香川真司選手の新刊『心が震えるか、否か。』が4月7日に発売となった。その制作年数はなんと11年弱におよぶ。担当編集者が香川選手から引きだした心の指針を明かした。
人生における明確な選択基準
2010年、香川真司選手がドイツへと移籍した。私はそのデビュー戦を見るべく、出張先のスイスからドイツへと向かった。スタジアム行きのトラムでは「日本人が何しに来た?」という圧を感じたし、ハーフタイムにトイレに行こうと思っても、でかいドイツ人に阻まれてなかなか前に進めなかったことを覚えている。
数ヵ月後、またドルトムントに行った。その頃、香川選手はチームの中心選手として、圧倒的なパフォーマンスを披露し、ドイツのサポーターを魅了していた。
「シンジ、すげぇな」
心が震えた。他の選手とは明らかに違うリズムを刻み、ゴール前付近で神出鬼没に動き回り、ゴールを陥れた。その時には、トイレにもスムーズに入れたし、スタジアムでは日本人を見ると「シンジ!」と声をかけてくる。状況はあっという間に変わった。「彼の本が作りたい」。
そう考えてから約11年。ついに香川選手の本が完成した。欧州で自身リーグ三連覇、日本代表でも長年10番をつけるなど、実績は十分な一方で、干された時もあれば、なかなかチームが決まらないというような不遇の時も過ごした。私は彼の経験を「次の世代にストレートに伝えたい」という編集方針のもと、時系列に掲載した。
サッカー選手を仕事にし、年齢を重ねていくと単純に「楽しみたい」「うまくなりたい」だけでは壁にぶち当たる。さまざまな選択肢が提示されるなかで、香川選手が仕事人として導きだしたのが「お金ではない。心が震えるか? 魂が揺さぶられるか?」だったのだ。
マーケティングではなく、選手として必要としてくれているか。この監督のもとでサッカーがやりたいか。常に自問自答し、納得することで前に進むべきだということを香川真司選手は提示してくれた。彼は言う。
「一見、華やかなキャリアに見えるかもしれないけれど、失敗や後悔だらけなんです。僕がもがいた姿を記すことで、誰かの糧になればいいな、と思っています」
人生は選択の連続だ。よく困難なほうに進めと言われることもあるけれど、香川選手のニュアンスは違う。
「名将ファーガソンは、僕が必要だと熱弁してくれた。だからマンチェスター・ユナイテッドに挑戦したんです」
心が震えるか、否か。香川選手の人生の選択基準は、そこにある。