断言しよう。今、自分のレストランリストに入れておくべきはカウンターの店だ。なかでも次世代を担う若手職人による鮨店は絶対に行きつけにしておきたい。今から通って応援したい、10年、20年後の名店になる可能性大の鮨店から、今回は赤坂の「桜坂 渡利」を紹介する。
慣習にとらわれず、独自のスタイルで才能を開花
鮨職人でYouTuber。その異色の肩書きは、ともすればミーハーなイメージに捉えられることもあるかもしれないが、店を訪れれば実直に鮨の道を極めんとする職人の姿勢に心を強く惹きつけられる。
都内随一の桜の名所として知られるこの場所に『桜坂 渡利』がオープンしたのは、2022年の10月。店主の渡邉哲也氏は、大学の理工学部で学ぶ傍ら、アルバイト先を通して鮨に興味を持ったことがきっかけで職人の道を志すようになる。その頃から感じていたのは、この世界では、どの鮨店で何年修業を積んだかがいかに重視されるかということ。一朝一夕で体得できる仕事ではないことを頭で理解していても、修業店の有名無名や働いた年数ばかりが実力をはかる物差しではないという思いは常にあった。
いずれは独立して、自分の名前で店に立ちたいという気持ちが膨らむなかで、鮨店で働きながらYouTubeで“未来の自分のフォロワー”を獲得するための配信をスタート。「今は実店舗がなくても、先に集客ができればキャッシュポイントを作りやすいかもしれない」という思いで始めたが、最初は再生回数の少なさに肩を落とす日々。諦めず、楽しみながら気長に続けるうちに少しずつフォロワー数が増え、いつの間にか架空の鮨店の名を冠したチャンネル「銀座 渡利」の登録者数は、16万人を突破した。
まさに前代未聞のチャレンジが実を結び、2020年に渋谷に間借りで「鮨 渡利」をオープン。2022年秋に移転をし、新たなスタートをきったばかりだが、その腕前は、すでに多くの鮨好きから高い評価を集めている。
柔らかい光に包まれる檜のカウンター越しに見る姿は、自然体ながら職人の凛々(りり)しさを感じさせる。テンポよく繰りだされる握りはコースで10貫前後を供するが、そこには奇を衒(てら)わず、王道を目指す心が見て取れる。
力強く、パンチのあるシャリは会津のコシヒカリと秋田のあきたこまちをブレンドし、赤酢をベースに酒粕から作る白酢を合わせるのが最近の定番だ。ユニークなのはトロよりもシャリの温度を高めにして出す小肌。酢と塩をしっかりあてた身とシャリの調和に、ぐっと心を摑まれる。高級食材を無理に組み合わせない主義だが、唯一、白海老にのせるキャビアは例外。
美味しさのために試行をし、偏見を持たず柔軟に。我流で新しい道を拓く職人の“開花”する才能を見守り続けたい。
桜坂 渡利/Sakurazaka Watari
住所:東京都港区赤坂1-14-5 アークヒルズ エグゼクティブタワー1F
TEL:03-6234-0555
営業時間:12:00〜23:00(来店時間によって変動)
定休日:不定休
座席数:カウンター9席
料金:おまかせ ¥25,000〜