連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『スティーブ・ジョブズ』を取り上げる。
スリリングな怒濤の会話劇。 一時も目が離せない!
昨年、『破裂』というドラマで、クレイジーな方法で高齢者を減らそうとする官僚を演じました。その時、役の参考に、ある革命児の遺した言葉を台本に記した滝藤です。それは、「クレイジーな人たちを称えよう。はみ出しもの、反逆者、トラブルメイカー、彼らは四角い穴に丸い杭を打ちこむ。彼らを無視することはできない。なぜなら彼らは物事を変えたからだ」というもの。
この発言者のとんでもない面を余すところなく伝えた作品が、この『スティーブ・ジョブズ』。僕は彼がこんなに“欠けている”人とは知りませんでした。娘への愛情もなければ、仲間への感謝も、自身でマシンを生み出す技術も知識もない。あるのは人を驚かす発想と、絶対に実現するのだという妄想に近い信念だけ。とてつもなく頑固で偏屈者。
共同創業者のスティーブ・ウォズニアックがジョブズに「才能と人格は共存できるはずだ」とキツく言い放つ場面がありますが、僕の知る限り、天才は何かがあからさまに欠落しているような……(笑)。
その天才を完璧に支えているのがケイト・ウィンスレット演じる秘書のジョアンナ。仕事に関しては、でしゃばらず、ジョブズがベストをつくせるよう奔走。一方で彼の親としての姿には意見を言う。彼女なくして成功はなかったのではないかと思わせる存在感。僕もわがままで面倒臭いタイプですから、ウチのスタッフもきっとこんな風に日々奔走してくれているのかなと感じました……。この場を借りて感謝申し上げます(笑)。
映画は3つの発表会の舞台裏で構成され、ほぼ1シチュエーション。飽きるかと思いきや、食い入るように観てしまうのは、すごいテンポで全編しゃべり倒しているから。怒濤の会話合戦はスリリングで緊張感があり、一時も目が離せない。やはり、偉人の裏側を見るのは面白い!
散々、嫌な奴っぷりを見せつけながらも、でかいウォークマンを腰にぶらさげている娘に「将来、ポケットに音楽を入れられるようにしてやる」と言って、実現しちゃうんだから。ジョブズ、やっぱカッコいいよなぁ。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!