1755年の創業以来、一度も途切れることなく歴史を紡いできたジュネーブ最古のウォッチメゾン、ヴァシュロン・コンスタンタン。最善を尽くし、時計の技と美の探求を重ねた270年の歩みを読み解く。

“Do better if possible, and that is always possible”
「できる限り最善を尽くす、そう試みる事は少なくとも可能である」
フランソワ・コンスタンタン
これは創業者のひとりであるフランソワ・コンスタンタンが、1819年に共同経営者である
ジャック=バルテルミー・ヴァシュロンに宛てた言葉。この「探求」の精神が270年の歴史を導いてきた。
1.伝統 一貫性を持って紡がれた270年の「伝統」
18世紀にジュネーブで活躍した時計師たちは、住居の屋根裏を仕事部屋(キャビネット)として、時計を製作していたことから“キャビノティエ”と呼ばれていた。ヴァシュロン・コンスタンタンの創業者ジャン=マルク・ヴァシュロンもそのひとり。1755年にジュネーブで徒弟を迎え入れたことから、メゾンの歴史が始まることになる。
同社が大きく羽ばたいたのは三代目ジャック=バルテルミー・ヴァシュロンの時代。卓越した時計技術を持つ彼は、商家に生まれたフランソワ・コンスタンタンを共同経営者として招き入れ、1819年にヴァシュロン&コンスタンタン社となる。
スイス時計産業は歴史に翻弄され、戦争や大恐慌など何度も苦境に陥った。歴史あるブランドであっても休眠状態に陥るなか、ヴァシュロン・コンスタンタンは、一度も途切れることなく時計づくりに邁進してきた。それは常に時代のニーズに合った時計を生みだしてきたと同時に、時代を超えて受け継がれる時計を探求してきたからに他ならない。
キャビノティエから始まるヴァシュロン・コンスタンタンの歴史は、常に技術の継承と革新性の探求を両輪としてきた。現在存在している美しい時計たちもまた、これから続いていく歴史の一部に過ぎないのだ。

ヴァシュロン・コンスタンタンが誇る究極のユニークピース。オランダの画家ヨハネ・フェルメールの傑作『真珠の耳飾りの少女』を、エナメル細密画の第一人者であるアニタ・ポルシェが2年の歳月をかけて製作した。
2.職人 丁寧な手仕事は「職人」の情熱から生まれる
創業家の三代目にあたるジャック=バルテルミーは、高品質の時計を製造するために、優秀な時計師の育成に最善を尽くすだけでなく、その技術を最大限に生かせるよう19世紀中ごろから近代的な生産工程を取り入れた。これは自動旋盤機を使ってパーツの規格を統一し、互換性を持たせ、時計の品質を高めるというもの。キャビノティエの伝統と近代的な製造技術が融合したことで、同社の時計はさらなる高みを目指すことが可能になったのだ。
ヴァシュロン・コンスタンタンの職人技術に対する探求が最も端的に表れるのは、1886年に定められた「ジュネーブ・シール」への取り組みだろう。その規格は、精度だけでなく、素材や仕上げの審美性に対してもかなり綿密に定められている。しかしこのような規格をしっかり守ることで、初めてジュネーブの伝統的な時計技術を継承できる。ここにもキャビノティエの精神が息づいているのだ。
こういった職人の技術は、最善を尽くし素晴らしい時計をつくりたいという探求心の表れだが、それはエナメルや彫金といったメティエ・ダール(美術工芸装飾)にも反映される。機械と装飾表現の両方を探求し続けたことで、今日のヴァシュロン・コンスタンタンの時計へと結実したのだ。

創業260周年に誕生した「リファレンス 57260」を所有する時計愛好家が、その「リファレンス 57260」完成間近に、メゾンへの次なる挑戦として発注。実に2877個もの部品から構成されており、63の複雑機能を搭載。また、世界初の中国暦のパーペチュアルカレンダーを組みこんだ。

3.最善 時計への探究心が「最善」の作品につながる
最善を尽くし、機械式時計の技術や文化を深く探求していくことこそが、メゾンの目指す場所。だから機械と芸術の最高峰を探求するために、創業当時からユニークピースの製造に力を入れてきた。その伝統を現代に蘇らせたのが、2006年に開設されたオーダーメイド部門の「アトリエ・キャビノティエ」であり、2024年は63の複雑機能を搭載した世界で最も複雑な時計「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」が話題となった。
その美意識は、メティエ・ダール(美術工芸装飾)にも表れる。金銀細工産業が盛んだったジュネーブのエナメル画や彫金といった技法を絶やさず現代へと継承。さらにその理念は時計にとどまらず、芸術や文化遺産の保護と継承という目標を共有する美術館との関係を深めている。
コロナ禍にルーヴル美術館をサポートするチャリティオークションから生まれた「レ・キャビノティエ・ピーテル・パウル・ルーベンス『アンギアーリの戦い』へのオマージュ」は、エナメル技法を駆使して名画を表現し、高い評価を得た。

シンプルなセンターセコンドモデルのダイヤルに、ミニアチュール・エナメルやグリザイユ・エナメルで、フランドル派の巨匠、ピーテル・パウル・ルーベンスの名画を描いた。極めて繊細なタッチと奥行きのある立体感の表現は、まさに圧巻のひと言。
ヴァシュロン・コンスタンタンは270年もの間、最善を尽くし、まだ見ぬ時計を生み出そうという探求心を燃やしてきた。それが現在もなお、時計製造の原動力となっている。
問い合わせ
ヴァシュロン・コンスタンタン TEL:0120-63-1755