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2018.10.26

宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.7『おもひでぽろぽろ』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。

『おもひでぽろぽろ』レビュー

ぼちぼち鍋が美味しい季節になってきました。自分なんかは最初はゴマだれで肉と野菜を中心にこってり食べて、そこそこお腹が膨らんできた頃に、ポン酢で野菜としらたきをメインにあっさりいただいて腹具合をととのえていく……という、まぁ”味変え”を楽しむ食べ方をするのですが、このジブリレビューでも、ここらでちょっと味変えをしてみようかなと。

前回のラピュタでちょっと宮崎味(こってり)でお腹がいっぱいになってきたところだったのですが、読者の方から「高畑味っていうあっさりしたのがあるんだよ!」と教えていただいので、今回はそのなかでも、いかにもポン酢っぽいというか、大根おろしとか紅葉おろしが似合いそうな無害なタイトル「おもひでぽろぽろ」でジブろうと思います。

最近はありがたいことに、出先でよく「ジブリ童貞読んでますよ〜!」と声をかけていただくことも増えてきまして、この前は「次は『おもひでぽろぽろ』観るんですよ!」と笑顔で返すと、「……あ、そうですか……じ、自分ちょっと用事があるのを思い出したので……お先に失礼します……」と、大概どの人も反応が暗いんですね。これ、もしかしたら今回選んだ「おもぽろ」って、そこまでメジャーなジブリ作品でもないのか? とやや不安になってしまいました。

なので、知らない人もいるといけないから、一応先にザックリとしたあらすじを書いておきますね。

〔ザックリとしたあらすじ〕

都会生まれ都会育ちの主人公・タエ子は子供の頃から田舎に憧れがあり、27歳を過ぎた現在もそれは変わらず、姉の結婚相手の実家(山形の田舎)に今年も休暇を取って農作業を手伝いがてら遊びに行くことに。山形に向かう列車の中で、小学五年生だった頃の自分をふと思い出し、幼い頃の自分を連れてきてしまったような錯覚を感じるタエ子。山形に到着したタエ子は、親戚筋にあたる2つ年下の青年・トシオ(ギバちゃん)と出会い、トシオ(ギバちゃん)の包容力に少しずつ気持ちを寄せていくのであった。

……とまぁ、わりと地味ジブリなんですが、これが自分好みの大傑作だったのです。

大人向けのちびまる子ちゃん

飛空挺も森の主のクリーチャーも出てくることなく、どこかのオフィス街のビルとかコピー機が動いてるトレンディドラマの匂いが漂うシーンから始まるので、最初「何の話なんだ?」と、すっかり宮崎味に舌が毒されている私は、どう楽しんだらよいのかしばらく困惑して観ておりました。

その最初に思った「何の話なんだ感」はわりと中盤ぐらいまでずっと続くのですが、主人公・タエ子が序盤から回想しまくる幼少期、その過去と現在の見事な切り替え演出にすっかりのめり込んで見入ってしまい、気づけば時間が経っていた……という感じで鑑賞しておりました。

タエ子が思い出す過去パートの背景作画がとても良いんですよ、パキッとした写実的な現在パートの背景と描き分けてて、正月に地元の銀行とか農協でもらえるカレンダーのイラストみたいな、やけに頬がピンクの二人の童(わらべ)が、かまくらの中で餅焼いて食ってるだけのイラストみたいと言ったらいいのかな、とにかくタッチが淡くて優しい。

その淡い絵の中を人物が活き活きと動いてて、おぼろげな幼少期の記憶、その当時の感情だったり出来事そのものは強く心に残っているんだけど、背景まではクッキリとは覚えてないじゃないですか、その感じが映像から優しく伝わってくるんですよ。安易に回想シーンをセピア色とかにしないセンス、なんて繊細なんだ……鼻セレブの肌触りかよ。

その影響なのか、上映時間120分の間に3回ほど一時停止してトイレに行ったのですが(最近おしっこが近くて……)、便座に座ると(我が家は座りションがデフォルト)、無意識にボケーっと昔のことを思い出す作業が始まるんですね。

おまけ付きのお菓子をまだお菓子が家に残ってるのにも関わらず母親にねだっていたこと、奈良に転校することになった女の子のお別れ会でいきなりコメントを求められ、咄嗟に「奈良でバイナラ」って言ったら担任の先生におもいっきりぶん殴られたこと、インナーを見せる着こなし術をDBの孫悟空(青年期)の道着の重ね着から学んだこと……。

主人公・タエ子が思い出す記憶も、憧れていたパイナップルを初めて食べてそれが全然美味しくないとわかった日のこととか、めちゃめちゃしょうもない。でもそんなしょうもない回想をパイナップルの切り方から何からやたらと緻密に描写するんですね。

思い出はしょうもなければしょうもないほどセンチメンタルに発酵し、愛おしい記憶になる。そんなことを思い出させてくれる作品でした。

だからこれはあれですね、しょうもない思い出を溜めこんだ大人に観てもらいたい大人向けの『ちびまる子ちゃん』なんじゃないかなと。(ちびまる子ちゃんも時々大人に刺さる回があるけど……)

後述しますが、一周観終わって泣きました。この連載初のジブリ泣き。こんな傑作がマイナージブリだなんて信じられない……ただ、ちょっと気になるところが二点ほどありました。

大人になったタエ子のナンチャンみたいな頬骨が気になる

なんていうか……別に容姿のことにいちいち触れるのもナンセンスだから避けたいとこなんですが……大人になったタエ子が、ウッチャンナンチャンのナンチャンかよってぐらい頬骨がめちゃくちゃクッキリ浮きでるんですよ。

なんでだろ……子供の頃のタエ子は全然出てないのに、骨格変わった?ってぐらいクッキリと。別に頬骨が出てることは全然いいんですよ、なんなら嫌いじゃないです。ただなんで急に無かったものが? という点で気になっちゃって……。そうかと思ったらたまにその頬骨がふっと消える時があるんですよ。あぁよかった……安心安心……あれ?! また頬骨出た! ……え? おばけ? 頬骨のおばけ? ってぐらい、何周観てもタエ子の頬骨に翻弄されてました。

一体なぜ……

ギバちゃんが登場してから一気に27時間テレビのちびまる子ちゃんスペシャル回みたいな空気に変わる

山形でタエ子が出会う異性・トシオなんですが、これが完全に声の出演のレベルを超えてギバちゃん(柳葉敏郎さん)なんですよ。あの欽ちゃんファミリーの、一世風靡セピアの、踊る大走査線の室井さんでおなじみの。

見た目も動きもモーションキャプチャーでモデリングしたの? ってぐらい「ギバ度」がむっちゃくちゃ高い。ほっぺたを内側から舌で押すしぐさこそしてないですが……いや、してたかも?と疑いたくなるぐらい。

当時劇場で観た人はどう感じたのかわかりませんが、「おもぽろ」以降のギバちゃんの活躍を知っている自分には、最初トシオが出てきたとき実写のギバちゃんが合成技術を駆使して乱入してきたのかと思ったぐらい不自然で笑ってしまいました……。

ギバちゃんをトレースする技術が当時あったのかどうかわかりませんが……

トシオa.k.a.ギバちゃんが登場して、作品内の空気がしばらく変化してました。例えるならあの空気です、フジテレビ27時間テレビ内で放送されるちびまる子ちゃんのスペシャル回、あれに桑田佳祐さんとかの著名人がゲストキャラクターとして登場した時のあの感じ。

……でも大丈夫、内容が素晴らしいからすぐに気にならなくなって、ギバちゃんは馴染んでくれました。

……気になったのはそれぐらいでしょうか(山形の農家の人たちの農作業中の笑顔がちょっと怖かった気もしましたが、忘れることにしました)。

ジブリ童貞から見た宮崎駿監督と高畑勲監督

自分のようなジブリ童貞から見た、宮崎駿監督と高畑勲監督のイメージの違いについて、いつものようにジブリエッセイ漫画にしたのでご覧ください。

結論:エンドロールでジブリ泣きしてほしい傑作

田舎に憧れていたタエ子は、「トシオと一緒になってやってくれ」というトシオのお婆ちゃんからの提案をきっかけに、子供の頃の自分のズルいところを思い出したり、田舎への憧れがただのファッションなんじゃないか? と思い悩み始めます。

この思い悩む部分がものすごいよくわかるんですね。回想シーンのなかでも触れてるんですが、「分数の割り算の計算方法を、何の疑問も持たず言われたとおりそのままこなしてクリアできる人間と、そうでない人間の違い」というテーマ、これに尽きるんですが、タエ子はこの後者で、納得できないと前に進めないタイプなんですね。タエ子、お前……俺かよと。俺、頬骨出てないけど……わかるよその気持ち。俺も美術館とか野外フェスとか行く時、ただのファッションなんじゃないか?とか、どこかでSNS映えするかどうかを考えてるんじゃないのか? と悩んで、結局当日億劫になったりするんだよな……素直に楽しめる人が羨ましいよね……痛いほどわかるよ、タエ子。

トシオへの気持ちに気付きながら、悶々としたものを抱えたまま東京行きの電車に乗るタエ子。

これがラスト、エンドロールで都はるみさんによるカヴァー「The Rose(邦題:愛は花、君はその種子)」が流れ初めてから、穏やかに優しく爆発するんですね。幼少期の思い出たちがタエ子の背中を押すんですよ。自分だったらそのまま帰っちゃうんですが……その様子を見てて思わずジブリ泣きしてしまいました。ここで映画館を後にした人、1800円の内の1500円は損してますよ、17年前の話でなんですが……。

他にも細かいところでたくさん良いところあります、給食の時間に食パンに穴あけてそこから覗く男子、手袋の右と左をつなぐ毛糸の紐、スイカのタネのまわりのちょっと濃くなっている色とか。でもキリがないのでこのぐらいにしておきますが……とにかくエンドロールの演出だけでも観てほしいです。(それだけだとさすがに意味わからないか……)

さて、次回のジブリレビューは?

次回はまた宮崎作品に味戻ししようと思っております。次に観るべきあなたのおすすめ作品を教えてください。ツイッターやfacebook、Instagramなどで「#ジブリ童貞」のハッシュタグをつけて投稿していただけたら嬉しいです。参考にさせていただきます。

ちなみに今回までのジブリ童貞主観ランキングはこちらです。

1位:もののけ姫

2位:トトロ・おもひでぽろぽろ

4位:千と千尋

5位:ナウシカ

6位:紅の豚

7位:ラピュタ

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