2019はじめての高級腕時計案内 「体育会系!?編集部」早朝の時計企画会議<後編>

7月某日に行われた時計特集のための企画会議。しかし編集長・二本柳が会場として指定したのは、都内の体育館だった。現地へと赴いた副編集長・池上、記事を担当する時計ジャーナリスト・篠田、そして新人編集・鈴木が訝しげに体育館のドアを開けると、そこには編集長とプロビーチバレーボーラー浦田聖子が待っていた。浦田コーチにコート上でビシバシと鍛えられつつ、編集長からは時計審美眼を問われ始めた3人。前半戦で意外なコンビネーションを発揮した編集部一同による早朝の時計企画会議(?)はまだまだ終わらない。


プロビーチバレーボーラー浦田聖子と編集長の愛のムチ

――前半で「高級クオーツ」というジャンルに注目していることを告白し、予想以上の時計偏差値をアピールした新人の鈴木。そして、経験で培ったさすがの知識でそれをフォローする池上と篠田。しかし、編集長の"愛のムチ"はまだまだ止まらなかった……。

後半:第1セット『グリーン』

二本柳:鈴木、いい気になるのはまだ早いぞ。ここ数年で、カラフルな時計が増えているのは知っているだろう。しかし今年のトレンドカラーは「グリーン」。その理由が分かるか? オリス「ビッグクラウン ポインターデイト 80th アニバーサリー」からひも解いてみよ!

――二本柳のドライブ回転をかけた技巧派サーブが鈴木を襲う。ボールは完全に大きく逸れたが、篠田が回転レシーブで拾い、それを池上が相手のコートへ返したのだった。

鈴木が逸らしてしまったボールを篠田(右)がこの後、華麗な回転レシーブでフォローする。

鈴木:うぁー。そんな難しいお題……、僕にはわかりません。篠田さん、教えてください。

篠田:ポイントは"レトロ"だね。ブルーダイヤルはメンズファッションの定番色ということでドレッシーな時計に使われるパターンが多かったけど、グリーンダイヤルはレトロデザインと好相性なんだよ。そもそもカラーダイヤルは70年代に多く見られたスタイルなので、復刻系のレトロデザインを相性がいいんだよね。最近は老舗ブランドが復刻モデルを作っているだけでなく、新興ブランドであっても、レトロな雰囲気を取り入れた時計を作っている。そんなレトロデザインを更に後押しするのが、このグリーンダイヤルってわけ。「ビッグクラウン ポインターデイト 80th アニバーサリー」は、1938年に作られたビッグクラウンの80周年記念モデル。ビッグクラウンというのは、文字通り大きなリュウズってことで、パイロットがグローブを着用した状態でも操作しやすいように考案された時計なんだけど、コブラ針が作り出すレトロな雰囲気に、グリーンダイヤルが加わるとさらに味わい深いでしょ。

池上:しかもケースはブロンズ素材ですね。この合金は経年変化していくのでさらに古びた雰囲気が増す。つまりグリーンダイヤルが映えるということですね。

ORIS
ビッグクラウン ポインターデイト 80th アニバーサリー エディション

自動巻き、ブロンズケース、径40㎜。¥220,000(オリスジャパン TEL:03-6260-6876)

篠田:クラシック×グリーンのという組み合わせだったら、ラドー「キャプテン クック オートマティック」も気になるよね。1960年代のスタイルを継承しつつ、グリーンのダイヤルでレトロ感をプラス。セラミック素材のトップメーカーであるラドーは、他社に先駆けてカラーセラミックの開発を進めているんだけど、そのおかげでベゼルなどにもグリーンを取り入れられるようになった。今後もグリーン旋風は続くだろうね。

RADO
キャプテン クック オートマティック

自動巻き、SSケース、径42㎜。¥210,000(ラドー/スウォッチ グループ ジャパン TEL:03-6254-7330)

池上:グリーンセラミックといえば、エドックスの「クロノオフショア1 クロノグラフ バイアピーク シートゥスカイ リミテッドエディション」も綺麗でしたね。時計の聖地であるジュラ山脈をイメージしたグリーンセラミックに、ゴールドケースを組み合わせるという手法は華やかですし、レトロ系とは違ったグリーンの魅力を引き出していますね。

EDOX
クロノオフショア1 クロノグラフ バイアピーク シートゥスカイ リミテッドエディション

クロノオフショア1 クロノグラフ バイアピーク シートゥスカイ リミテッドエディション 世界限定300本。クオーツ、SS(ゴールドPVD)ケース、径45㎜。¥195,000(GMインターナショナル TEL:03-5828-9080)

鈴木:なるほど。レトロにも華やかにも仕上げることができるから、グリーン人気が高まっているんですね。

後半:第2セット『スケルトン』

――そろそろ疲労もピークに達していたため、たまりかねた副編集長の池上はタイムアウトを取ったのだった。

普段、運動をしない編集部員の疲労はさすがにピークに達していた。

池上:ところで鈴木は、機械式時計のメカニズムについてはどれだけ理解しているの?

鈴木:正直に言いますと、よくわかっていません……。

篠田:だったらスケルトンウォッチがいいかもよ。どうやって時計が動くのかが理解できるよ。

――鈴木の「よくわからない」という言葉を聞きつけた編集長もコート越しからやってくる。ようやく本格的な時計の企画会議らしい議論が始まったのだった。

二本柳:そういえばスケルトンウォッチが妙に増えているけど、どういう理由なのかな? 誰もがメカニズムを理解したいというわけじゃないでしょ。

池上:そもそもムーブメントを見せるというトレンドを作ったのは、フレデリック・コンスタントですよね。ダイヤルに小窓を作って"ムーブメントの鼓動"を見せるハートビートは画期的な発明でしたし、その後の時計デザインの一つの潮流になりましたからね。今年も新作として「クラシック インデックス オートマティック ハートビート」を発表しているけど、クラシック顔ですが12時位置に窓があることで個性が際立っている。しかもこのモデルは、ラバーストラップを組み合わせることでスポーティな味付けにしているの面白い。このムーブメントをチラ見せする手法は時計業界の定番ですが、だからこそ原点ブランドは進化を続けている。これはすごいことですよ。

FREDERIQUE CONSTANT
クラシック インデックス オートマチック ハートビート

日本限定。自動巻き、SSケース、径40㎜。¥170,000(フレデリック・コンスタント相談室 TEL:0570-03-1988)

鈴木:しかしダイヤルに窓を開けるというデザインだけでは、バリエーションに限界がありますよね。

篠田:だからスケルトンウォッチは、多様に進化している。簡単に言うと“モダンな味付け”のスケルトンモデルが増えているんだよね。

池上:そういえば、モーリス・ラクロア「アイコン オートマティック スケルトン ブラック」なんてその典型ですよね。このブランドは昔から、こういったスケルトンムーブメントを自社で作っていました。単に内部構造を見せるだけでなく、スケルトン加工という技術をデザイン表現として使っているというのは最近の特徴かも。

MAURICE LACROIX
アイコン オートマティック スケルトン ブラック

自動巻き、SSケース(PVB)、径45㎜。¥660,000(DKSHジャパン TEL:03-5441-4515)

二本柳:コルム「ヘリテージ コルム ラボ01」は、ムーブメントをスケルトン加工するだけでなく、ダイヤルをいくつもの丸でカットすることで、機構をチラ見せしているんだけど、モダンなトノーケースと組み合わせることで、時計のデザイン性が強調されているもんね。

CORUM
ヘリテージ コルム ラボ01

世界限定99本。自動巻き、Tiケース、縦55×横39㎜。¥1,800,000(GMインターナショナル TEL:03-5828-9080)

篠田:そもそも時計というのは“正確な時刻を知らせること”が仕事だったから、視認性を低下させるスケルトン加工は、時間を気にする必要がない人が使うドレスウォッチに用いられていた。でも今はスマートフォンで正確な現在時刻がわかる。だから視認性を多少損なったとしても、スケルトン加工などで創造性を高めたいという方向に進化していくのかも。

鈴木:メカニズムが学べて、トレンド感もあるなんていいですね。

後半:第3セット『多国籍』

――池上、篠田、鈴木のタイムアウトが長すぎたため、浦田コーチがしびれを切らし、二本柳と再び鬼の特訓を始めた。疲労困憊だった3人も編集長の奮闘を見て次第に本気モードに突入する。

しびれを切らした浦田コーチは編集長と"鬼練"を再開。

浦田:編集長、少しあの3人を働かせすぎじゃない?

二本柳:そ、そんなことないですよー。あの3人が単に運動不足なだけなんですよ。おーい! みんなそろそろ企画会議、再開するぞ! 早速だが、鈴木は時計=スイスだと思ってないか?

鈴木:(もうすこし休ませてくれてもいいのに……)も、もちろん日本の時計も優れていますが、でもやっぱり主軸はスイスですよね?

篠田:(もうちょっと休みたいけど、コイツが立ち上がったから仕方ないか……)甘いな。かつてはイギリスとフランスが時計大国の覇権を競っていたし、大量生産技術を確立させたアメリカが時計産業をけん引した時もある。時計=スイスと思ってはいけないよ。

池上:(明日の筋肉痛は確定だ……)確かにジュエラー系の時計であれば、パリがルーツのブランドが多いですものね。そういえばベル&ロスもパリ生まれか。例えば「BRV2-94 ベリータンカー ブロンズ」なんて、素材の使い方やインダイヤルのバランスも含め、すごくかっこいい時計ですよね。

篠田:デザインは人間が考えるものだから、どういった文化圏で育ったかという影響はとても大きいよね。ベル&ロスであれば、パリの洒脱さがある。このモデル名の“ベリータンカー”って、戦闘機の燃料タンクを改造したレーシングカーのことだってさ。いいよね。こういうセンス。

BELL & ROSS
BR V2-94 ベリータンカー ブロンズ

世界限定999本。自動巻き、ブロンズケース、径41㎜。¥620,000(オールブルー TEL:03-5977-7759)

二本柳:ボールウォッチやハミルトンはアメリカがルーツだよね。時計における"アメリカっぽさ"ってよくわからないけど、あるものなの? 

篠田:デザインというよりは機能だよね。アメリカはエンジニアリングの国だったし、ヨーロッパの古い習慣を踏襲しない潔さがある。ハミルトンもボールウォッチもルーツは鉄道時計なんだけど、これだって広大な国土を走る鉄道を、安全に運航するために正確な時計が求められたことに由来しているわけだしね。

鈴木:ということは、ボールウォッチの旅時計「デュアルタイム」は、まさにそのルーツを継承しているってことですね。ケースサイドのプッシュボタンを押して時針を動かし、修正を行うなんて便利ですよね。6時位置の小窓はナイト&デイ表示だそうです。こういった機能性はアメリカらしいってことかな。ハミルトンも「ベンチュラ クロノ クオーツ」のように、スイス時計とは異なるスタイルがありますね。

BALL
デュアルタイム

自動巻き、SSケース、径42㎜。価格未定(ボール ウォッチ ジャパン TEL:03-3321-7807)

篠田:「ベンチュラ」は1957年に誕生した世界初の電池式時計。その特徴的なデザインは今でも廃れないかっこよさがあるよね。さらにハミルトンはLDEデジタル腕時計なども作ったテクノロジー系ウォッチブランドでもある。伝統に縛られずに挑戦するのがアメリカンウォッチの魅力なんだよね。

HAMILTON
ベンチュラ クロノ クオーツ

クオーツ、SSケース、縦50.3×横32.3㎜。¥110,000(ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン TEL:03-6254-7371)

二本柳:でも時計の製造はどこでやってるの? アメリカ?

「ばててないで、早く起きろー‼まだ会議は終わってないぞ‼」

篠田:ボールウォッチもハミルトンも、時計を作っているのはスイスなんだよね。高級時計の場合は、生産拠点をスイスに置かないと、時計職人も確保できないし、パーツや素材も手配できない。良い時計を作るとなると、製造インフラが整っているスイスは強いよね。世界最強のミリタリーウォッチであるルミノックス「ネイビーシール3600シリーズ」だってスイス製だから。

池上:ほんとだ。ちゃんと「SWISS MADE」って書いてある。サファイアクリスタルの風防ガラスやカーボン製のケース、200m防水の気密性、精度の高いムーブメントなどの高いスペックを見ると、スイスで作る意味がある。アメリカという世界最強国のミリタリーウォッチを、きちんとスイスで作っているというのは、逆に本気に見えてきますね。

LUMINOX
ネイビーシール3600シリーズ

クオーツ、カーボノックスケース、径45㎜。¥57,000(ルミノックス トウキョウ TEL:03-5774-4944)

鈴木:他にはこういうブランドはないんですか?

篠田:変わり種といえば、キューバ発祥のクエルボ・イ・ソブリノスかな。革命が起きる前までは、製糖業や貿易で潤っていたキューバは、富裕層も多くて時計もよく売れたんだよね。それで時計店クエルボ・イ・ソブリノスは、スイスで作ったオリジナルウォッチを作っていたんだ。革命後のブランドは消滅するけど、それ再興し、以前と同じようにスイスで時計を作っているのが、現在のクエルボ・イ・ソブリノスだね。

鈴木:キューバって、あのキューバですよね? だからか。「プロミネンテ ソロテンポ」なんて、ずいぶんモデル名が洒落ていると思った。ケースのフォルムも優美で綺麗だし、クラシックなんだけど色気がありますね。スイス発祥のブランドとは違った個性を楽しみたいなら、こういう選択肢は面白いですね。

CUERVO Y SOBRINOS
プロミネンテ ソロテンポ

自動巻き、SSケース、縦52×横33.75㎜。¥450,000[予定価格](ムラキ TEL:03-3273-0321)


後半:第4セット『さて、鈴木は何を買う?』

二本柳:あれこれと、時計の特訓をしてきたが、思った以上に鈴木が成長していることが分かって嬉しかった。しかし慢心はするなよ。そのために、まずは時計を買うこと!

篠田:身銭を切るとなれば、ブランドの歴史やモノ作りの哲学、あるいはデザインやサイズなど色々なことを調べるし、自分に必要な時計が見えてくるということは、すなわち読者が求める時計を理解できるってことだからね。

鈴木:今使っているのは、親から譲り受けたロレックス「サブマリーナー」なんです。すごく気に入っていて愛着があるのですが、自分の殻を破るという意味では、次のステップに行く時期なのかも。そうなると、サブマリーナーの格上ということでロレックス「シードゥエラー」かな。今年は初めてコンビモデルが誕生しました。1220m防水という本格的ダイバーズウォッチでありながら、洒脱さも持っている。実力と華やかさを兼ね備えた人間って、ちょっと憧れますものね。

ROLEX
シードゥエラー

自動巻き、SS×18KYGケース、径43㎜。¥1,530,000(日本ロレックス TEL:03-3216-5671)

池上:"なりたい自分"を時計に投影させるなんて、かなりセンスのいい時計選び。こいつ、やるな!

浦田コーチ:鈴木くんだけじゃなくて、みんな良く頑張りました! 明日の筋肉痛は仕方ないとして、また私の本業のビーチで待ってるわ♡

4人:さすが、鬼コーチ……。

終わり

Text=篠田哲生 Photograph=奥山栄一