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2020.11.17

アウディ「e-tron」は、華やかな見た目とは裏腹にかなり真面目な性格のEV【クルマの教養】

歴史ある名車の”今”と”昔”、自動車ブランド最新事情、いま手に入るべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から”クルマの教養”を伝授する!

日産リーフのような現実的なEVも存在するが、同クラスのエンジン車と比較すれば、それでも割高。だからこそエンジンで発電し、モーターで走る日産の「e-POWER」は大ヒット中だ。因みに「e-POWER」もハイブリッドカーのひとつである。裏を返せば、それだけ世の中の電気で走るクルマ、つまりEVへの関心が高まっているということだろう。ただEVがお手頃な存在となるのは、まだ先のこと。最大の課題は、コストともいえる。でもコストのことを棚に上げれば、モーターの強みを活かした新しい高性能車の世界を味わうことができるのだ。2020年9月に上陸したアウディのEV「e-tron Sportback」も、そんな高性能EVの一台だ。

早くからLEDライトや液晶ディスプレイメーターを積極的に取り入れるなど先進的なイメージが強いアウディだが、EVの日本導入は、同車が初となる。近年の積極的な自動運転技術の開発からも分かるように、歴史的にもEVの研究開発も重ねてきた。完璧主義のドイツ車らしく満を持しての登場ということなのだろう。

高性能EVには、高出力モーターと大容量バッテリーがマスト。当然、価格とボディは大きくなる。アウディe-tron Sportbackは、ディサイズが全長4900mm×全幅1935mm×全高1615mmのミッドサイズSUVで、アウディSUVのなかだとミッドサイズのQ5とラージライズのQ7の間に収まる。

サイズも大きめだが、クーペライクなSportbackの低いスタイルが、よりワイドな印象を強めている。アウディらしいクールなマスクと相まって、かなりスポーティなクルマに映る。EV専用の意匠も取り入れられているが、一目でEVと気がつく人は少ないはずだ。おそらく、その意図は、エンジン車と同様、それ以上のパフォーマンスを提供しいるという自信の表れや自然にEVを生活に溶け込ませてほしいという想いもあるのだろう。

e-tronには、前後に二つの高性能モーターを搭載。基本的には後輪モーターが主役となり、路面状況など必要に応じて前輪モーターを駆動する4WDだ。アウディは、クワトロと呼ぶ独自の4WDシステムを持つが、その知見を活かした新しい4WDとなる。

電気モーターは0.03秒で力を伝達できるようになるというから、後輪駆動と4WDの切り替えが瞬時に行うことができ、とても効率的なのだ。2個のモーターを備えるシステムの最高出力は、300kW。馬力換算だと、約408psにもなる。最大トルクは664Nmを誇る。数字だけで見ても凄さを感じるが、実際に、2560kgもある重量級ボディを、5.7秒で停車状態から100km/hまで加速させることができるという。駆動用バッテリーは、95kWhの大容量リチウムイオン電池を搭載し、最大航続距離は405km(WLTCモード)を確保する。もっともこれだけの大容量バッテリーを備えるので、一気に充電するとなると、相応の時間が必要となる。やはりスマホのように、帰宅後の充電が日課となるのは、高性能EVにも当てはまりそうだ。もちろん、急速充電にも対応しているので、出先で充電ステーションに立ち寄れば、問題はない。ただ現時点で気軽に満充電とはいかない。これは急速充電器の出力に加え、1回の使用時間が約30分と制限されるのが一般的ということがある。

インテリアは、アウディ最新世代のコクピットデザインを採用。フルデジタルメーターパネル「バーチャルコクピット」と2つのタチスクリーンで構成されるインフォテイメントシステム「MMIタッチレスポンス」が備わるのは、最新アウディと共通。ただシフト回りのデザインがe-tron専用となり、象徴的なアイテムとして前後スライド式シフトレバーがセンターコンソールに収まる。シートレイアウトなどは、一般的なものでフロントにはスポーツシートを標準化。キャビンも広々しているので、快適性も高い。

また駆動用バッテリーはフロア下なので、ラゲッジスペースもたっぷりと確保されている。当たり前だが、電気自動車なので、スタートボタンを押しても静か。おしゃべりなラジオだけが車内を賑わせる。シフトを「D」に入れ、アクセルを開けると音もなく、スルスルと動き出す。立ち上がりから高トルクを発生するモーターの恩恵で、サイズの割に動きは軽快な動きを見せる。アクセル操作にもリニアに反応するので、サイズの割に取り回しも良い。普段は行儀がいいので、世に溢れる高級・高性能SUVのような迫力はない。しかし、加速時には本領が発揮される。ガツンとアクセルを開けると、瞬時に矢のような加速を見せる。それも静かに。まさにワープ感覚だ。

唯一、個人的に馴染めなかったのが、デジタル式ドアミラー「バーチャルエクステリアミラー」だ。フロントドアから延びるアームに内蔵されたカメラ映像を、左右のドアパネル内に設けられたモニターに表示するのだが、確認のためには、ほぼ目線を真横にしなくてはならない。カメラ映像なので、視界が悪い状況でも明るさを調整できるなどのメリットはあるが、この視線移動は不自然に感じる。まだまだ進化の余地がありそうだ。

e-tron Sportbackは、華やかな見た目とは裏腹に、かなり真面目な性格のEVだと感じた。他のエンジンつきのアウディと変わらぬ使い勝手に、EVが得意とする静粛性と俊敏な加速を身に着けている。その一方で、まだユーザーが求めるEVを所有するという特別感は薄めにも思う。この点は、先進的なクルマ作りを心がけてきたアウディならではの悩みだろう。

ただユーザーが特別感を求めているのは、ほとんどのe-tron Sportbackがデジタルドアミラー(バーチャルエクステリアミラー)を選んでいる点からも伺える。今後、EV普及は緩やかに進むだろうが、高性能EVは特別な存在であることに変わりはない。それをアウディが演出してくれるのか、期待が膨らんだe-tronとの初ドライブだった。

TEXT=大音安弘

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