男が惚れる男、高倉健が腕時計に託した思いとは?【名優の時計愛物語】

百人の時計愛好家がいれば、そこには百の物語がある。 では、時計好きで知られている人たちは、いったいどんな時計に惚れこんでいたのだろうか。時計ライターの名畑政治氏が実体験をもとに、 時計を愛したあの伝説の男たちの知られざるエピソードを掘り起こす。 


ブレゲ タイプXX アエロナバルの"健さんモデル"

無類の時計好きだった高倉健さん。彼は映画などの共演者に自分の気に入った時計を贈ることでも知られていた。そんな健さんが贔屓にしていたのはロレックス。健さんから贈られた、その時計を芸能人たちがテレビなどで披露することも少なくない。

ただ、健さんの時計の趣向は幅広く、プライベートではブレゲも愛用していたという。 

1994年、ブレゲには珍しいスポーツモデルが発表された。それが「タイプXX アエロナバル」。翌年、ステンレスモデルが登場すると即座に2本オーダーしたのが健さんだった、と当時の代理店で聞いた。そして、その1本の裏蓋に健さんは「NAKAIと彫ってほしい」と依頼したという(一本は自分用、もう一本は中井貴一さん用)。

ちなみに当時の「アエロナバル」はケースもブレスレットもミラー仕上げだったが、健さんはこれが不満だったらしく、ブレスレット中央のコマを艶消し仕上げに、とオーダー。やがてこれに応えたモデルに仕様変更されたが、当時の代理店はこれを"健さんモデル"と呼んでいた。

そんなブレゲファンの健さんは、’90年代半ばまでブレゲ社長を務めたフランソワ・ボデさんとも個人的な交流があった。このボデさんがブレゲ退社後に手がけたのが、オートマタ作家としても知られる18世紀の時計師の名を継承する「ジャケ・ドロー」(現在はどちらもスウォッチグループとなっている)。私はブレゲ時代からボデさんの取材を続けており、ジャケ・ドローのスタート当初、彼と一緒にスイス各地の工場を取材して歩いたことがあった。そんな時、ボデさんにこんな提案をされた。

「もし君が希望するなら、俳優のケン・タカクラを紹介しようか? 彼は先日、私の別荘にも遊びに来たんだよ」

それは確かにありがたい申し出だったが、現実に取材となるといろいろな壁が多すぎて実現しそうにない。そうなると、せっかく紹介いただいても、逆に迷惑をかけてしまうことになりかねない。そう考えた私はボデさんの申し出を丁寧にお断りした。しかし、今思えば、なんてもったいないことを! と少々、後悔しているのである。


BREGUET
タイプXX アエロナバル
1950年代、ブレゲがフランス海軍航空隊に供給したクロノグラフをベースとして生まれたモデル。プッシュボタンの操作で瞬時に時間計測を再開できる、フライバック機能を備えている。

自動巻き、SSケース、径 39mm。¥1,180,000(ブレゲ ブティック銀座 TEL 03-6254-7211)


Ken Takakura
1931年福岡県生まれ。’55年、東映に入社。’56年に『電光空手打ち』で主演デビュー。その後、任侠映画シリーズへの出演で人気を獲得。’76年、フリーに転向。同年の『君よ憤怒の河を渉れ』や’77年の『八甲田山』などの演技が高く評価された。’98年に紫綬褒章、2013年には文化勲章を受章。’14年に83歳にて死去。


Text=名畑政治 Illustration=芦野公平


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