去る10月5日、世界の食の識者1000人以上の投票によって、世界のベストレストランを決めるThe World’s 50 Best Restaurants アワードが、ベルギー・アントワープで行われた。前回に行われたのが2019年で、コロナ禍をはさみ、2年半ぶりの開催となった。果たして世界のガストロノミー界はどのような変貌を見せたのであろうか。
傳、NARISAWA、フロリレージュ。日本の3店がランクイン
投票自体は2019年の冬に行われ、その後、2020年の冬に、投票内容を変更してもよいという規定のもと、再投票を行ったという、異例づくしのアワードとなった2021年の「世界のベストレストラン50」。
5大陸26か国のレストランがベルギー・アントワープに集い、どのシェフも、コロナ禍で、レストラン業界が直面した冬の時代を経て、ガストロノミー業界を盛り上げていこうという熱気が例年以上に感じられた。
結果は、1位にデンマークの新生「ノーマ」が輝いた。前回の2位からの躍進であるが、これは順当との見方もできる。というのも、前々回から、1位になったレストランは殿堂入りし、ランキング外になるというシステムができたため、大方の予想通りであったともいえる。しかし、ノーマが現代のガストロノミー界に与えた影響は計り知れないと、その1位を称える声は大きい。
2位は同じくデンマークの「ジェラニウム」。そして3位が、スペイン・ビルバオ郊外の「アサドール・エチェバリ」。このベスト3の受賞は、北欧勢とスペイン勢の強さを象徴している。エチェバリのシェフ、ヴィクトール氏は、料理界に多大な影響を与えたということで、シェフたちの投票によるシェフズチョイス賞も受賞した。薪火のみで調理をするという、独自の技法の影響の大きさは、日本の料理界を見ても容易に想像がつく。
4位は常連のペルー「セントラル」。5位が、昨年の9位から順位を上げたエルブリのレガシーを継ぐスペイン・バルセロナ「ディスフルタール」。6位がストックホルム「フランツェン」で、以前からの高評価がいよいよ定着した。
7位がペルーの日系料理「マイド」で、こちらも定連。8位がアジアのナンバーワンに輝いた、シンガポールの「オデット」。9位がメキシコシティの「プジョル」。このように、9位までに3軒の南米大陸のレストランがランクインするとは、南米が世界のガストロノミーに与える影響の大きさがうかがえる。10位には香港の「チェアマン」がランクインし、前回の31位からの躍進でハイエストクライマー賞も受賞。アジア勢の健闘を称えたい。
日本勢は、ホスピタリティと驚きにあふれた日本料理「傳」が11位と、もう少しでベスト10入りの大健闘。長年ガストロノミー業界に君臨する「NARISAWA」も19位と、安定の実力を発揮した。そしてビッグニュースとして、川手寛康氏が率いる「フロリレージュ」が39位で、新たなベスト50入りを果たし、日本人としては大変に喜ばしい結果になった。
ひと足先に発表された51位~100位のなかには、アジア圏から13店舗。うち、日本は5店舗のランクイン。51位「日本料理 龍吟」、73位「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」、75位「茶禅華」、76位大阪「ラ シーム」、99位「レフェルヴェソンス」である。いずれ劣らぬ実力派のシェフたちが揃い、コロナ禍後の活躍がまた楽しみである。
今回のベスト50を牽引したのは、スペイン勢とアメリカ勢だ。スペインは、10位以降にも、ガストロノミー界に君臨してきた「ムガリッツ」(14位)、ゲタリアの「エルカノ」(16位)も注目だ。アメリカは、ニューヨークの「コスメ」(22位)、サンフランシスコの「ベニュー」(28位)、「シングルスレッド」(37位)などが入賞している。
世界5大陸、26か国から選出されたシェフたちは、今後もますますその影響力を強め、ガストロノミー界を盛り上げていくに違いない。