世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム162回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。
【アプローチの片手打ちはすべての基本】
ゴルフ雑誌やインターネット動画などで、アプローチの練習法として片手打ちの練習が紹介されていることがある。片手だけでサンドウェッジなどのクラブを持ち、アプローチショットをするというシンプルな練習法だが、決して見た目ほど簡単ではない。中上級者のアマチュアでも、きちんと目標にボールを飛ばせる人は少ないだろう。
選手時代にツアープロが集まる合宿に参加した際、そこでトッププロとの差を痛感したのが、アプローチの片手打ちだった。プロなら片手打ちでボールを打つくらいはできて当たり前なのだが、トッププロは正確性が全く違った。あるツアープロは芝の上ではなく、難易度の高いバンカーから片手で20ヤードほどのアプローチをしていたのだが、毎回、「カツッ」という乾いた音を出しながらウェッジでボールをクリーンにとらえていた。私は片手でボールを打つことはできたものの、クリーンにボールをとらえることができず、10球に1回くらいしかそのような乾いた音を出すことができなかった。その後、ウェッジの溝が消えてフェースにくぼみができるほどバンカーからアプローチの片手打ちの練習をしたことで、アプローチが劇的に上達した。
この練習をしたことでアプローチが上達しただけではなく、アイアンのコントロールショットの精度も高まった。フルスイングの片手打ちでは、勢いに任せてボールを打つことができるが、短い距離の片手打ちでは体と腕をシンクロさせて体の動きでクラブをコントロールすることが求められるため、ショットにも良い影響を与えるのだ。
【片手打ちでは腕や手は使わない】
片手打ちの練習というと、「片手でボールをうまく打つ」ことが目的の練習だと勘違いする人が多い。もちろん、プロのように片手でボールを打てるようになるのが最終的な目標なのだが、単純に片手で上手くボールを打つことを目的にしてしまうと、腕や手でボールを当てにいくクセがついてしまうので気を付けたい。
この片手打ちの練習の目的は、腕や手を使わないでアプローチすることだ。片手でクラブを持っているが、手や腕を使わない「脱・手打ち」のアプローチを身に付けることが重要になる。手打ちのアプローチを脱却するためには、体の動きで腕や手、クラブをコントロールする「体と腕のシンクロ」を高めことが大事になる。体の動きに合わせて腕や手が動くというシステムと感覚を身に付けることで、再現性の高いアプローチをすることができるようになる。
片手打ちの練習をするときに大事なポイントは、体と腕の関係性を変えないことだ。脇を締め、腕が体の前に固定されたロボットのようなイメージを持って、腕を体の正面から外れないようにする。肘と胸の位置関係を変えないように気を付け、体の回転に合わせて腕が振られるようにする。よく腕は脱力したほうがいいと言われるが、この練習では脇をしっかり締め、上腕から肘まではできるだけ動かさないように硬く使っていい。手首やグリッププレッシャーは必要以上に硬くする必要はないのでガチガチにしないでほしい。
片手打ちのアプローチを練習するときは最初からボールを打つのは難しいので、まずは素振りから。練習は利き手ではないほうから行うといいだろう。右利きなら、普段使い慣れていない左手と体の同調性を高めて使うことでスイング軌道が安定する。SWなどの短いアプローチ用のクラブを持ち、腰から腰までの振り幅で、バックスイングを上げた位置とフォロースルーの位置を確認しながら行ってほしい。スイングの注意点としては、左足に体重をかけ、打ち終わった時におへそとクラブヘッドが目標を向くように胴体や下半身を積極的に使って回転する。
素振りで動きに慣れてきたら、実際にボールを打ってみよう。最初は15ヤードほどの距離にターゲットを設定し、キャリーで届くようにアプローチをしてみる。最初は練習場のマットでもいいが、上手くできるようになってきたら芝の上やバンカーなどから練習してみると難易度が上がるので試してみてほしい。
最初はぎこちない動きになって、うまくクラブを振ることが難しいかもしれない。しかし、練習の目的はボールをうまくとらえることやスムーズにクラブを振ることではなく、あくまでも体と腕をシンクロさせることだ。脇が緩んだり、腕や手首でクラブをコントロールしないことを一番の目標にして練習に取り組もう。
体と腕のシンクロはショットを打つときにも重要になるため、片手打ちのアプローチ練習はスイングの基礎練習にもなる。片手打ちのアプローチができるようになれば、両手でのアプローチショットの正確性が格段に上がることだろう。