“なんでも鑑定団の時計担当”がクロノグラフ黄金時代のデザインを語る

時短とは無縁。手間暇を惜しまず掘れば掘るほど面白くなるヴィンテージウォッチの魅力をあらゆる角度から掘り下げる本企画「ヴィンテージウォッチガイド」。第14回は、テレビ東京「開運!なんでも鑑定団!」の鑑定士としても知られるケアーズ会長・川瀬友和さんをゲストに迎え、クロノグラフの黄金期に生まれたデザインの魅力について触れていく。

時計専門店トゥルノーによる超個性派クロノグラフ

機械式時計のムーブメントの厚みやサイズとは、ブランドの実力を計るバロメーターに例えられる。開発が困難を極めるクロノグラフとなると誤魔化しは一切通用しない。

「あらゆる年代を見渡して、角型のクロノグラフは製造本数が少ないため、探そうと思ったところで見つかるアイテムではありません。文字盤のレイアウトを見ると、どんなムーブメントが積まれているかが大体分かるのですが、こちらの トゥルノーの時計には、当時の世界最小クロノグラフムーブメントであったバルジュー社のCal.69が積まれています。この丸型ムーブメントは、いわゆる“ベビークロノ”と呼ばれるケース径が30mmにも満たない極小サイズのクロノグラフで多用されていたことから識者の評価が高いですね」

一般的に角型のケースはレクタンギュラーが主流であるが、スクエアであることに加え、クロノグラフであるため、個性がより際立っている。1940年代製、手巻き、SSケース、26☓26mm、¥1,200,000
裏蓋を開けるとCal.69が姿を表す。当然ながら文字盤や外装の設計を行う上でも、この超小型クロノグラフ専用ムーブメントが重要な役割を担っている。  

第一次世界大戦をきっかけにクロノグラフの需要が一気に高まり、各社が理想を求め、そこからさまざまなデザインが派生した。

「上下のラグが覆われる“フーデットデザイン”であることからも分かるように、アメリカの時計専門店トゥルノーが手掛けたこの時計は、一般的な時計メーカーとは趣が異なります。おそらく普通の時計では満足できないお洒落な人たちに向けて作られた、話題性も意識した商品だと思います」

1940年代では非常に稀な“ファッションとしての提案”が光るデザイン。風防はプラスチックではなく、ガラスを用いている。  

渦巻状のスケールが人気を集めるドクサの逸品

続いて登場するのは、同じバルジュー社のムーブメントを搭載していながらまったく違うスタイルが楽しめる、ドクサのクロノグラフだ。

「ドクサの存在自体を知らない方が多いかもしれませんが、ヴィンテージの世界ではそれなりに認知されているブランドです。文字盤からも分かるように、一癖あるデザインが特徴であり、1930~1950年代にかけてクロノグラフを手掛けていました」

文字盤に配した渦巻状のスケールがインパクト大。非防水がほとんどであった1940年代のクロノグラフでは見かけることが少ないねじ込み式のバックケースであることも評価に影響を与えている。ケースの製造メーカーが特許を取得していることも付け加えておく。1940年代製、手巻き、SSケース、径38mm、¥1,900,000  

おいそれと買える価格ではないかもしれないが、そこには確かな理由がある。実用性があり、レアポイントを押さえたクロノグラフは総じて評価が高い。

「この個体に関しては、ヴィンテージウォッチとしては大ぶりの38m径のサイズ感であること、1940年代のクロノグラフでは数少ない防水仕様、さらには人気の黒文字盤であることから評価が高いのです。バルジューCal.22を搭載していますが、ムーブメント、文字盤、ケースバックの3箇所にブランド名が記された“トリプルサイン”の条件が整っていることも見逃せません」

マイナーチェンジを行いながら、60年近い期間にわたって製造されたバルジュー社の2レジスタークロノグラフムーブメントCal.23の前身となるのが、1914年に登場したCal.22である。クロノグラフブリッジには、ドクサのブランドネームが刻印されている。  
通称“スピルマンケース”と呼ばれる人気のケースデザイン。ラグの形状、12角形の裏蓋が特徴であり、同年代の他社の時計でも見受けられる。  


ケアーズ森下本店
住所:東京都江東区森下1-14-9
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営:10:00~19:00(月~金曜)、11:00~19:00(土・日・祝日)
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Tomokazu Kawase
1957年東京生まれ。’89年、地元の江東区・森下でケアーズを創業。以来、30年以上もの間、厳選したヴィンテージウォッチのセレクションと自社に工房を構える独自のスタンスが内外で支持されている。現在は同店の会長に就任。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士としても知られている。

Text=戸叶庸之 Photograph=江藤義典