歴史ある名車の"今"と"昔"、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!
LEGACY REVOLUTION TOURING
1990年代、クルマ好きのパパたちの魅了したのは、スポーツワゴンと呼ばれる高性能なステーションワゴンであった。もちろん、それまでもステーションワゴンは存在していたが、欧州車のようなロングドライブを意識したグランツーリスモではなく、荷物がたくさん積めるクルマのひとつに過ぎなかった。
そのイメージを打破したのが、1989年に登場したレガシィツーリングワゴンである。その名の「ツーリング」が示すように、長距離移動を楽しめるワゴンに仕上げられていたが、そのトップグレードには、高性能セダン「レガシィセダンGT」と同じ最高出力200psの2.0L水平対向4気筒DOHCターボをを搭載。これまでのワゴンの概念を覆す、かっ飛びワゴンの誕生であった。家族を犠牲にせず、自分の欲求も満たせる高性能ワゴンは、パパたちの強い味方になったのである。
この流れに、国産他社も追従。「トヨタカルディナGT-FOUR」、「日産ステージアRS FOUR」、「ホンダ アコードワゴンSIR」、「クラウンエステートアスリートV」などのマニア好みのスポーツワゴンが続々と登場することに。しかし、時は流れ、ワゴンブームも終焉を迎える。エコカーブームに加え、現在のSUVブームの走りとなる都市型クロスオーバーSUVが人気を集めたのだ。レガシィ自身も、メイン市場となる北米にターゲットを絞り、ボディサイズを拡大。引き続き、高出力ターボエンジン搭載車が用意されるも、少しトーンダウンした感は否めなかった。
それを歴代レガシィユーザーも良しとせず、期待するほど代替も進まなかった。そこで高性能なスポーツワゴンの魅力と日本にリサイズされたボディを組み合わせた新モデルが企画される。それが2014年発売の初代「レヴォーグ」であった。レヴォーグは独立した車種ではあるが、その名の由来は「LEGACY REVOLUTION TOURING」から生まれた造語であり、レガシィの系譜を受け継ぐ一台であった。
見た目はオールド、走りは最先端の第2世代
そんなレヴォーグが、2020年に第2世代に進化。今や国内唯一のスポーツワゴンとしての伝統的価値に加え、時代のニーズを取り込むべく、「先進機能、スポーティ、ワゴン価値」の3つを柱に従来型を大きく上回る超革新モデルが目指された。その伝統的価値であるスポーティさの表現は、かなりオールドファッションだ。直線的で低いシルエットやターボ車を示すボンネットのエアインテークなどのアイコンは、フレッシュとはいえない。でも、それが良い。それこそがファンが、レヴォーグに期待し、求めるものだからだ。
もちろん、クルマの基本となるメカニズムは最新式にアップデート。全面刷新と言える内容だ。まずプラットフォームは、最新世代に採用される「SGP」に早くも手を加え、「SGP×フルインナーフレーム構造」へと進化させ、ボディ剛性を強化させた。エンジンは御約束の水平対向4気筒ターボであるが、新開発の1.8Lエンジンに換装。お財布にも優しいレギュラー仕様である。サスペンションも、新開発のもの。特にトップグレードのSTIスポーツには、専用開発の電子制御可変ダンパーを装備。車内のボタン操作ひとつで、ダンパーの特性を変更できるものなのだが、スバルでは、これをキャラ変ダンパーと呼び、1台で複数台所有の満足を叶えるというからユニークだ。
時代が求めるスバルの先進運転支援機能といえば、お馴染みの「アイサイト」だが、もちろん全車に標準化。新型レヴォーグでは、最新世代へのアップデートに加え、高速道路及び自動車専用道路での高度な運転支援を実現させた「アイサイトX」を初採用。高精細マップと高精度GPSの組み合わせで、ドライビングアシスト機能の質をより高め、まるで運転上級者の運転を彷彿させる自然なドライビングアシストにまで成長させているのが大きな特徴といえる。
そんな先進のスポーツワゴンに仕上げられたレヴォーグの走りは一級品だ。一言でいえば、意のままに動いてくれる。まるで自分の運転が上手くなったように思えるほど。その印象は決して間違いではなく、クルマの運動性能を鍛えたことで動きがリニアとなり、ドライバーに伝わるインフォメーションも的確なので、最適な操作が可能となるため。だから、クルマとの一体感が生まれ、それが運転のスムーズさに繋がる。これも優れたプラットフォームに大幅改良を施した成果のひとつだ。
噂のキャラ変ダンパーは、5つのモードが選べるが、最も分かり易いのが、「コンフォート」と「スポーツ+」。「コンフォート」は、サスペンションの動きがしなやかになり、乗り心地もソフトに。まるで高級サルーンのよう。対局となる「スポーツ+」は、サスペンションが引き締められ、スポーツカーのような機敏な動きを見せる。ただ「スポーツ+」でも荒っぽさはなく、大人の味付けだ。従来型レヴォーグもスポーツカー的であったが、同時にハードさや荒っぽさを感じる一面も……。ところが、新型ではスポーツ性を高めながら、粗野な部分は皆無。その素性の良さがキャラ変を楽しませる隠し味となっている。
そして、ロングドライブでの高速渋滞に疲れたら、アイサイトのドライビングアシスト機能が活躍。アイサイトにも自動運転レベル2の「ツーリングアシスト」が備わるので、そのアシストは心強いが、アイサイトXなら、さらに一歩踏み込み、コーナー前の減速とコーナー後の速度回復、50km/h以下でのハンズオフ、つまり手放し運転も実現。さらに車線変更時のステアリングアシスト「アクティブレーンチェンジアシスト」も加わる。運転の主体がドライバーである点は変わらないが、アシスト領域が拡大することで、安全性を高めてくれる。その価値は、既に多くの人に認められており、アイサイトが全車標準にも関わらず、オーダーの9割がアイサイトX搭載車を占めるほど。
そんなレヴォーグの魅力は、最新技術を積極的に取り入れた高い安全性にもあるが、同時にドライバーの運転する楽しさを奪わないところだ。主役は、あくまでドライバー。だからこそ、スバルのスポーツワゴンとしての系譜を守り、高価格帯でありながら、今最も売れるスバルとなっている。スバルにもXVやフォレスターというSUVがあるにも関わらずだ。その秘密は、単に最新というだけでなく、歴代レガシィで昇華させた走る楽しさと高性能というスパイスにあるのかもしれない。時代は流れるとも、スバルのスポーツワゴンの伝統はしっかりと息づいているのだ。。