やわらかく旨みの強い赤身が特徴の「あか牛」は、熊本県阿蘇で育った個体が一番旨い。そう聞いて2022年10月、4人の男が阿蘇へと降り立った。世界の美食から知られざる地域の逸品までを食べ尽くしてきた本田直之氏、焼肉の新たな食べ方を提案し続ける「よろにく」のオーナーVanne Kuwahara氏、Instagramのアカウント「TOKYO WAGYU REPORT」で年間300回和牛を食す肉系インフルエンサー旦弘希(だんひろき)氏、そして熊本のジャンルレスなフュージョンレストラン「.know」のシェフ鍬本(くわもと)峻氏の4人だ。彼らは、生産地を見て回りあか牛でどう地域を発展させるか、阿蘇市の人々とともに考えるためにやってきたのだ。

雄大な眺めとあか牛。
世界が注目! 千年続く草原文化と、至極のあか牛
2万2000ヘクタールにも及ぶ阿蘇の草原の風景は、人が野焼きをし、牛が草を食(は)むことで千年以上守られている。この日は草原文化を研究する人、牛を育てる人、この地の料理人たちも集まり、阿蘇山を眺めながらともにさまざまなあか牛料理を味わう。

秋が終わる前に草を刈り、冬の牛たちの食糧に。草原の管理をする人が減れば30年後には阿蘇の草原面積は現在の40%に減ってしまうとも言われる。
「あか牛はおとなしく丈夫なので、放牧に向いています。山を移動し運動しているので健康。ストレスもないので、いい肉になるんです」とはあか牛の繁殖農家。ステーキにBBQ、ハンバーガーまで食い尽くし、どの料理が地域を盛り上げる新ブランドになりえるか激論を交わした。

健康的な赤身が美しい肉の断面。

特上カルビの部分で作ったハンバーグ。

今回4名がもっとも評価したのがこのハンバーガー。

「わざわざ阿蘇に来る目的になる出来だと思う!」(旦氏)、「地元の“阿蘇ものがたり”というケチャップと合わせると最高」(本田氏)
その後も「御料理旅館 親和苑」や、「古民家旅館 阿蘇乃やまぼうし」を訪れ、低温調理法のあか牛、昔ながらの囲炉裏スタイルで味わうあか牛などを楽しみ、料理長らと話しこむ。

旅館「古民家旅館 阿蘇乃やまぼうし」では、油揚げや鮎を囲炉裏で焼いて味噌をつける田楽料理に、あか牛の串を加えた。

同店がこの日のために開発した「あか牛の田舎煮」。

「御料理旅館 親和苑」では低温調理されたあか牛にVanne氏と旦氏が助言。
翌日も飲食店を巡ったのち、研究者や農家、地元の土産物企画担当などが集まったシンポジウムにも参加。「明治期には国土の10%が阿蘇のような草原でしたが、野焼きや放牧など、管理が簡単でないため今は1%だけ。この風景を守っていくためにもあか牛は必要なんです」。そう語る草原研究者の言葉に頷く本田氏。
「キーワードはサステナブル。阿蘇の景色を守るあか牛、その物語を世界中にもっと打ちだしていくべき。まさしく“サステナブル・ビーフ”と銘打って。そのために僕らもできることをしたい」と感想を語った。

草原研究者たちと語らう。

あか牛の繁殖農家とも交流。

シンポジウムではブランディング、調理法、草原の維持などについて意見を交換。
彼らが今回食し巡ったコースは、阿蘇市が千年の草原文化を守る取り組みの一環として改良され「阿蘇のあか牛テロワール旅」として販売される。2023年の春にお目見え予定だ。
4人は今後もあか牛のブランド向上と阿蘇市の発展をサポートすることを約束した。

最終日の夜は鍬本シェフの「.know」で農家や研究者、全国の食通たちも集まってあか牛を楽しんだ。「.know」が入る建物は町屋の雰囲気をそのままに残す。

阿蘇山から運んできたススキで調理する鍬本氏。

鍬本氏の調理した肉とワインで阿蘇の未来を語り合った。

左から、レバレッジコンサルティング 代表取締役 本田直之氏、「よろにく」オーナー Vanne Kuwahara氏、「TOKYO WAGYU REPORT」旦弘希氏、「.know」オーナーシェフ 鍬本峻氏。阿蘇の風景に癒やされた食通4人。