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2024.10.03

“お金持ちはケチ”は本当? 87歳の家政婦が出会った豪邸の家主、その驚異的倹約ぶりとは

57歳で家を飛び出し家政婦に! 派遣された家々では驚きの出来事が…!?  当時87歳だった「家政婦 金さん」こと石川金さんによる衝撃の実話エピソードをご紹介。書籍『家政婦 金さんのドラマみたいな体験日記』より、一部を抜粋してお届けします。

「あなたが洗うのよ」ボロボロの絨毯に家主は…

高級住宅街でも一際目立つ、ごうしやな洋館に住み込んでいた時のこと。私の部屋の絨毯は、かなり擦り切れて汚れていました。期待はしていなかったのですが、ある日奥様が、

「あなたの部屋の絨毯、洗濯したらどうかしら

と言ってくださいました。

「ありがとうございます。ではクリーニング屋さんに取りに来てもらいます」

と喜んで言うと、

あなたが洗うのよ。勝手口のコンクリートの上に広げてブラシを使えば、クリーニングに出す必要はないでしょ?」

「自分ではとても無理です。絨毯は水を含むと重くて持てませんし、干す場所もないです」

すると奥様のお口がへの字に変化したのが見えましたので、

「あの、私が自分で取り替えてもいいのですけれど」

「そうね、あなたが使うのだからね」

「はい、ではお買い物のついでに見てきます」

自腹でもいいと次の日早速、商店街で絨毯を買いました。

「奥様、明日配達してくださるそうです」

「あらそう」

絨毯の話はそれきりでした。でもしばらくすると奥様に聞かれました。

「この前絨毯買った時、夏くじの券もらったんじゃない?

その商店街では夏の抽選会が催されていたのです。

「はい、持っていますが」

私は絨毯代を自分で払ったので、報告する必要はないと思っていました。

「今度、お買い物に行った時、くじ引き忘れないでね

「はい」

くじ引きで当たったのは…

お線香の煙くらいのモヤモヤがわき上がってきましたが、どちらにしろ今までくじ運はなかったので、気軽に引きに行きました。星がちりばめられた赤い箱の中から一つの三角形を取って渡すと、それを開いたおじさんの顔がぱぁっと広がって、大声で、

大当たりだよ、特等特等ー!!

じゃらんじゃらんじゃらーん! 手に持った鐘も鳴らされ、辺りがざわめきました。

「ええっ」

言葉を失っていると、

「特等は1本しかないんだよ、良かったねー。はい特等出たよー!!」

じゃらんじゃらんじゃらーん!

びっくりしながらもう1本引くと、またおじさんの顔が変わって、もっと大きな声で、

また大当たり、一等一等!! 今度は一等出たよー!

じゃらんじゃらんじゃらーん! 鐘鳴りっぱなし。近くにお昼寝している赤ちゃんがいなくてよかったです。

「すごいねお客さん、今日は大吉だねえ」

おじさんは自分のことのように喜んでくれました。特等の賞品は、5本立てのこちようらんか、お米10kg。一等はビール2箱か、大きなシクラメンです。

「胡蝶蘭をお願いします」

「一等はどっちにする?」

ちょっと考えて答えました。

「一等はナシでいいです。たくさんの人に当たった方がいいから、他の人に回してください」

「え、本当にいいの?」

「はい、特等だけで十分です」

胡蝶蘭の鉢はとても重かったのですが、きっと喜ばれると思いながら坂を上りました。

家に着くと奥様が、

「あら綺麗ね、どうしたの?」

「はい、夏くじで特等が当たって、これが賞品だったんです」

「すごいわね、特等。……特等の賞品って、お花だけだった?」

「いえ、胡蝶蘭かお米10kgでした」

それならウチはお米の方がよかったわ。お米は毎日いるし、あなたも食べてるしねえ」

「はい……」

交換できないかしら? お花じゃお腹はいっぱいにならないものね。早く行かないと交換ダメになるかもしれないわよ」

お米は重いので、自転車の荷台に大きなかごをくくりつけ、まずその中に胡蝶蘭を入れて商店街まで引いていきました。くじのテントで、さっきのおじさんに、

「すみません、先ほど特等で胡蝶蘭をいただいた者です。本当にすみません、お米と交換していただきたいのですが……」

事情を話すと、おじさんは優しく、

「いいよ、この蘭の方が米より価値があるのにねえ」

とお米を自転車の荷台にしっかりとくくりつけてくれました。お屋敷に帰り、お米を片付けていると奥様が来られて、笑顔で言われました。

これで当分、お米を買わないで済むわ

「そうですね」

私は、すっきりさっぱりした心持ちになりました。できるだけのことはした、という達成感があったのかもしれません。

それからしばらくして、奥様は78歳で急逝されました。血圧が高かったようですが、病院にも行かれず、薬も飲まれずでした。ご自身にもお金を使われなかったのです。あの世にお金は持っていけないのに……と思いましたが、きっと奥様は「倹約する」という行為そのものが一番の喜びだったのでしょう。

ご葬儀は立派なものでした。でももしかするとご本人は、「こんなにお花いらなかったのに!」と、どこかでみされていたかもしれません。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:家政婦 金さんのドラマみたいな体験日記
石川金,小栗左多里

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