世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム181回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。
【ミケルソンのようなロブショットを身に付けるには】
グリーン周りのアプローチで最も安全なのはボールを転がすことだ。「転がし」と呼ばれるロフトが立ったクラブを使うランニングアプローチなら、ウェッジでボールを上げるアプローチよりもトップやダフリのような大きなミスが出ることは少ない。グリーンに乗せることだけを考えれば、易しい状況ならパターで転がしたほうが一番安全にグリーンに乗せることができる。
しかし、グリーン周りはいつでもボールを転がせる状況とは限らない。目の前にバンカーがあったり、グリーンが高い位置にある砲台グリーンだったりと、どうしてもボールを高く上げなくてはならない状況がある。そのような難しい状況で「ここはボールをフワっと上げよう」などと考え、ピンを狙ったアプローチを打って痛いミスをした経験がある人は少なくないだろう。
このような難しい状況では、ボールを高く上げるロブショットの技術が必要になる。しかし、ロブショットは簡単な技ではなく、練習しておかなければ実戦で使うことは難しい。
PGAツアーでロブショットの名手と言われる選手はフィル・ミケルソンだ。ミケルソンはまるで手でトスをするような柔らかいロブショットを放ち、ピンチをチャンスに変えてギャラリーを魅了してきた。ミケルソンのロブショットがそれだけ賞賛されるのは、裏を返せばプロでも成功させるのが難しいショットだということだ。ロブショットは、難しいエリアから起死回生のリカバリーをするためのアプローチと言える。
ミケルソンのようにピンにピタリと寄せるロブショットはできなくても、練習をすればボールを高く上げてグリーンに乗せることはできるようになる。今回は打てるようになれば一目置かれる高度な技、ロブショットを打つための大事なポイントを紹介しよう。
【フェースを開いて振り切ることが大切】
ロブショットを打つためには、「アドレス」「フェースの向き」「振り抜き」の3つの要素が重要になる。
まずアドレスだが、ボールを上げるためにフェースを開いて構えることが欠かせない。サンドウェッジなどのロフトのあるクラブのフェースを限界まで開くと、フェース面は上を向き、リーディングエッジは右を向く。リーディングエッジが右を向いているとボールが右に飛んでしまうように感じると思うが、ボールは振り抜いた方向に飛んでいくので心配はいらない。フェースを開いて構える際、グリップしてから手を右方向にねじってフェースを開くのではなく、フェースを開いた状態のクラブをグリップするように気を付けてほしい。
そして、ボール位置は左かかとの延長線上に置き、クラブをフラットに振れるようにボールから少し離れて構える。
セットアップが完了したら、次に重要なのはスイング中のフェースの向きだ。普段のスイングと異なり、フェースを開いた状態でセットアップをしているため、スイング中にフェースの向きがわからなくなる人が多い。そのため、せっかくアドレスで開いたフェースをスイング中に閉じてしまう人がいる。特に、バックスイングのときにフェースの向きに違和感を覚える人が多い。リーディングエッジを目標に合わせた通常のアドレスの場合、バックスイングでシャフトが地面と平行になった時、リーディングエッジは後方から見て45度から60度になり、フェース面はやや地面の方を向く。しかし、フェースを開いて構えた場合、そのポジションでリーディングエッジの角度は140度ほどになりフェース面は上を向く。かなりフェースの向きが違うので、慣れ親しんだフェースの向きにしようと、開いたフェースを閉じてしまうことがある。しかし、それではせっかくフェースを開いて構えた意味がないので、開いたフェースの向きに慣れておく必要がある。
いきなり大きく振るとフェースの向きを意識しづらいので、最初は腰から腰までの小さな振り幅でフェースの向きを確認してみよう。バックスイングではフェースが上を向き、フォロースルーでもフェース面が上を向く。通常のスイングとはフェースの向きが異なるが、これがロブショットのときの正しいフェースの向きだ。この練習を行うときはグリップエンドを支点にして、クラブを振り子のように振るイメージでスイングをするようにしてほしい。
この腰から腰の小さな振り幅でボールを打てば、距離は出ないがふわりとボールが上がるはずだ。その感覚がつかめたら、徐々にスイングを大きくしていってほしい。
大きな振り幅では、バックスイングでは早めにシャフトを立て、グリップエンドを下に向けるようにする。左腕が地面と平行になったポジションでは、フェース面は自分のほうを向く。フォロースルーでも、同じように右腕が地面と平行になった時にフェース面が自分のほうを向く。このスイング中のフェースの向きをしっかりイメージしてほしい。
そして、最後に最も大切なポイントが、思い切ってヘッドを加速させながら振り切ることだ。ロブショットでは、思い切って振るとオーバーしたり、トップしてしまうのではないかと心配して、途中で緩んでしまったり、インパクトで止めてしまったりする人が多い。しかし、そのような中途半端な振りで減速しながらインパクトをすると、トップやダフリのミスにつながりやすい。フォロースルーを大きく取るイメージを持ち、フィニッシュまで振り切ることが大切なポイントとなる。
ミケルソンは距離がないロブショットでも、ドライバーショットを打つような振り幅で思いきり振り切る。フェースを開いていれば、ボールは前には飛ばずに上に高く上がることを理解しているので自信をもって振り切れるのだ。
思い切り振ることが大事だと言われても、なかなか勇気を出して振り切るのは難しいだろう。ロブショットをラウンド中に成功させるためには、普段の練習で何度も練習して自信を持つことが必要だ。ぜひ、ロブショットを身に付けて、バンカー越えのアプローチなど一見ピンチに思える状況をチャンスに変えてほしい。