ART

2026.10.20

写真の最新状況を「T3」が八重洲・日本橋・京橋・銀座で見せてくれる理由

「国際的な写真文化の発信拠点」というふうに主催者は位置付けている「T3」。それには、アートのフェスティバル、作品を買うことができるアートフェア、そして、今後活躍が期待される作家、キュレーター、批評家を発掘・育成し、国際的な活躍への扉になろうという活動の3つを包括している。なので「発信拠点」、あるいはそれら活動をする「運動体」なのだろう。

写真の最新状況を「T3」が八重洲・日本橋・京橋・銀座で見せてくれる理由

都市が繁栄するために必要な3つの条件

「T3」とは何か。それは、アメリカの社会学者リチャード・フロリダが著書『クリエイティブ資本論』の中で提唱した「都市が繁栄するために必要な3つの条件」から来ている。求められるのはまず、「技術(Technology)」、次に「才能(Talent)」、そして「寛容性(Tolerance)」。この3つのTが交差する場所にこそ、創造的なエネルギーが生まれるというのだ。この理論を、写真の世界で展開しようと挑戦してきたわけだ。

「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026」をはじめとする、その「T3」が現在、開催中だ。場所は東京駅の東側、八重洲・日本橋・京橋・銀座のエリア。

アートのフェスは日本国内でも近年、盛んである。毎年や2年、3年ごと、不定期などさまざまで、ビエンナーレ、トリエンナーレと名がつくもの、つかないもの。それらは大きく分けて2つある。一つは都会型で、東京、横浜や愛知などで開催される。もう一つは地方、地域型と言っていいと思うが、新潟の里山や瀬戸内、能登、あえて震災の被災地を舞台にした石巻などである。

「T3」は都会型も都会型、この国の首都東京のビジネスや商業の中心地とも言える場所で開催される。機能性を追求した最先端の街中にあって、人間の根源的な営みである表現活動の成果を発表する場として重ね合わせるということ。この街を行く人は、こんな場所で何かを見せようとか、訴えようとしている作品があったり、人がいることに気づき、足を止める人もいて、彼らは何かを得るのかもしれない。一方、なにが起きても不思議ではないという様相で、いつもと変わらない歩調で通り過ぎる人もいる。それもまた大いに都会的である。

近代以降の合理性を推し進め、凝縮し、その結果出来上がった都市で、近代の発生、発達とともにあった写真というメディア、あるいはツールが生んだ賜物をもたらそうというとき、日本の中のどこよりも、これほど適した場所があるだろうかと思う。

写真がヨーロッパで生まれて200年。画像の定着、記録方式は銀塩などの化学変化からデジタルによる電気信号に大きく様変わりしたけれど、日本の果たした役割の大きさを思う。「photography」に「写真」という訳語を与えたのが良かったのかどうかはさて措き、写真機材、感材など産業としては世界のトップの座を守ってきた国。写真産業は先の大戦の敗戦国のものになった。日本とドイツ。航空機産業、軍事産業が抑えられた国々でこのジャンルが発達した。余談だが、自動車産業も同様でこれにはイタリアも加わる。さらに、20世紀後半、アジアで大きな戦争があった。朝鮮戦争とヴェトナム戦争、いくつかの紛争。戦争に適した小型カメラ、それ用のレンズを戦地に近い日本が供給でき、その実力が世界に喧伝されたことも特筆すべきだ。ただ、写真用フィルムに関してはアメリカのシェアも大きい。それは映画産業がかの国で突出して栄えたことと関連する。

ともかく、世界の中の日本、日本の中の東京、東京の中のセントラルステーション(東京駅)周辺を舞台にこの写真のイベントが開催される意味は大きい。

そして、2026年の「T3」は日本語の接続詞「と」に着目する。欧米ではしばしば二項対立を思考の基本とすると言われる。しかし、表裏一体や陰陽という言葉があるようにアジアには二項対立ではない「ものの見方」があるはずだというのだ。写真も撮る者と見る者の対峙ではなく、それぞれの眼差しが交差し、世界の断片、時間の集積が行き来するものであるという可能性を問い直す。

ということで、今回の展示からいくつかを見ていこう。

ザネレ・ムホリは1972年、南アフリカ・ダーバン近郊のウムラジ生まれ。ケープタウンを拠点としている。本人は自らを「ヴィジュアル・アクティヴィスト」と呼ぶ。声をあげにくかった人々に声を与えることで解放し、ネガティブとされてきた価値を転換し、誇りや美しさに変えていく。フランス芸術文化勲章受章(2017年)、ヴェネチア・ビエンナーレ出展(2019年)、パリのヨーロッパ写真美術館での回顧展(2023年)、ハッセルブラッド国際写真賞受賞(2026年)など高い評価を受けている。

家事労働者として生きた母の、そして労働を強いられてきた人々の道具である洗濯バサミやゴム手袋—を王冠や装身具へと編み直して身にまとったセルフポートレート。ものが王冠になるとき、収奪の記憶は誇りへと書き換えられる。

ペインテッド・レディ(日本学名:ヒメアカタテハ)は、世界最長の渡りを行う蝶なのだそうだ。ルーカス・フォグリアは、アフリカから中東、地中海を越えてヨーロッパへと至るヒメアカタテハの旅路を辿り、その途上で出会う人々や風景とともにその姿を捉えてきた。このシリーズは、自然と人間、生態系を考えさせられる。当然のことだが、政治的境界線などは切り離されたものではない。絶え間なく繋がり合うひとつの連続した世界(地球)の一部に我々は存在していることを示唆してくれている。

サラ・ファン・ライは、写真やコラージュ、セルフポートレートを通して、詩的なイメージを生み出す。さまざまな場所や瞬間、現実から切り取られた断片を組み合わせると、記憶が幾重にも重なり、時間が行き来し、現実は虚構になるかのように、我々は不思議な世界へと導かれていく。

ともに鳥取県出身で、世界的に知られる写真家・植田正治(1913年-2000年)は生涯にわたり鳥取を拠点に創作を続け、その教えを受けた写真家・牟禮朱美も現在、鳥取で制作活動を行っている。共通の被写体である「子ども」をテーマに、植田正治は「Shoji Ueda's Inner Child」、牟禮朱美は「さなぎの中はだれも知らない」を展示している。

児玉浩宜の「BLOCK CITY」では、社会的な出来事の渦中で刻一刻と変化する都市空間を見つめる。人々の行為や集まりが都市に一時的な変化を生み出し、風景は絶えず更新されていく。また、South HO(何兆南)の「Work Naming Has Yet to Succeed」では、出来事が過ぎ去った後。抗議活動や社会運動の名残、補修や消去の痕跡は、やがて日常風景へと滲み込み、風景の一部として沈殿していく。出来事の発生とその余波、生成される痕跡と時間のなかで変質しながら残り続ける。両者の視点を往還することで、都市は単なる物理的な空間ではなく、無数の出来事や記憶が折り重なりながら書き換えられていく場であることが提示される。

写真の最新状況を「T3」が八重洲・日本橋・京橋・銀座で見せてくれる理由
遠藤文香〈White Knows Everything Ends〉より
写真の最新状況を「T3」が八重洲・日本橋・京橋・銀座で見せてくれる理由
村越としや《沈黙の中身はすべて言葉だった》より
©Toshiya Murakoshi, "A gradual thaw", 2011-2015

アートスペースや一般的なビルの中、あるいは公共スペースや外壁、ときにこのような工事中の仮囲いまで使って展示されるこの「T3」というイベント。手渡される地図を片手に、あるいはスマートフォンを片手に世界の中の写真タウンを歩いてほしい。

T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026
会期:2026年10月3日(土)~10月26日(月)
場所:東京・八重洲、日本橋、京橋、銀座エリアの屋内、屋外会場
入場 :無料

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

TEXT=鈴木芳雄

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