2021年8月にオープンしていた、ザ・リッツ・カールトン京都の「シェフズ・テーブルby Katsuhito Inoue」。伺いたいと願っていたがコロナ禍でなかなか行けず、このタイミングになった。チーム井上が京都の素材をふんだんに活かしたコース料理には、食材に対する強い覚悟を感じた。
受け継がれる「始末の心」。
すこし古い表現かもしれないが、エグゼクティブ イタリアン シェフの井上勝人はハンサムな男だ。顔だけの話ではない。背筋をピシッと伸ばし、スレンダーな身体にコックコートがよく似合っていた。あらゆることに美意識を携えているだろうな、というオーラが漂っている。あたかもニュースキャスターのように精緻なる言葉で話し、料理を作る手捌きも優雅だ。井上シェフはイタリアやスペインで腕を磨き、東京・銀座「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」で料理長を務め、2019年より現職についた。
食材はシェフ自らが足を運び、育て方や作り方を目で見て確かめ、自然に沿った育て方をした和牛、神経〆をした魚など、命を大切に扱う生産者のものを選んでいる。野菜は江戸時代から続き、数々の京都の伝統野菜やブランド野菜を生み出してきた石割農園と組み、朝採れの京野菜を仕入れている。また、サステナビリティの観点から、余った野菜を使って自家製パンを焼き、通常市場に出回らない未利用魚(形やサイズが不ぞろい)も使い、料理に仕立て上げているそうだ。井上シェフは京都の人々の間で受け継がれてきた「始末の心」を大切にしたいと話す。
「始末とは、『始めから終わりまで』を意味します。自然に感謝し、全ての食材を最後まで使い切る。骨や頭、内臓まで、全てです。食材は命。それを大切に扱い、無駄なく使い切ることが料理なのです。そのためには、工夫と知恵が必要であり、それがやがてシェフとしてのクリエイティビティや個性を生んでいくのです」
井上シェフのシェフズ・テーブルでは、気候の変化や動植物の様子が表された「七十二候」をテーマに、季節感を大切にした料理を提供している。イタリアンをベースにはしているものの、和食の要素も強く、ジャンルレスな料理であった。伺った日は「第八候 桃始笑(ももはじめてさく)」がテーマ。昔は花が咲く様子を「笑」と表現していたそう。テーマ食材に河豚の白子をチョイス。「白子の淡白でありながら、深い味わいで桃の花を表現しました。温かいリゾットにすることで春の花が笑う様を表しました」と井上シェフ。
いわば、ギルティ・フリーな食材をもとに料理を提供することにより、人や自然への感謝の思いを、京都の地から次世代に繋げていく。そのテーマを胸に携えながら、今日もチーム井上は調理場に立ち続ける。
シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue
住所:京都市中京区鴨川二条大橋畔ザ・リッツ・カールトン京都 1F サレッタ プリバータ
TEL:075-746-5522
席数:6席
営業時間:18:00〜斉スタート
定休日:日曜、月曜、火曜
料金:コース:¥32,000
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