アジア企画 眠らぬ街・上海の摩天楼に潜む美食スポットへ

この街を人に例えるなら、妖艶に変身を遂げる女性のよう──昼間はビジネスの活気に溢(あふ)れるが、夜の帳(とばり)が下りると華やかに煌(きら)めき出す上海を、そう評する日本人マダム、メイクアップアーティストのヒキタ ミワ氏が眠らぬ街の美食店に案内する。

高級店から路地裏の名店まで上海を知り尽くすマダム
NAVIGATOR ヒキタ ミワ氏

上海在住歴20年超。メイクアップアーティストとして活躍する傍ら、「La Carina Makeup Class」を主宰。流暢な中国語を駆使して上海の"旬"を取材し、『All About』や『Concierge 上海』でグルメ、美容情報を発信している。

上海のレトロとモダンが交錯するバーで渾身の一杯を

エビのミニタコス58元/揚げた餃子の皮が中国らしい。

 長年廃墟だった石造りの館を瀟洒(しょうしゃ)なビルに再建した「張園99」。上海の今と昔を体感できるバーとして、ヒキタさんが薦める「エル・オチョ」は階段を上りきった最上階に隠れ家のように佇む。扉を開けるとスノッブな中国人や外国人で溢れ、常にここには濃密な高揚感が漂っている。

 店を仕切るのは日本人バーテンダーの滝井 薫さん。プレミアムテキーラ、アルトスが主催するカクテルコンテストの中国大会で優勝した実力派で、和の感性を取り入れた独創的なカクテルが人気だ。つまみはスモールポーションのタパス料理を。スパイシーなエビのタコスやアンチョビが、酒の味わいに絶妙なアクセントを与えている。

 異国文化を楽しむ空間で、グラスを傾け会話に耽(ふけ)る人たち。その風景はさながら華やかな租界時代の社交場のようだ。

ビールベースのカクテルにはドライアップルとキャビアを載せて/168元。
エル・オチョ(el Ocho)
TEL:6256-3587
住所:3/F, n.99 Taixing Rd., Jing'an District, Shanghai
営業時間:18:00~翌2:00、16:00~翌1:00(日曜)
休み:元日
URL:http://elwillygroup.com


安全な素材の滋味に上海人を目覚めさせた雲南料理店

伝統的な雲南スタイルの内装を赤い照明が照らす。

 雲南省出身の3人兄弟が経営する「ロストヘブン」は、上海でも珍しい雲南料理の専門店。野菜を生で食べない上海料理に対してハーブやネギ、トマトなどのフレッシュな野菜をふんだんに使った料理は、ヘルシーで連日超満員の人気店だ。

 素材は雲南省から取り寄せるか、自前の畑で作るこだわりぶり。「雲南風酸辣湯(スーラータン)」はキノコの出汁(だし)とトマトの酸味が絶妙に溶け合うまろやかな味が魅力。

雲南風酸辣湯には、キノコや湯葉、そしてナマコやたっぷりの生姜が入る。栄養満点で、お代わり必須の美味スープ98元。

 また、刻んだネギがたくさん入ったクリスピークレープも、カリッとした食感とゴマ油の香りで病みつきになる。いずれも食感、味、香りの三拍子が揃うバランスのよい料理ばかりだ。

「新鮮な素材の味を楽しませてくれるこの店は、上海では貴重な存在。10年以上も通っています」とヒキタさん。

 良質な食材を安心して味わう、その価値観を上海に植えつけた功績も大きい美食店だ。

雲南ナスと豆腐のサラダ50元/淡白なナスと豆腐に、香菜やニンニク、唐辛子のソースがピリッと絡む。
ロストヘブン(LOST HEAVEN)
TEL:6330-0967
住所:No.17, Yan'an E.Road, Shanghai
営業時間:11:30~14:00/18:00~翌1:00
休み無休


地元の食通が愛する上海蟹の聖地

上海蟹のツメは、黒酢か生姜入りの甘酢でいただく。腕の身とアスパラ炒めや、蟹味噌と身の和え物など、蟹づくし6品で950元。

 上海グルメの筆頭格、上海蟹。毎年秋の解禁とともに上海に出かける人も多いが、忙しくて旬を逃し涙する人もいるはず。でも、この街を知り尽くすヒキタさんから朗報が。実は、年間を通じて極上の上海蟹を楽しめる名店があるのだ。

 その店の名が「新光酒家(しんこうしゅか)」。最上級の上海蟹が獲れることで有名な陽澄湖(ようちょうこ)で、養殖の免許を持つ老舗中の老舗だ。

裏通りに30年以上も店を構える名店。

「この店が一番美味しいですね。わざわざ香港から著名人もお忍びで訪れるほどですから」と太鼓判を押すヒキタさん。美味のその秘訣は独自の餌、小エビにあるそう。栄養満点の小エビで育った蟹肉は、えも言われぬ豊かな甘みを持つのだとか。

 熟練の店員が剥(む)く蟹の量は、1日三千杯になることも。その華麗な手さばきに見とれつつ、前菜の酔っぱらい蟹と紹興酒を。続く蟹オンパレードのコースで、恍惚となること必然である。

紹興酒に漬け込んだ酔っぱらい蟹の身は、甘くて濃厚で官能的。1杯80元。
新光酒家(Shinko Shuka)
TEL:6322-3978
住所:512号, Tianjin Rd., Huangpu, Shanghai
営業時間:11:00~14:00、17:00~22:00
休み無休


食文化人類学を考察する劇場型日本食レストラン

映像と音楽、料理を披露しながらコースは進む。

 ヒキタさんが数ある日本料理店のなかでも、最近注目しているのが「アンソロジア 地球美食劇場」だ。巨大なスクリーンと舞台を活用して日本食をプレゼンテーションする、劇場的な演出が新しモノ好きの上海人の間で噂だからである。

 午後7時、隈取り顔の店主・鰤象(ぶりぞう)氏が登場し、歌舞伎のごとく口上を述べる。今宵の舞台ならぬ食事の幕開けだ。料理は全8品で、映像や音楽とともに紹介される。

店主の鰤象氏/「海老蔵ならぬ、鰤象でございます」

 例えば魚料理の時は、長崎の美しい海と漁(りょう)の風景を大きく映し出すといった具合に。

 エンタテインメント的要素も含むが、現地の人はいたってまじめに薀蓄(うんちく)満載の趣向に興じる。なぜならここは、日本への知的好奇心を満たす空間だからだ。

 上海人の日本の食文化に対する関心の高さを観察するもよし、出張の際、現地の人を伴う会食に選ぶもよしの1軒だ。

ロブスターとフォアグラの鬼殻焼き/12時間煮詰めた赤味噌牛骨ソースで贅沢に。
アンソロジア 地球美食劇場(Anthologia)
TEL:5279-9277
住所:Bldg 6, 381 Fanyu Lu, near Fahuazhen Lu, Shanghai
営業時間:18:30~23:00(完全予約制)
休み日曜


上海の祖母から伝わる伝統的で優しい家庭料理を

エビフライは甘酸っぱいチリソースとともに。98元。

 "子供の頃に食べた上海人のおばあちゃんの手料理"がコンセプトの「1221」。香港育ちのオーナーが上海に移住した時、大好きだった祖母の優しい味がどこにも見つからず、ならば自分でと作ってしまった店である。身体を冷やすことをよしとせず、油で火を通すのが特徴の上海料理。だが、20年ほど前は劣悪な油でギトギトな料理を供す店が多かったと、ヒキタさんも当時を振り返る。

 オーナーが厳選した良質な食材や香辛料で作るエビチリや青菜炒め、豚の角煮などのおなじみのメニューは、シンプルだが絶妙なさじ加減で本来の上海家庭料理を再現。「まさに身も心も温まるこの味を求め、多くの食通たちもやってきますよ」と長年贔屓にするヒキタさん。

 過密スケジュールの出張時など、こんな1軒をおさえておけば格好の癒やしになりそうだ。

左:大豆と青野菜を足して2で割ったような風味のドラゴンビーンのピリ辛炒め48元/右:ひき肉がソースのコクを増すエビチリ。68元。
1221(Yao er er yao)
TEL:6213-6585
住所:1221 Yan'an Xi Lu, near Panyu Lu, Shanghai
営業時間:11:00~14:00、17:00~23:00
休み:年中無休

Text=伊藤美智子 Photograph=岡村昌宏

※料金はすべて消費税・サービス料別。*本記事の内容は16年9月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格) ※1元=¥15.2(9月8日現在)