は、’08年に『宇宙基本法』が制定され、宇宙を使う・利用する転換点になります。そして、’15年に『第3次宇宙基本計画』が策定され、企業の参入が加速。そして翌’16年に『宇宙二法』、今年6月に『宇宙資源法』が成立。同法律により、民間企業が月や小惑星に存在するレアメタルや水資源の採掘・利用が、事前承認のうえで可能になりました。
加えて『宇宙安全保障』への関心も高まっています。欧米は昔から宇宙空間は安全保障領域と捉え、米国は測位衛星を軍が所有。とはいえ、宇宙軍を保有する国は、米国、フランス、中国など一部です。日本は宇宙空間の監視任務を目的に航空自衛隊のなかに宇宙作戦隊が新編されました。
最後に、未来のお話を。5Gの時代には衛星によるインターネットサービスが浸透しネット不毛地にネットワークをつくるなど、情報革命でインフラとしての新たな宇宙産業が生まれるはずです。宇宙分野は人材不足です。特に、国際的に売り上げをつくれる人、顧客開拓や事業開発など、ビジネス設計ができる営業的な人材は重宝されます。ぜひ、宇宙を舞台にビジネスをしてほしいと思っています」
Masayasu Ishida
1979年千葉県生まれ。内閣府宇宙政策委員会基本政策部会委員として宇宙産業振興を政策面から支援。著書に『宇宙ビジネス入門 NewSpace革命の全貌』がある。
SHIFT代表取締役社長・投資家 丹下 大
「未知の鉱物や素材など宇宙の資源に期待」
「僕が今、宇宙の何に関心をもっているかというと、いうならばUFOキャッチャーです(笑)。宇宙で見つかるかもしれない新しい資源開発分野に興味があります。昔、コロンブスたちが新大陸を発見して、新しい資源を手に入れたように、レアメタルなど地球上でも希少な鉱物や、人類がまだ見ぬ資源を見つけてUFOキャッチャーのように地球に持ち帰る。これまで、科学の発展を支えてきた118ある元素とは別の鉱物が宇宙で見つかれば、かつてなかった新しいものを開発できる。すると、ドラスティックなゲームチェンジが起きると思っていて、ここに大きな魅力を感じているんです。ジェフ・ベゾスが今年、宇宙を旅行しましたが、例えば彼が、宇宙ビジネスの新たな種を見つけてくれて大きなうねりが生まれれば、可能性が広がると思います。
ただ、今の日本の宇宙ビジネスは投資対象として市場がまだ小さいと感じています。堀江貴文さんたちが頑張っていますが、イーロンマスクのスペースXやジェフ・ベゾスのブルーオリジンなどに比べると、資金や規模の桁が違いすぎて、日本の個人投資家だけでどうにかなるレベルじゃないんです。確かに、宇宙産業が成長ビジネスであることは多くの人が理解していますし、個人的にも宇宙と医療は、未来に向けて成長性を強く感じる分野です。日本も年に30本ではなく、月に30本くらいロケットを発射する頻度とコスト感が達成されれば、ビジネスモデルが見えてきて、宇宙ビジネスは飛躍的に発展すると思っています。
そして何より、宇宙って夢があるじゃないですか。夢は応援したい。2019年に友人でもある堀江さんが手がけるインターステラテクノロジズの『MOMO 3号機』の命名権を購入したのも、夢への応援の気持ちが強かったですね。今最先端とされるITはいずれクルマや家電のようにコモディティ化します。そこに新しい鉱物発見や人類の拡張性といった宇宙産業がもたらす夢は大いにあります。そう考えるとワクワクしますよ。でも今は、まだパトロンビジネスとして莫大な資金力をもった人たちがお金を投下していくフェーズだと思います。かつてのコロンブスに資金提供したスペインの王様や大貴族みたいに(笑)。だから、実際に多くの人が宇宙に投資したり、宇宙でビジネスをするようになるのは僕の息子世代が叶えられるくらいのスピード感かもしれません。ですが、期待はとてもしています。夢を応援したいので、宇宙ビジネスのマーケットは注視していきます」
Masaru Tange
1974年広島県生まれ。京都大学大学院 工学研究科機械物理工学修了後、インクスでコンサルタントとして活躍。2005年にソフトウェア品質保証のSHIFTを設立。
宇宙エバンジェリスト®︎ 青木英剛
「日米が1時間程度で結ばれる日帰り時代へ! 大きな移動革命・物流革命が起きる」
「私は『宇宙エバンジェリスト』として10年ほど、宇宙ビジネスを広めるため、宇宙ベンチャー創業の支援やさまざまな企業の宇宙進出のコンサルティングを行っていることもあり、肌感覚で宇宙ビジネスの盛り上がりを感じています。信託銀行など資産運用している企業が宇宙ビジネスをポートフォリオに加えているくらいですから、今後も大きなトレンドになることは間違いないでしょう。
国際的な視点を持ちながら日本国内の動きを解説しますと、2000年代前半までの第2次宇宙ベンチャーブームでは、立ち上がった企業の多くが潰れてしまいました。’15年以降は人材の流動性が高まり、大企業やJAXA出身者がベンチャー企業を創業することで、資金が集まるようになります。日本の得意分野は高品質かつ低コストを実現している人工衛星技術で、宇宙ゴミの回収や人工流れ星をつくるといったアイデアは世界的にも珍しいものとして、注目されています。これらは、自動車産業が中小企業を育ててきた長年のものづくり文化がバックボーンにあります。ただ、のんびりしていたらダメ。すぐに抜かれてしまう世界です。
宇宙旅行を目指すエグゼクティブは多いと思いますので、宇宙旅行の未来についても。’21年はアマゾンのジェフ・ベゾスや、バージンのリチャード・ブランソンのようにプロ宇宙飛行士ではない人が宇宙飛行士になった『宇宙旅行元年』といえます。これまで560人ほどのプロが宇宙に行きましたが、この数年で宇宙に行く一般人がその数を超えるといわれています。’20年代後半から価格破壊が起き、数百万円で行ける時代が来ますし、数十万円の時代も夢ではありません。ロケット技術の著しい発展により、宇宙船を使って地球上の2地点を高速で移動する新しい移動手段も生まれます。日米が1時間程度で結ばれる日帰り時代が来て、大きな移動革命・物流革命が起きます。
こうした新時代に欠かせないのが宇宙港(スペースポート)です。現在、北海道、和歌山、大分、沖縄で稼働が予定され、多くの自治体が参入を検討しています。世界的に見ても30を超える誘致合戦が行われているくらいで、日本は国土が海に囲まれていて地の利があり、航空宇宙産業の先進国、観光大国であるため、アジアでは一歩リードしています。宇宙旅行や宇宙港により雇用を含めて、新しい産業が数多く生まれるはずです。今やっている仕事がそのまま宇宙での仕事になる時代はすぐそこまで来ています」
Hidetaka Aoki
1979年熊本県生まれ。宇宙船「こうのとり」を開発し、多くの賞を受賞。内閣府やJAXA等の政府委員を歴任。Space Port Japan、SPACETIDE共同創業者。
※ゲーテ11月号は、宇宙の最新事情を網羅した完全保存版!
Illustration=平田利之