価格以上の価値を提供する腕時計、モーリス・ラクロアのリブランディングとは?

あらゆる時計メーカーにとって、製品やサービスと同様、マーケティング戦略は極めて重要な課題である。モーリス・ラクロアのマネージング・ダイレクターとして手腕を振るうステファン・ワザーさんに今後の展望などについて話を聞いた。


他社と一線を画すパフォーマンスを追求する

手に届きやすい価格帯で高級時計にふさわしい商品を提案する。モーリス・ラクロアが見据えているビジョンはこの上なくクリアだ。

「私が今掲げている目標は、"アイコン"の価値をさらに高めていくことです。売上本数から見ると、モーリス・ラクロアのベストセラーは、1990年に登場した"カリプソ"というシリーズです。2000年に入ると複雑機構の"マスターピース"に注力しすぎたことから、"カリプソ"は徐々にラインナップから消えていきました…。そんな経緯から私は2016年に10~30万円前後の価格帯を中心のコレクション、"アイコン"を立ち上げました。クオーツからはじまり、2018年には自動巻きが登場するなど、今後も多くの派生モデルを展開していく予定です」

ステファン・ワザーが着用しているのは「アイコン オートマティック クロノグラフ」。ご覧のように、ジャケットやシャツの袖口との相性も申し分ない。

仮に戦略が正しかったとしても肝心の商品に魅力がなければ机上の空論になりかねない。

「モーリス・ラクロアの製品には、3つの魅力があります。1つ目は『知覚価値』です。これは実際の対価よりも価値のある商品を提供することを意味します。それがなぜ可能かと言うと、我々は元々複雑機構を手掛けていたことから確固たる時計製造のノウハウがあるからです。これによって、実用時計でもユニークなアプローチを行えます。2つ目は『クラフトマンシップ』。これは高級機でよく見受けられる細かな仕上げなどが伝わりやすいかもしれません。最後は『デザイン』です。時計の市場を見渡すと、この価格帯でデザインまで気を配られているブランドが実に少ないため、大きな差別化に繋がります。これらの要素をバランスよく落とし込むことがとても重要です」

モーリス・ラクロアの新作ラインナップ。左から順に/文字盤にダイヤをセットした35mm径の「アイコン オートマティック」3点。独特の針の動きが楽しめるユニークな設計が話題の「アイコン マーキュリー」。外装技術の高さを物語る、時計全体に迷彩柄のPVD加工を施した「アイコン クロノ カモフラージュ」は世界500本限定で発売予定。言うまでなくマーケティングを行う上でトレンドリサーチは無視できない。

「色使いに関しては、ブルーは人気のピークだと思っていて、今年からグリーンが目立ちはじめている。これは今後のトレンドになる可能性が大いにあります。こちらはさらに顕著ですが、例年以上に小ぶりな時計への需要が高まっていることも見逃せません。モーリス・ラクロアでも今年から39mm径のモデルの発表していますが、やはり人気です」

ITの発達による情報化社会の到来は、腕時計が持つ役割やライフサイクルに多大な影響を及ぼしている。

「時間を知る方法がいくらもある世の中で腕時計が持つ機能そのものが必ずしも必要だとは限りません。それ以上に重要なことは、腕時計には自分をプレゼンするツールとしての役割があることです。これはビジネスの場に限らずに言えることです。モーリス・ラクロアでも採用している『イージーチェンジストラップ』というシステムは、工具を使わずにブレスレットの付替えを可能にします。これによって、スポーティな演出ならラバーストラップを選ぶというように、同じ時計でいくつものスタイルが楽しめます。また、時計を所有することについては、これという正解はないと思っています。1本の時計を大切にすることも、複数使い分けるのも、コレクタブルに集めることも人それぞれですし、そこにはオーナーの人生観やライフスタイルが色濃く反映します」

最後に自身の時計選びについて話をうかがった。

「まずはデザインが好きがどうか。その次は時計をつけた時の感触です。仕上げやディテールのきめ細かさ、クロノグラフだったらプッシャーを押した時の触感とか…。モーリス・ラクロアの時計は写真で見るよりも実際に店頭で手にとっていただいた方が何倍も魅力が伝わるかと思います。それこそが我々が掲げる『知覚価値』の本質なのです」

Stephans Waster
1975年スイス生まれ。大学卒業後、'98年に副プロダクトマネージャーとしてタグ・ホイヤーに入社。ヘッドハンティングにより一時的に時計業界を離れたが、2008年にモーリス・ラクロアに入社。マーケティングマネージャーを経て、'14年マネージング・ディレクターに就任。


Text=戸叶庸之 Photograph=鈴木泰之


【ロジェ・デュブイ】新CEOニコラ・アンドレアッタ「私はアドレナリン中毒」

【パネライ新CEOインタビュー】"変えずに変える"ブレない手法とは?

【インタビュー】パルミジャーニ・フルリエCEOが明かす天才時計師の洗練された哲学とは?