世界に認められた日本の食文化新時代 革新する「新」和食

無形文化遺産に登録され、世界中から注目を浴びる「和食」だが、正統な日本料理に挑戦するがごとく、新時代の和食の台頭も目覚ましい。新たなる発想や技法を取り入れた先鋭の「新」和食が今、世界に羽ばたく!

『サル ドゥ マキノ』 

 特製のピザ窯を中央に据えたオープンキッチンのカウンター。煉瓦(れんが)や古材、漆喰(しっくい)の白壁でまとめた居心地のいい空間にきらめくシャンデリア。カトラリーと違和感なく並ぶ箸以外、しつらいは完全な洋のスタイルだが、フレンチテイストの和食を謳う。

昨年9月にオープン。1階はカウンター席、2階にテーブル席を備える。


「日本料理の素晴らしい文化・伝統を大切にしながら、フランスでの経験を生かした自分なりのイノベーション、“国境なく進化していく料理”を表現したい」とは、店主の牧野雄太氏。高校卒業後、料理の世界を志し、高下駄を履くガチガチの和食で腕を磨いた。バター、生クリーム、肉も使ったことがなかった牧野氏が洋のアレンジに目覚めたのは、『NOBU TOKYO』。その後、フランス・ストラスブールの日本総領事館で公邸料理人、帰国後は元麻布『東郷』の料理長を経て、感性に磨きをかけた。

長年研鑽を積んだ正統派の和食を礎にし、習得したフレンチの技法も生かす、店主の牧野雄太氏。


 メニューは潔く店主のおまかせコース1本のみ。温かい料理に始まり、前菜のパフェ、口直し、魚料理に肉料理、食事にデザートという仕立て。旬を捉えた素材で温と冷、濃と淡、強と弱、甘みや酸味で緩急をつけながら、ストーリー性のある料理でグイグイ引きこんでいく。

「ごま豆腐と地豚の角煮のかぶら蒸し大根の和風ポタージュ」 本葛を使った自家製ごま豆腐、バルサミコでさっぱりと仕上げた豚の角煮を、牛乳と生クリームでまろやかに仕立てたかつお出汁(だし)が美味にまとめる。天に盛ったわさびで旨さも倍増。


 例えば、2品目に供する前菜のパフェは、ひとたび口にすれば、かつお出汁と鶏のジュレ、洋野菜、アボカドのアイスクリームが渾然一体となり予想外の感動を呼ぶ。五味を取り入れつつ、風味を大切にするのが牧野氏の身上。海外赴任中も、シソや山椒をわざわざ栽培したほどこだわりも強い。ストウブのココット鍋に有田焼、朱塗りの椀も自在に使いこなすプレゼンテーションの手練(だ)れぶりも秀逸だ。

鰆の竜田揚げ セロリアークと大和芋のソース 蕎麦の実のクスクス。純然とした和の魚料理に絶妙なさじ加減で洋のアレンジを加えたひと皿。料理はすべて、店主のおまかせコース¥5,800より。
大山鶏のコンフィと洋野菜の冷製パフェ仕立て。しっかりと具材をかき混ぜながら味わう。プレゼンテーションも斬新な定番の前菜。


 伝統を踏まえたうえでの柔軟性に富む発想とオリジナリティ。和食はさらに次のステージへ。そんな展開を期待させる。

Salle de Makino
TEL:03-6805-1653
住所:東京都港区西麻布2-12-6
営業時間:17:30~L.O.21:30(日曜17:00~L.O.21:00)
休み:月曜
席数:1階10席、2階20席
個室1室(2~6名)カード使用可
アクセス:地下鉄乃木坂駅5番出口より徒歩15分

『お料理 さ行』

 六本木のネオン街から外れた路地裏で、店を構えて3年。開業当時はランチこそ賑(にぎ)わうものの、夜は閑古鳥が鳴く日々が続く。店主の佐藤正也氏は料亭『赤坂きくみ』で8年修業、銀座『懐石川端』では料理長を務めた人物。だが顧客名簿に頼らず独立したのだから、無理もない。

奥はカウンター席。兄弟ふたりで切り盛りする。現在は夜のみ営業。


 メニューはおまかせコースの正統派会席料理。ところが2年過ぎ、徐々に客足が増えたところで一転、すり流しをソースに見立てて盛りつけたり、味付けに澄ましバターを用いたりと、料理が変化を見せ始める。

「すっぽんの冷製」中央はウニとすっぽん玉子豆腐。周囲はすっぽん出汁(だし)を煮詰めて自然に固めたもの。ここに熱々のすっぽんスープを注ぐとお椀のように。乾燥させたネギや生姜のあしらいも斬新だ。


「もともと、自分の店でしかできないことをやりたいと思ってまして。和の基本を外すなんて修業先では許されませんでしたから」と佐藤氏は笑う。そんな“遊び”がピタリとはまるのも、確かな基礎があってこそ。以降店は繁盛、今や予約困難に。嬉々として和食に新たな息吹をもたらす様子は、解き放たれた鳥のよう。どこまで飛躍を遂げるのか、目が離せない。

1.定番の胡麻豆腐。空豆のすり流しをソース風に。料理はすべておまかせコース¥7,140より。
2.焼き物盛り合せ。ボリュームがあり、コストパフォーマンスのよさは秀逸。
Oryouri Sakou
TEL:03-3478-5141
住所:東京都港区六本木7-6-6
営業時間:18:30~22:30(前日までに要予約)
休み:日曜
席数:13席
アクセス:地下鉄六本木駅7番出口より徒歩4分

『食通楽 菊坂』 

 食べ慣れた相手を食事に誘う場合、店選びに頭を悩ませることも多いが、料理の味や店の雰囲気、ロケーションを含め“総合点”の高い和食店は、ここぞという時の切り札になる。

ガラス石を用いたカウンターが印象的。8席のみの落ち着いた空間。


 昨年9月に開店した『菊坂』には、美味を知り尽くした食通を満足させる要素が多く揃う。ハワイの有名和食店で料理長を務めた、見聞深き店主が紡ぎだすのは「新しい発見のある日本料理」。調理法はもとより、赤ワインや白ワインビネガーを用いるなど、調味料も“和”のものに限定せず、素材の持ち味を引きだすことに注力する。食材に何を足し、何を引くべきか──。その答えが明確に反映された料理は、和食ひと筋ながら、多くの食文化に精通する店主の経験値と柔軟性を物語る。

「和牛ホホ肉の赤ワイン味噌煮」赤ワインやフォン・ド・ヴォー、ホールトマトとともに煮込んだ牛ホホ肉。判は大きいが、箸ですっと切れるほど柔らかい。アクセントとして京桜味噌を加えるのが『菊坂』流。
1.北海道産 帆立貝とほっき貝の若芽酢。料理はすべて¥7,140のコースより。


2.青森産めばる筍豆腐 春の香りとともに。


 美しい焼き物や店名にちなんだ菊の絵画を配した空間は、清廉さをたたえつつも、なごやかな雰囲気。四谷というロケーションも申し分ないゆえ、予約困難となるのは時間の問題だ。

Syokutsuraku Kikusaka
TEL:03-5315-4614
住所:東京都新宿区四谷4-24-1 瀧澤ビル 1F
営業時間:18:00~20:00最終入店
休み:日曜・祝日
席数:8席
アクセス:地下鉄四谷三丁目駅2番出口より徒歩8分

『白金台 こばやし』

 白金台の閑静な住宅地。隠れ家のようにひっそりと佇む和食の新鋭が、ここ『白金台 こばやし』だ。主人の小林和道氏は、神戸で22年間修業。うち15年は老舗割烹店などで料理長を務めたほどのキャリアの持ち主だ。

小林和道氏と女将の綾子さん。ふたりでもてなす温もり溢れる店。


 昨年の11月、夫婦で始めたこの店では、伝統的な和食のセオリーは守りつつも、現代の手法をさり気なく取り入れ、独自のスタイルを創りあげようと日々邁進している。

「カキ真丈ロマネスコのポタージュ」北海道産真昆布をひと晩水につけて昆布水をとり、温度を微妙に調整しつつたっぷりの本枯れ節を加えたベーシックな出汁(だし)にイタリア野菜のロマネスコを合わせる発想が面白い。


 例えばコースの箸休め的に登場する握り。魚ではなく小林氏の故郷である兵庫県宍粟(しそう)市の銘柄牛「宍粟牛」の極上サーロインを用い、アクセントに生ウニをトッピングしたそれは、これまでの和食とはひと味違うインパクトを与えてくれる。刺身にしても醤油のあたりが優しくなるよう、醤油をムース状にして合わせるなど、目先の面白さにとらわれるのではなく、より味を引き立てるための変化球。

1.お造りは、ブリ(左)とサワラの藁炙り。手前が醤油のムース。料理はすべて¥10,500のコースより。
2.宍粟牛の変わり焼きは定番のひと品。味噌漬けにした肉は実にジューシー。
3.静かな住宅街にひっそりと暖簾を掲げる注目の店。

 地に足の着いた料理人の新たな挑戦に注目したい。

Shirokanedai Kobayashi
TEL:03-5420-5884
住所:東京都港区白金台5-11-3 バルビゾン91 1F
営業時間:11:30~L.O.13:30/18:00~L.O.21:00
休み:不定休
席数:8席
個室1室(2~8名)
アクセス:地下鉄白金台駅1番出口より徒歩10分

『ヒロヤ』

 飄々として見えるが、情熱と努力の料理人なのだろうと推測する。フレンチをベースとした“Nippon Cuisine”をテーマに掲げるのは、昨年青山にオープンした『Hiroya』だ。シェフの福嶌博志氏がこだわるのは料理のジャンルではなく、食材が持つ風味を生かすための調理法。斬新な素材の組み合わせで、食べ手に感動と発見をもたらす。

シェフの福嶌博志さん。国産食材を扱うことに徹底してこだわる。


 南仏やベルギーのレストランでフレンチを、帰国後は六本木『龍吟』で日本料理、麻布十番『スリオラ』でモダンスパニッシュを体得してきた。さまざまな経験を積むなかで、自分の店をやるなら枠に捉われずに日本の食材を生かせる料理を作ろうと思うようになっていったという。

焼き白子とネギのヴァリエーション¥1,300。ソースはネギと鶏出汁、大和芋とローストしたネギで作るおやきも美味。
松皮カレイとカブ¥2,000。皮で包んだカレイは身がしっとり。カブは異なる調理法で。風味と食感の違いを楽しませる。
鉄鍋ご飯¥800。具材はほっき貝とキャベツ。米は知り合いの農家で作っている「佐賀びより」を使用する。

「伝統を継承しつつ、新しい料理を生みだしていきたい」
 メニューではなく“献立”、カトラリーではなく“箸”、ワインはもちろん、日本酒も置く。軸があるからこそ成立する、この店だけの美味を味わいたい。


Hiroya
TEL:03-6459-2305
住所:東京都港区南青山3-5-3-101
営業時間:18:00~L.O.翌2:00
休み:不定休
席数:14席
個室1室(2~6名)
アクセス:地下表参道駅A4番出口より徒歩6分

『靱本町がく』

「日本はジビエの宝庫。最近は、ジビエも和牛も熟成させる楽しみもある。多彩な表情がある日本の肉を使わない手はない」と、割烹料理の名店『川』で研鑽を積んだ今川岳氏は言う。はじめに供されたのは、月の輪熊の煮物椀。味わいは、凶暴で野性的という熊のイメージとは真逆。脂の精細な甘みが染みわたる優美な逸品である。今川氏の「月の輪熊こそ、和のジビエの王様と評すべきと思います」との言葉に共感させられたひと品だ。

主人の今川岳氏。法善寺『川』の煮方から、2013年5月に念願の独立を果たす。
「月の輪熊の沢煮椀」イメージに反し、月の輪熊はむしろ女性的と思えるほど、透明感ある澄んだ旨みが醍醐味。この日は福井産。ピンクペッパーの香りが全体の風味を鋭く引き締める。¥2,400。

もうひとつ、力を入れる熟成肉の炭火焼きは、和牛以外に猪なども駆使し、見事に素材を和に引き寄せる。そんなアグレッシブな作品が単品料理でも充実。
「奇をてらわずとも、時代の感覚に素直に作れば、自然に新しい日本料理になると思います」
 その言葉に、今川氏の思いと隠れた自信が溢れていた。

1.7週間熟成の、なにわ黒牛とイチジクの柚子味噌炭火焼き¥2,500。
2.造りはサバのスモーク、ビーツ、天王寺蕪。キレのいい柿酢ソースも斬新。¥800。単品料理も充実。夜のおまかせは¥10,500~。
Utsubohonmachi Gaku
TEL:06-6479-3459
住所:大阪府大阪市西区靱本町1-14-15
営業時間:12:00~14:30/17:00~L.O.22:00
休み:日曜・祝日
席数:14席
個室1室(4~6名)
アクセス:地下鉄本町駅28番出口より徒歩3分
※要予約(昼は3名以上で前日までに要予約)

『日本料理 翠』 

「安易に洋素材に走らなくても。日本の素材を深く掘り下げることで、まだまだ新しい和食は創造できます。僕はフランス料理風和食には、したくないと思っていますから」と言い切る若き主人、大屋友和氏。その鋭い慧眼(けいがん)を雄弁に実証する作品たち。例えば梅麹ソースのお造りは、醤油を封印し米麹で。稀少な猪のホホ肉煮には、フキノトウ味噌で、従来の和食の域に収まらないほど大胆に苦みを強調する。

大屋友和氏は、デザインやアートを学んだ経歴も。鋭い美意識が当然料理にも。
「鯛と帆立の焼き霜造り 梅麹がけ」米麹を甘みと酸味が増すよう店内で適切に熟成させ、梅と合わせる。梅麹はハモ料理や、醤油にも応用する。つけ合わせのセリの一種、ハマボウフウの爽やかな苦みにも心が躍る。
1.猪ホホ肉の朴葉蒸し。料理はすべて¥10,500のコースより。
2.足赤エビとアスパラ、馬のたてがみ脂のもろみ漬け焼き。


「山菜やセリ科の植物は、香りも風味も強烈な和のハーブ」と大屋氏。他にも馬の首筋の脂をラルド的に活用したり、肉以外でも甘鯛やサワラも熟成させて使用する奔放な試みは無限だ。
 法善寺の名割烹『川』から独立を果たし3年目。心斎橋の秘密めいたビル奥のフロアで、今日も21世紀の日本料理を見据える新たなる快作が、静かに熱く生みだされる。

Nihonryouri Sui
TEL:06-6214-4567
住所:大阪府大阪市中央区東心斎橋2-8-23 イケダ会館1F
営業時間:17:30~L.O.23:00
休み:水曜
席数:14席
アクセス:地下鉄心斎橋駅6番出口より徒歩5分

『西天満 岩さき』

マグロの造りは醤油ではなくアボカドとマスカルポーネのムースをたっぷりつけ、豊かなコクに。唐墨餅にはペッパーベリーに加え、思い切りよくパルミジャーノ・チーズをふりかけ、味に厚みを増していく。主人の岩崎雷太氏の料理は、その右耳にギラリと光るダイヤのピアスから想像する以上の、腕白なアグレッシブさがある。

主人の岩崎雷太氏。すべての料理をひとりで仕上げる。


「フランス料理も修業しました。スペイン料理も好き。休日には今はなき神戸の『ジャン・ムーラン』などに通っていました。しかし、フレンチの食材や技法の和食への応用はトゥーマッチでもいけない。もちろん素材が最上級でないと創作も無意味になる」と自戒も忘れない。

「赤座エビのカダイフ揚げ」 赤座エビのアメリケーヌに赤味噌を加えたソースは、しみじみとふくよかな和の風情。アマランサス、ナスタチウムなど、色鮮やかな食用花を活用した盛りつけにもセンスが輝く。
1.立地、空間とも格別な落ち着き。座敷を借し切っての接待にも好適である。料理はおまかせのみで昼¥3,800~、夜¥10,500~。
2.氷見ひっさげマグロ、腹身の造り。黒ニンニクソース、アボカド・マスカルポーネ。料理はすべて¥10,500のコースより。
3.唐墨餅、パルミジャーノ。

 見事な木曽檜のカウンターに上る料理は、昨年春の開店以来、「京都にも大阪にもない、岩崎さんだけの料理やね」と静かに、確実にファンを増やしている。

Nishitenman Iwasaki
TEL:06-6363-2299
住所:大阪府大阪市北区西天満2-3-2
営業時間:12:00~L.O.14:00/17:30~L.O.22:30
休み:不定休
席数:18席
個室1室(8~12名)
アクセス:地下鉄大江橋駅5番出口より徒歩4分
※前日までの要予約


Text=粂 真美子、小久保敦郎、小寺慶子、森脇慶子、寺下光彦 Photograph=菅野祐二、福森クニヒロ、岩本浩伸


*本記事の内容は14年2月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい