役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!
死と隣り合わせのなか、自由を求める少女たちの眩いエネルギー
2020年も後半戦。今年はコロナ禍もあり、政治の方針が個人の生活に色濃く影響を及ぼす一年でした。若い時は政治に無関心だった滝藤ですが、政情が急激に変わる時ってどんな感じだろう? と興味を持って観たのが『パピチャ 未来へのランウェイ』です。
アルジェリアの歴史どころか場所すら知らなかったので、冒頭、主人公のネジュマとワシラ、ふたりの女子大生が寮を抜けだし、クラブに行くタクシーの中でジャージからドレスに着替え、メイクしながらキャッキャッしているのが微笑ましい。甘酸っぱい青春劇かと思いました。
ところが運転手の「検問だ!」の声で雰囲気が一変。軍人は銃を持っていて、一気に彼女たちの現状を突きつけられる。
時代背景は1990年代、アルジェリアの内戦時代です。長い間、フランス領だったアルジェリアは豊かな資源を有する土地ゆえ第二次世界大戦後もなかなかフランスが手放さず、ついには独立戦争が1954年に勃発。約8年かけてやっと得た自由が、今度はイスラム原理主義の台頭で失われようとしている。
特に犠牲を強られるのが女性たちです。顔と身体を覆い隠すヒジャブを推奨する動きが日々強くなり、ファッションデザイナーを目指し、服を通しての自己表現をするネジュマは耐えられなくなる。服が大好きな滝藤も急にこんなことを言われたら、耐えがたいと思います。そして恐ろしいのは、為政者の方針を受け、周囲が日々強権的になっていくこと。果てはヒジャブをつけないと命がないと平気で脅迫するように。
この男性優位の世のなかに徹底的に抗(あらが)うネジュマをはじめ、女子寮の友人たちの演技がとても生き生きとしていて、キラッキラに輝いている。魅入られます。敬虔(けいけん)なイスラム教徒なのに、結婚前に妊娠した女の子の処遇など、「いやー! どうなっちゃうの!! 」とハラハラしっ放し。聞けば、監督が18歳の時の体験を描いたそうで、30年経ってようやく映画化できたとのこと。自己表現が命がけなんて社会が来ないようにと褌(ふんどし)を締め直しました。
『パピチャ 未来へのランウェイ』
“暗黒の10年”と呼ばれる1990年代のアルジェリア内戦下。急速に女性の権利と自由に制限がかかるなか、ファッションショーの開催を目指すネジュマと友人たちの格闘を描いたもの。パピチャとは、魅力的で常識にとらわれない自由な女性を指す。ネジュマ役のリナ・クードリは本作の演技で売れっ子に。
2019/フランス、アルジェリア、ベルギー、カタール
監督:ムニア・メドゥール
出演:リナ・クードリ、シリン・ブティラほか
配給:クロックワークス
10月30日より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマント
ラストシネマ有楽町ほか全国公開