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ART

2022.05.03

作品集の”特装版”はお値段以上の価値がある──鈴木芳雄 連載「アートというお買い物」Vol.4

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が、”買う”という視点でアートに切り込む連載第4回。アートをコレクションしてみたい気持ちはあるけれど、一体なにを買えばいいのだろう。そんなビギナー必見の、”間違いのない”買い方とは? 【連載 アートというお買い物はこちら】

近藤亜樹01

アートコレクション入門に”間違えのない”特装版

アートをコレクションしてみたいけれど、何をどう買ったらいいのかわからない。美術館にはときどき行くけれども、ギャラリーはなんだか敷居が高いし、慣れないと怖い気もする。

「コレクター入門」みたいな記事を読むと、「作品は自分が好きだと思えるものを買えばいい」とか書いてあるけれど、ほんとに好きなのか、もっと好きなものがどこかにあるんじゃないだろうか、ずっと好きでいられるんだろうかとかも考えてしまう。(いや、恋人選びの話ではないですよ)

そういうアートコレクション入門にまず、間違えのない方法を教えよう。しかもリーズナブルな予算で大丈夫。

それは、アーティストの作品集の特装版を買うこと(キッパリ)。アーティストが作品集を出版するとき、限定部数で版画が付いていたり、写真家だったら、オリジナルプリントが付いているものを出版することがよくある。もちろん、作品集単体に比べて価格は高いし、一般的にギャラリーで販売されるものよりも小さい作品が一緒にセットされているけれども、作品を単体で買うよりも安価だ。

しかも、作品集を出版するほどのアーティストなのだから、それなりにすでに売れて、有名になっているか、なりかけている。

近藤亜樹02

特装版はこのセット。左から、クロス貼り特製函、1点ずつ描き下ろした「A Hundred Flowers」(紙にアクリル)、作品集『ここにあるしあわせ』(T&M Projects刊)

最近、企画されたそんな特装版の中で特に紹介したいのが、〈「A Hundred Flowers」描き下ろし作品付『ここにあるしあわせ』特装版 | 近藤亜樹〉である。画家、近藤亜樹の作品集『ここにあるしあわせ』の通常版は¥5,500だが、これに描き下ろしの花の絵を1点ずつ収め、クロス張りの箱に入れた特装版が¥77,000で100個販売された。

エディションもの(限定数を明記した版画や写真作品)が同梱されている特装版はときどきある。絵画作品が付いている場合、せいぜい3〜10点くらいの限定という例はあるかもしれないが、100点も揃っているというのは珍しいし、だから比較的リーズナブルなプライスである。

このスペシャルな企画を実現できたのは、特装版のために100点の絵を描き切った画家の力量の賜物だろう。近藤はまだ、30代、これからますます活躍が期待される画家だ。そんな彼女の作品付き画集をお薦めしておく。

近藤亜樹03

付属する絵は1点1点すべて異なる。 Photo: 古谷利幸

その画家、近藤亜樹について触れておこう。

2012年に東北芸術工科大学大学院を修了し、現在山形を拠点として活躍するアーティストだが、在学中から才能を見出され、絵画はもとより、建築や音楽とのコラボレーションや映像作品にも力を発揮してきた。大学院在学中に起こった東日本大震災の影響も強くあり、彼女の絵は「生きる」ことを最大のテーマにしているようだ。

活動の拠点とする山形にある山形美術館で個展「近藤亜樹 ─星、光る」が開催された。そのときに出品された大きな作品がこれである。

近藤亜樹04

近藤亜樹《星、光る》2021 acrylic on panel 227.3×545.4cm
山形美術館「近藤亜樹 ─星、光る」(会期終了)にも出品されたが、2022年8月6日(土)から始まるWHAT MUSEUM開催の
OKETA COLLECTION 「YES YOU CAN –アートからみる生きる力–」展でも見ることができる。
Photo: 奥山茂俊 © Aki Kondo, Courtesy of ShugoArts

ヴィヴィッドな色使いで、生命力あふれる植物や動物、そして裸の人物が描かれている。確かに生きることを謳歌している絵である。

近藤亜樹05

『ここにあるしあわせ』(T&M Projects刊)より

近藤亜樹06

『ここにあるしあわせ』(T&M Projects刊)より

近藤亜樹07

『ここにあるしあわせ』(T&M Projects刊)より

近藤亜樹08

『ここにあるしあわせ』(T&M Projects刊)より

さらに、戦後日本美術研究者で府中市美術館学芸員の神山亮子氏の文章を引用させていただく。

「近藤は、現実の出来事をその身に受け入れる手段として、描いているようにみえる。そして現実でありながら、あたかも太古の神々が住むところで起こったかのように出来事を描き上げるのだ。彼女は、目の前に起こる自然や人間の事象を、その都度、出来事の起源へと遡るようにして眺めていて、そのことを絵にする術を持っている。したがってその絵画は、私たちにとっても世界の根源に触れ、出来事の成り行きを納得させられてしまう体験として、存在している。」(近藤亜樹『ここにあるしあわせ』所収「近藤亜樹 現代の神話」)

近藤は今年、2022年7月30日から10月10日まで愛知芸術文化センター等で開催される国際芸術祭「あいち2022」の出品作家となっているほか、WHAT MUSEUMで2022年8月6日(土)〜10月16日(日)に開催されるOKETA COLLECTION 「YES YOU CAN –アートからみる生きる力–」展でも作品が展示される。

Aki Kondo
1987年北海道生まれ。山形県在住。2012年東北芸術工科大学大学院を修了後、国内外の展覧会に多数参加。躍動感あふれる筆遣いと力強い色彩の作品とともに、油絵アニメーションと実写による短編映画「HIKARI」(2015)や、パークホテル東京の客室「おたふくルーム」(2015)の制作、音楽家とのライブペインティングなど、形式にとらわれない活動で注目される。主な展覧会に「近藤亜樹─星、光る」山形美術館(2021年、山形)、作品集刊行記念展「ここにあるしあわせ」シュウゴアーツ/フィリップス東京/現代芸術振興財団/代官山蔦屋書店(2021年、東京)、「高松市美術館コレクション+身体とムービング」高松市美術館(2020年、香川)など。

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。

問い合わせ
シュウゴアーツ
TEL:03-6447-2234  info@shugoarts.com

 【連載 アートというお買い物はこちら】

TEXT=鈴木芳雄

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