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ART

2020.12.11

森田恭通×田辺良太対談 経営者のためのアートの作法【前編】

国内外問わず多くのプロジェクトを手がけてきたデザイナーの森田恭通氏。多くの企業のトップと肩を並べてきた氏曰く、「経営者には美的センスが必要」。そんな森田氏が美意識と経営の相関関係を探る連載。今回はその森田氏がここ10年ほど、世界中のアートフェアを一緒に回るというWHITEWALL代表でアートプロデューサーの田辺良太氏と対談を敢行。多くの経営者とも付き合いのあるふたりが声を揃えていうのが「経営者こそ、アートにもっと触れるべき!」という意見。その真意とは?

アートの多様性

森田 もともと良太くんとは、Francfrancの髙島郁夫さんの紹介で知り合ったんだよね。17歳で渡米し、80年代のもっともニューヨークがクレージーだった時代に現地でアートの勉強をしながら暮らし、今や日本の企業とアーティストの橋渡しをすることもある人。僕らアート好きの仲間が10年ぐらい通っている、世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」にいつも帯同してくれて、作品の解説や価格のことまでアドバイスしてくれる。僕はGoogleさんと一緒にアートフェアを見に行っている感じです(笑)。

田辺 Google ね(笑)。

森田 いろいろなアーティストや時代を教えてもらって、ある意味、僕がアートの世界で一番信用できる友人だと思っています。

田辺 それはありがとうございます。そもそもアートには、知的なものとして楽しむアートもあれば、投資目的のアートなど、いろんな側面があると思うんです。最近は現代アートの世界でも、人気の作家の作品が考えられないような値段になってきましたね。

森田 ジェフ・クーンズの『ラビット』が約100億円で落札されたりするものね。

ジェフ・クーンズ Rabbit 1986 © Christie’s Images Limited 201

田辺 彼も現代アートを盛り上げたひとりですからね。今や芸術は「こんなもの、誰が買うの?」というコンセプトを知らなきゃ理解できないものまで、領域が無限に広がっています。

森田 ダクトテープで貼ったバナナとか(笑)?

田辺 あれは驚きましたね。

森田 去年のマイアミのアートバーゼルで、12万ドルぐらいで売れたんでしょ?

田辺 実際買うと、作品の証明書と設営の仕方と銀のテープが届くらしいですよ。バナナは各自でどうぞと(笑)。3エディションぐらい売れたのかな。イタリア人のマウリッツィオ・カテランというアーティストなんですが、彼の作品はコンセプチュアルアートに近く、この作品はあちこちに話題になりました。バンクシーもそうですが、最近はアートと人々との生活が混ざってきた気がします。衝撃となった作品はどんどん話題になり、人の目に触れてほしいと思います。

森田 そういう意味では写真の展示もいろいろだよね。

田辺 ウォルフガング・ティルマンスでしょ? 縦2.4mのプリントがクリップで直接壁に貼られているんす。つまり額装されていないから、写真がいつか色褪せたり、破れたり、汚れたりする。だからデータも一緒に渡され、何度好きにプリントしていいという証明書がついているんです。

森田 写真をやっているものからするとデータを渡すなんて信じられません。

田辺 ティルマンスにもコンセプチュアルな側面があり、写真というものの存在は何か? と常に考えている人。そうなると作品より、証明書のほうが大事になってきていますね。

森田 それはアートにおける新しい時代ですね。

アートは巨大なビジネスマーケット

田辺 森田さんが注目しているギャラリーはどこですか?

森田 僕は大きなアートフェアでは必ず「ガゴシアン」に行く。「ガゴシアン」が認めたということは、世界中のコレクターが持っているものだから。

田辺 「ガゴジアン」、「ペース」、「ハウザー&ワース」は今や世界的に有力な3大メガギャラリー。あとはロンドンの「ホワイトキューブ」や「デビッド・ツヴィルナー」………。

森田 「ペロタン」もメガギャラリーのひとつだね。

田辺 はい。先ほどアートの領域が広がっていると話しましたが、そこには非常にインテレクチュアルな評論家やキュレーターという人たちが絡んでいて、ひとつのビジネスやマーケットとして成立しているんです。実際、欧米ではアートがとても大きなビジネスマーケットでもありますからね。現代アートのコレクション所有数でいうと、まずはUBS(スイス最大の銀行)で、次がドイツ銀行、その次がルイ・ヴィトングループなんじゃないですか?

森田 しかも彼らは持っているもののレベルが違いますよね。

田辺 世界各地で開催されるアートフェアは、これらの銀行がスポンサーのものが多い。各銀行にはアートを投機物件として紹介するためのアートの専門家チームがいて、そういう人たちが世界の富裕層のためにアートフェアを開催し、売買を成立させている。そのあたりの道筋の作り方やシステムがすごいと思います。

成功している経営者ほど、日常のなかにアートの存在がある

森田 ゲーテでもよく特集を組んでいますが、男の趣味はたいていクルマや時計、ワインなどに始まりますよね。でも仕事が成功し、経営者として事業を軌道に乗せた人たちが次に目をつけるのが、別荘や新しいオフィスなんです。その際にアートの存在が身近になってきているようです。

田辺 上質な空間づくりのひとつとしてアートを選ぶわけですね。

森田 そう、アートに触れるきっかけのひとつ。だから日本の経営者の皆さんもアートを好まれる方が増えてきました。最初はアンディ・ウォーホールのような有名なアーティストの作品から入る人も多く、そこからいろいろな作家をコレクションしていき、次にシリーズとしての作品を買ったり、自分の好みが見えてくる。そういう経営者が少しずつ増えてきた印象を感じます。

田辺 そういう方々から相談を受けることもありますよ。

森田 僕らのアートフェア仲間、フランフランの髙島さんのように無類のアート好きで、オフィスやご自宅にドーンとアートを飾るような方もいれば、GMOインターネットグループの熊谷正寿さんのように美術館が開けるんじゃないの? ってぐらいジュリアン・オピーを所有し、社内に展示し、社員たちの意識の向上を促している方もいる。バルニバービの佐藤裕久さんもアートを好み、作られる飲食の店舗には所有するアートを取り入れてデザインしてほしいと言われることがあります。

イギリスの現代美術家ジュリアン・オピーの屈指のコレクターである熊谷氏。オフィスの至るところにオピーの作品が飾られ、ゲストが気軽にアートに接することができる場となっている。

田辺 欧米では経営者にアートの知識があることが絶対的な条件でもあります。僕自身、美術館に行ったことがない。ギャラリーに行ったことがないという経営者は、若干そのセンスに不安を感じます。以前はまったく見かけなかったけど、ここ最近、海外のアートフェアで日本の若いIT経営者を見かけることがありますよ。でもやっぱりまだまだ少ないですね。FacebookやGoogleは、デジタルを仕事にしているせいか、リアルなアートにすごくこだわっている部分があるんですよ。サンフランシスコに住んでいる僕の友人のアーティストが、Facebookの本社に招かれて、そこで3ヵ月間公開制作をしたことがあるんです。その理由は、社員にデジタルでないリアルなものが作られる過程を見せたいから。

森田 素晴らしいね! アートは時代を象徴するもの。バンクシーがそのいい例です。アーティストは自分の作品にメッセージを込め、時代の風刺がアートに込められている。その時代、時代の流れがアートに込められていて、それをファッショナブルに捉えるのか、主張として捉えるのか、時代を知るという意味でもアートは大切なものだと思います。

田辺 まさにおっしゃるとおり。

後編へ続く。


YASUMICHI MORITA
GLAMOROUS co.,ltd代表。2001年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外へも活躍の場を広げ、インテリアデザインに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を行なっている。100年に一度と言われる再開発が渋谷で進む中、2019年「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がけた。またアーティストとしても積極的に活動しており、’15年より写真展をパリで継続して開催している。
http://glamorous.co.jp


RYOTA TANABE
ホワイトウォール代表。アートプロデューサー。17歳で渡米。サンフランシスコの高校からアートカレッジへと進学。ニューヨークではパーソンズやFITにてイラストとデザインを勉強。マガジンハウス『POPEYE』や『BRUTUS』のニューヨーク特派員として活躍。帰国後は化粧品ブランド「RMK」のオフィシャルサイトの立ち上げや藤井フミヤの「FUMIYART」のWEBページの制作。現在は”アートなものなら何でもあり”のECサイト「ARTRANDOM」を立ち上げた。https://artrandom.jp

TEXT=今井 恵

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