職人の手仕事が生みだす価値
ありきたりのコラボレーションでは終わらせたくない。完成したカシオのオシアナスの江戸切子シリーズ第4弾「OCW-S5000EK-1AJF」からは、江戸切子職人・三代秀石 堀口徹氏の意気込みや熱量が伝わる。
「このコラボ企画も通算で4度目を迎えました。発足当初は、自分たちの技術、カシオさんの生産体制まで視野に入れて、技術的にどんなことができて、どんなことができないのか、それらを探りながら製品化に向けて取り組みました。蓋を開けてみると、第1弾のセールスは大成功でしたが、打ち上げ花火で終わるのでは意味がないので、プロジェクトが継続していくことを視野に入れていました。ひいては、腕時計の加工技術のひとつとして江戸切子を広く認めてもらえるようになることを目標に掲げています」
江戸切子とは、江戸時代後期から受け継がれる日本の伝統工芸であり、ガラスの表面に彫刻を施す技法を指す。最大の特徴は、美しい文様を生みだす繊細なカットにある。カシオと江戸切子との協業によるプロダクトは、紋切型の「和」を全面に打ちだす路線には走らず、あくまでも現代のライフスタイルに寄り添うデザインを心がけているところに大きな魅力がある。
「やっぱり多くの人に手にとってもらえることは評価のひとつに違いないから、売れることは単純に嬉しいですよ。そのためにも、僕らは今の時代に見合った“身につけられる時計”を作らなければならない。江戸切子と聞くと食器を連想される方が多いと思いますが、その歴史を掘り下げると、かんざし、筆立て、文鎮など、その時代に応じて作るものを変えながら、何世代にもわたって技術を継承してきたことがわかります。基本となる十数種類の柄にしても、すべてが初めからあったわけではなくて、足されたものもあれば、不要なものは淘汰されて今にいたっています」
堀口氏の作品には、どことなくモダンな雰囲気があるのだが、そこに宿るのは先達が築き上げた江戸切子の本質、精神性に他ならない。
「サファイアガラスの強度、ベゼルというパーツの面積の中でやれることは限られてくるのですが、第1回目から一貫してこだわり続けているのが、ひとつひとつのカットに対して一定のクオリティを保つことです。これが作家さんなら、個体差が作風になったり、味わいになるのですが、自分たち職人は一点ずつ寸分の狂いもなく均一に柄を仕上げることに注力します。機械にできる技術との違いを出すための工夫も不可欠です。実は回を重ねるごとにカットの難易度を上げていて、今回は9時位置にあるインダイヤルを中心にした40本の千筋を入れる偏心カットに取り組んでいます」
言うなれば、江戸切子と腕時計との出合いは偶然ではなく、必然なのだろう。伝統と革新とは、挑戦の連続によって初めて成り立つのだ。
“斜光”が織り成す青のグラデーション
江戸切子の千筋を施したサファイアガラス製のベゼルは、オシアナスのシンボルカラーである「青」の世界観を表現するうえでも重要な役割を担っている。
サファイアガラスを磨き、江戸切子カットなどの工程を経て行われるブルーブラックグラデーション蒸着は、今回のテーマである「斜光」のイメージに沿って新たに開発されたものだ。まるでガラス細工のような雰囲気を再現したベゼルは、ブルー、パープル、ブラックの順でグラデーションになっている。さらに、中心軸をずらした放射状の切子の模様によって、斜めから光が差しこむことで美しい陰影が生みだされる。つまり、光の移ろいによって、輝きが変わるベゼルの仕上げは、両者のコラボレーションの証しなのだ。たとえ同じ時計であってもシチュエーションで見え方や表情が様変わりする。堀口氏いわく、これは江戸切子が本来備えている魅力そのものだという。
オシアナス「マンタ S5000」シリーズならではの先鋭的なデザインについても言及したい。ブルーで統一されたインダイヤルは、受光効率の高いソーラーセルを採用。これによって、透過性のない文字盤の搭載が可能となり、ダイヤルデザインの自由度を高めている。
日本の伝統工芸と最先端のテクノロジーの融合は、あらゆる角度から“究極の精度”を探求する。試行錯誤の末に完成された腕時計は、オシアナスが理想とする“新しいエレガンス”の姿を描いている。
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カシオ計算機 お客様相談室
TEL:03-5334-4869
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TEXT=戸叶庸之
PHOTOGRAPH=五十嵐 真
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