2019はじめての高級腕時計案内 「体育会系!?編集部」早朝の時計企画会議<前編>

7月某日。今年も恒例の時計特集のために企画会議が行われようとしていた。しかし編集長・二本柳が会場として指定したのは、都内の体育館だった。一抹の不安を覚えながらも現地へと赴いた副編集長・池上と、記事を担当する時計ジャーナリスト・篠田は、"ドシンドシン"という音と、怒号が体育館の中から響いてくることに気が付く。訝しげに体育館のドアを開けると、そこにはプロビーチバレーボーラー浦田聖子から、バレーボールのレッスンを受ける二本柳の姿が……。


プロビーチバレーボーラー浦田聖子、登場!

池上と篠田が企画会議の集合場所に到着すると、なぜか編集長がバレーボールのレッスンを受けていた……。

時計ジャーナリスト・篠田哲生(以下篠田):おいおい、これはどういうことなの? そもそも編集長はバレーボールじゃなくてサッカー少年でしょ。

副編集長・池上(以下池上):そうですよ、ヤナギさん。しかもプロ選手まで呼んじゃって。何を目指しているんですか?

編集長・二本柳(以下二本柳):密かに東京オリンピックでバレーボール、楽しみにしてんだよ! それに、アイツ、アイツをしごき直そうと思って……。

――“アイツ”。それは時計担当として2年目を迎えた編集部・鈴木のこと。どうやら彼は高校時代にバレーボール部で活躍していたそう。しかもリベロというポジションであったことを鼻にかけ、「僕は何でもできますよ」と息巻いているのだという……。

二本柳:アイツが最も得意とするジャンルで、ぎゃふんといわせたい。そのために浦田コーチに秘密レッスンを受けてたってわけさ。ほら二人もボっとしてないで、着替えて一緒に特訓だ!

池上:ヤナギさん、正気ですか? しかもこのジャージ、「GOETHE」って入っているじゃないですか。

二本柳:編集部もそろそろオリンピックモードに入らなくちゃ、と思って!

篠田:でも、俺たちは40オーバーの立派なおじさんだよ(苦笑)。しかもここにいる3人はバレーボール誰も競技の経験はないし。高校時代の体育の授業ぶりじゃないの?

浦田コーチにゲキを飛ばされつつ、アップを始める池上(左)と篠田(右)。どことなく動きがぎこちない…。

浦田聖子コーチ(以下浦田コーチ):ほらほら、四の五の言ってないで早く準備しなさい!

――こうして謎のバレーレッスンが始まった。しかし、運動不足のポンコツボディはすぐに悲鳴を上げる。数十年前の記憶を辿りながら、円陣パスで体をほぐしていると、そこにアイツがやってきた。

編集部・鈴木(以下鈴木):遅くなりまし……って何をやってるんですか? お揃いのユニフォームを着てカッコよくまとめているつもりかもしれませんけど、もうヘロヘロじゃないですか? というか今日って時計企画の打ち合わせですよね?

二本柳:そうだよ。もちろんだよ。鈴木もユニフォームに着替えて、準備して。今回は、このバレーボールコートの中でお前の時計審美眼を問う。俺と浦田コーチでビシバシ鍛えるから、池上、篠田が鈴木をフォローするんだよ! まずは今年の新作の中で、「素材」が魅力的なモデルを挙げてみろ!

篠田、池上:そ、そういうことだったのか……。

高校時代はバレーボール部だったという新人編集・鈴木。アップ時には「何でもできますよ」と豪語していた通りに華麗なレシーブを連発していたのだが……。

前半:第1セット『素材』

鈴木:素材ですね。たしかにここ数年で色々な素材を使った時計が増えました。僕が好むのは、軽くて頑強で傷がつきにくいセラミックですね。この特性を生かしたIWC「パイロット・ウォッチ・オートマティック トップガン」はどうでしょう? IWCが得意とする定番のパイロットウォッチのデザインですが、ケースはセラミックです。

――そう言いながら、浦田コーチのサーブを軽々とレシーブをする鈴木。ボールは篠田の方へ!

IWC
パイロット・ウォッチ・オートマティック トップガン

自動巻き、セラミックケース、径41㎜。¥670,000(IWC TEL:0120-05-1868)

篠田:確かにいいところを突いてくるね。しかもこのモデル、ケースをマット仕上げにしている。ミリタリーウォッチは反射光を抑えるためにマットケースにするのがセオリー。それをセラミック素材でも忠実に守っているというのは見事だよね。しかし、セラミック素材の魅力はタフだけではない。オメガ「シーマスター ダイバー300M マスター クロノメーター ブラックセラミック&チタン」は、ケースだけでなく、ダイヤルの素材もセラミックを使用している。金属とは違った独特の質感が時計に新たな魅力を加えるんだ。

OMEGA
シーマスター ダイバー300M マスター クロノメーター ブラックセラミック&チタン

自動巻き、セラミックケース、径43.5㎜。¥870,000(オメガお客様センター TEL:03-5952-4400)

池上:素材の特性を生かすといったら、ゼニス「デファイ インベンター」が凄い。シリコン製のオシレーター(振り子)を使って高精度をたたき出すという最新のメカニズムで、これまでは約30個のパーツの集合体だった脱進機を1枚のプレートに簡略化し、高精度&高耐久という時計にしている。これはシリコン素材だからこそ可能になった技術です。しかもベゼル素材は、アルミポリマー合成素材のアエロナイト。素材の質感が、時計に迫力を与えていますよ。


ZENITH
デファイ インベンター

自動巻き、Tiケースxアエロナイト、径44㎜。¥2,040,000(LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパンゼニス TEL:03-3575-5861)

――篠田のトス&池上のスパイクで、ボールはネット越しの二本柳のところへ……。

二本柳:素材だったら、ウブロ「スピリット オブ ビッグ・バン イエローサファイア」だね。サファイアクリスタルという素材は、透明感があって綺麗なケースに仕上がるけど、ウブロはここをカラー素材にすることで、時計の美感をワンランク高めた印象がある。時計素材への注目は機能面から始まったけど、今ではデザイン的な魅力を引き出す方向へと役割を広げているんだよね。

HUBLOT
スピリット オブ ビッグ・バン イエローサファイア

スピリット オブ ビッグ・バン イエローサファイア 自動巻き、イエローサファイアクリスタルケース、径42㎜。¥11,140,000(ウブロ TEL:03-5635-7055)

――二本柳が華麗にレシーブしたボールに反応した浦田コーチが豪快なスパイク。鈴木の足元にスパーン! と決まった。

二本柳からのレシーブはややネットから遠ざかったが、浦田コーチがさすがの対応でスパイク!

前半:第2セット『復刻』

池上:最近の新作を見ていると、相変わらず「復刻」モデルが多いですね。例えば、タグ・ホイヤーの「オータヴィアアイソグラフ」は、1962年に誕生したモデルの歴史と伝統を受け継いでいる。ティソ「ティソ ヘリテージ 1973」やアルピナ「シーストロング ダイバー ヘリテージ」も歴史的傑作のスタイルを受け継いでいる。これらの時計に共通するのは、デザインや哲学を受け継ぎながらも、現代的にアップデイトしている点。これってどういう戦略なのでしょう?

――池上がレシーブしたボールが、篠田の後方へ飛んでいく!

篠田:これは難しい質問だね。そもそも復刻モデルというのは、既に長い時間をかけて多くの人から愛され、地位を確立した傑作がベースになっている。しかし、1960~70年代と現代では、時計に求められる性能は大きく違っている。時計の製造技術自体も進化しているし。例えば「タグ・ホイヤー オータヴィアアイソグラフ」の場合は、アルミ合金×カーボンコンポジット製ヒゲゼンマイという組み合わせにすることで、磁気の影響を受けず、COSC認定クロノメーターという形で高精度も追求できる。しかもデザイン自体はクラシックだけど、クラデーションダイヤルやメタルブレスレット&NATOストラップというインターチェンジャブル式を採用するなどなど、トレンド感も意識している。レトロだけど今っぽい時計だよね。

TAG HEUER
オータヴィアアイソグラフ

自動巻き、SSケース、径42㎜。¥425,000(LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー TEL:03-5635-7054)


ALPINA

シーストロング ダイバー ヘリテージ

自動巻き、SSケース、径42㎜。¥191,000(フレデリック・コンスタント相談室 TEL:0570-03-1988)

――篠田が何とかつなげたボールは鈴木の方へ。ネット越しで構える二本柳へ、全力でスパイクを放つ!

鈴木:1973年製モデルをベースにしたティソ「ティソ ヘリテージ 1973」は、ケース径が拡大していますし、ティソ「ティソ シーストロング ダイバー ヘリテージ」は、防水性能が30気圧にスペックアップしていますね。しかもブロンズカラーのPVD処理を施しており、クラシック&モダンな雰囲気ですね!

TISSOT
ティソ ヘリテージ 1973

世界限定1973本。自動巻き、SSケース、縦46.6×横43㎜。9月発売予定。¥238,000(ティソ TEL:03-6254-7361)

――二本柳が反応したボールはネットを超え、篠田がレシーブ。そして、池上が華麗にフェイントする。

二本柳:デザインとしては復刻スタイルであっても、サイズ感やスペックアップすることで、日常使いの時計として楽しめるようにするってことね。でも、復刻モデルを作ることができるのは歴史をもった名門だけだから、本物だけが持つクラシカルな魅力も味わいたいなぁ。

篠田:だったら、まずはロンジンでしょう。歴史と実績は申し分なし。昨今の復刻時計のブームを作りだしたブランドですからね。「ロンジン スキンダイバー」は、1959年に作られたロンジン初のダイバーズウォッチの復刻。原点モデルに合わせてノンデイト仕様になっているというのがいいでしょ。

LONGINES
ロンジン スキンダイバー

自動巻き、SSケース、径42㎜。¥312,000(ロンジン TEL:03-6254-7351)

池上:ロンジン。確かにいいですよね。モンブランはどうでしょう。クロノグラフの名門ミネルバを傘下に収めており、その歴史と伝統をしっかり受け継いでいます。「モンブラン ヘリテイジ パルソグラフ リミテッドエデョション 100」は、1940~50年代に作られたクロノグラフの復刻モデルですが、デザインはもちろん、モノプッシャー式クロノグラフムーブメントCal.MB M13.21も手巻き式という当時のスタイルを継承。まさにクラシックの極みですね。

MONTBLANC
モンブラン ヘリテイジ パルソグラフ リミテッドエディション100

世界限定100本。手巻き、SSケース、径40㎜。¥3.260,000(モンブランコンタクトセンター TEL:0120-39-4810)
初心者とは思えぬ素早い反応で、華麗にフェイント。

篠田:お、ナイスフェイント! でもリアル復刻系であれば、ブライトリング「ナビタイマー Ref.806.1959 リ・エディション」がすごいよ。1959年製ナビタイマーのデザインを忠実に再現するために、ムーブメントから改良しています。これは針の位置まで正確に再現するためで、しかも当時に合わせて手巻き式にしています。さらに風防ガラスもアクリルガラスを使用していますからね。こういう時計からは、歴史と文化を継承したいという強い意識を感じますね。

BREITLING
ナビタイマー Ref.806. 1959 リ・エディション

世界限定1959本。自動巻き、SSケース、径40.9㎜。¥960,000(ブライトリング・ジャパン TEL:03-3436-0011)

――篠田と池上の懸命なフォローによって、3人が長いラリーを制した。

前半:第3セット『ドレスウォッチ』

二本柳:スーツやジャケットスタイルも多いんだから、鈴木もそろそろドレスウォッチも手に入れたいはず。しかしドレスウォッチは基本的に普遍的なデザインだから、今年っぽい時計を選ぶのは難しい。僕だったらグラデーションダイヤルでトレンド感を加えたジラール・ペルゴ「GP1966“アース・トゥ・スカイ”エディション」だね。

GIRARD-PERREGAUX
GP1966“アース・トゥ・スカイ”エディション

世界限定149本。自動巻き、SS(ブラックDLC)ケース、径40㎜。¥940,000(ソーウインド ジャパン TEL:03-5211-1791)

――この時のために練習してきたというジャンプサーブを披露する二本柳。リベロを経験した高校時代を思い出したのか、鈴木がダイビングレシーブ。池上、篠田へとつなぐ。

鈴木:ブルーダイヤルのドレスウォッチってお洒落ですよね。僕はボーム&メルシエ「クリフトン ボーマティック」に注目しています。デザインは端正ですが、ブルーのグラデーションダイヤルが綺麗ですし。しかもこの時計はムーブメントも凄い。耐磁性能や120時間のロングパワーリザーブ、COSC認定クロノメーターの高い精度など、ユーザーメリットがかなり大きい。価格もこなれていますし、"初めてのドレスウォッチ"としても最適ですよね。

BAUME & MERCIER
クリフトン ボーマティック ブルーグラデーション ダイヤル COSC

自動巻き、SSケース、径40㎜。9月発売予定。¥330,000(ボーム&メルシエ TEL:03-4461-8030)

池上:なるほど、いいポイントだよね。でもコストパフォーマンスの優れたドレスウォッチという点では、ミドー「バロンチェッリ キャリバー80 クロノメーター シリコン」にも注目ですよ。シリコン脱進機を搭載し、クロノメーター認定の精度と80時間連続駆動ですからね。ところで篠田さん、どうしてパワーリザーブが長い時計が増えているんですか?

MIDO
バロンチェッリ キャリバー80 クロノメーター シリコン

自動巻き、SSケース、径40㎜。¥135,000(ミドー/スウォッチ グループ ジャパン TEL:03-6254-7190)

篠田:いいトスを上げるねー。パワーリザーブが長ければ、金曜日の夜に帰宅して時計を外しても、月曜日の朝まで時計が止まらずに動いているでしょ。スーツに似合うドレスウォッチは、週末はつけないでしょ。だから端正なドレスウォッチこそ、ロングパワーリザーブが求められるんだよ。

鈴木:なるほど。それ以外でドレスウォッチの見所というと、どこになるんですか? 池上さん!

池上:うぁっ、同じチームなのにプレッシャーかけるなあ。えーっと、機能が極めてシンプルなのでダイヤル装飾が大切になるんじゃないかな。例えばポール・ピコ「アトリエ・フランケ」は、ギヨシェ彫りしたダイヤルにグラン・フー・エナメルを施す「フランケ・グラン・フー・エナメル」という技法を使っており、とってもきれいですよ。

PAUL PICOT
アトリエ・フランケ

世界限定88本。自動巻き、SSケース、径42㎜。¥723,000(一新時計 TEL:03-6854-5802)

二本柳:コートの隅を上手い感じで狙ってくるねー。でも俺はやっぱり王道派。ジャガー・ルクルト「レベルソ・クラシック・ミディアムスリム」とかいいよね。1932年に生まれた揺るぎなきアールデコウォッチは、時代を超える普遍的な美しさがある。新作なんだけど、いつでも変わらないスタイルがある。だからいつまでも廃れないんだぞっと!

JAEGER-LECOULTRE
レベルソ・クラシック・ミディアムスリム

手巻き、18KPGケース、縦40.1×横24.4㎜。¥1,525,000(ジャガー・ルクルト TEL:0120-79-1833)
篠田、池上が編集長のアタックを懸命にブロックするも……。

――浦田コーチのトスから豪快なスパイクを放つ二本柳。ブロックなどものともせず、ど真ん中を射抜いた!

前半:第4セット『国産ウォッチ』

二本柳:鈴木も予想以上に、時計知識がついてるじゃないか。じゃあ今度のテーマは「国産ウォッチ」でいこうかな。機械式時計に傾倒するスイス勢とは違って、日本の時計ブランドは、ハイテク技術を駆使して実用性にも磨きをかけている。俺が注目しているのは、カシオ「オシアナス マンタ」。ハイテクウォッチの弱点は、内蔵する電子デバイスの関係で小型化が難しいこと。しかしこのモデルは、GPS機能を外す代わりにスマートフォンとの連動を深めることで、機能性をキープしながらモジュールの薄型化に成功。ハイテクウォッチとしては驚異の薄さである9.5㎜厚を実現したんだよ。こすごさがわかるか?

OCEANUS
 オシアナス マンタ OCW-S5000E-1AJF 

クオーツ、Tiケース、径42.3㎜。¥180,000(カシオ計算機 お客様相談室 TEL:03-5334-4869)

――二本柳が高々と打ち上げた天井サーブを、鈴木を襲う!

鈴木:確かに国産ウォッチのハイテク化は、スイスとは違った進化を遂げていますよね。僕が注目するのは、シチズンの年差クオーツムーブメントCal.0100を搭載した「ザ・シチズン」ですね。時間厳守は社会のルールですが、だからといって流石に一秒単位で生活している人はいませんよね。しかし、GPSなどの外部技術を使わずに年差±1秒という超高精度を追求するという姿勢には、クオーツウォッチの最高峰を目指そうという強い意志を感じます。そういう時計に惹かれますね。

CITIZEN
ザ・シチズン キャリバー 0100

世界限定100本。クオーツ、光発電エコ・ドライブ、年差±1秒、18KWGケース。9月発売予定。¥1,800,000 (シチズンお客様時計相談室 TEL 0120-78-4807)

浦田コーチ:わお、完璧なレシーブ!!

後編に続く


Text=篠田哲生 Photograph=奥山栄一