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2024.07.06
スカンジナビア半島は年に1cmずつ隆起している!? 今、地球の中心で何が起こっているのか
なぜ日本ではこんなにも頻繁に地震が起きるのでしょうか。世界が認める地質学の第一人者が解き明かす地球科学の最前線について、『地球の中心で何が起こっているのか』より、一部を抜粋してお届けします。
マントルは流体だが非常に「ネバネバ」している
マントルは、決してドロドロのマグマが詰まっているのではなく、しっかりとした岩石(固体)だ。
一方でマントルは、流動して対流している。岩石が流動するなんて、私たちの生活の時間スケールでは考えられないことだろう。それでも、マントルは流れているのだ。
その証拠の一つは、現在でも隆起を続けるスカンジナビア半島である。この地域では、100年ほど前は立派な港だった所が、今ではすっかり干上がってしまっている。年間に1センチ以上隆起している所もあるという。
この隆起現象を理解するには、まず、スカンジナビア半島が今から1万数千年前の最終氷河期には3000メートルにも達する分厚い氷床に覆われていたことを知っておかねばならない。
次に必要なのは、みなさんも高校時代に地学で習っているはずの「アイソスタシー」という概念だ。軽い地殻が重いマントルの上に、プカプカと浮かんでいるという概念である。
図1-6を見ていただきたい。地殻の上に氷床があったときと、氷床がなくなった後の釣り合いを示してある。
マントル部分にはみ出た地殻に働く浮力と、地殻(+氷床)の重さが釣り合っている(アルキメデスの原理)。氷床の消滅による最終的な地殻の上昇量(z)は、氷床の厚さ(h)と密度(Pi)、それにマントルの密度(Pm)で決まる。アイソスタシーが成り立つということ自体、マントルが流体であることにほかならない。剛体であればこんなことが起こるはずがない。
しかし、アイソスタシーだけでは、スカンジナビアの隆起現象を解明したことにはならない。
仮に、水の上に浮いた木片のことを考えてみよう。木片を地殻に、水をマントルに見立てている。氷床の代わりに木片の上に置いてあった重りを取り去ってみる。すると、木片は直ちに浮き上がってしまうであろう。
これは、水が十分にさらさらな液体であるから、応答が早いのだ。ところが、マントルは流体ではあるが非常にネバネバしているために、地殻が浮き上がるまでに時間がかかる。このネバネバ加減を表すには「粘性」という値が用いられる。
スカンジナビア半島の隆起現象の広がりや上昇の程度などの観測値を用いて、マントルの粘性(単位はパスカル秒)を推定すると、10の21乗のオーダーとなる。
ハワイ島のキラウエア火山から流れる灼熱の溶岩が10の3乗程度、ガラスを割らずに加工できるギリギリの温度(軟化点)での粘性が10の6乗程度などと比べると、マントルは、桁外れにネバい。ネバネバというより、カチカチだけれども、時間をかければ流れると表現した方がいいかもしれない。
マントル物質は地球を既に4周している
マントルが流れるということは、マントル内で対流が起こる可能性もある。
可能性、と書いたのは、流体が全て対流するわけではないからだ。対流が起こるかどうかの指標は、「レイリー数」と呼ばれる。浮力とそれに抵抗する粘性力の比である。
理論的には、この値が1708を超えると対流が起こり、その対流によって熱が移送されると考えられる。
一方この値以下の物質では、対流ではなく熱伝導によって熱が運ばれる。
マントル物質のレイリー数は、1000万程度なので、十分に対流が起こりうるのだ。そしてその速度は、ザックリ言って、年間でセンチオーダー。非常にゆっくりとした動きだ。
しかし、何せ地球は時間のスケールがでかい。
「プレートテクトニクス」が始まって約40億年。この間にマントルは、4万キロも流れたことになる。マントルの厚さを考えると、ありそうな対流のスケールは1周約1万キロ程度のものである。対流の縦横比がほぼ1対1だ。
この値を用いれば、マントル物質はこれまでにマントルの中を4周してきたことになる。マントルはゆったりと、しかし確実に流れているのである。
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