食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.5

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを数回にわたって綴る。  


グルメ有名人の追っかけ族 & 食のスタンプラリー化

芸能界No.1グルメ王と言われる渡部建さんが案内する「渡部の歩き方 グルメ王の休日(2016年からhuluで月イチ配信)」。彼が食べておススメしているすべての店を追いかける人が出てきているそうだ。

かと思えば、食に精通している秋元康さんが大井町の中華「萬来園」で34種のメニューを食べた記録を、とある人が午前2時まで食べ続け、38種メニューを食べて破ったと言う。

店主のオヤジさんもその時食材をそこまで用意してなくて、かなり苦労した様子。

なんだか、美味しい食を楽しみつつ、ゲーム化、記録化そのものが目的になってきている人も多くなっている。何なんだろう。

実際に蕎麦でもラーメンでも「食べログ百名店」を全部周った人もいるという。この百名店のリストは毎年変わるので追いかけるのも大変だと思うけど。

評判の人気店やミシュラン星持ちの店、食べログゴールド・シルバー・ブロンズ受賞店に全部行く人、もしくは何店訪問したかを競う「スタンプラリー的行動」をする人たちもたくさん出現してきている。

まあ、切手収集やなんらかのコレクターのような趣味とすれば、アリだけど、食本来の楽しみ方ではないなと思うのは僕だけだろうか。なんだかその人たちを見ていると、次行く店、またその次に行く店をどんどん決め続けなければならず、忙しない。毎回の食事に追われている感じがして、自分だったらストレスが溜まってしまいそう。

それでも、この連載1回目の原稿で書いたように外食回数が月平均4回程度の市場を少しでも拡大するには、こんな事でも良いのかもしれない。それが食市場の目標ならば……。

でもやっぱり一回行ったら終わり、ではなくて、その中で自分のお気に入りの店を見つけて何度も通い馴染みになる方がステキだと思う。

地方人気料理店の東京化

出張でもプライベート旅行でも地方に行くとその土地の美味しいものを食べられるのが楽しみなのは皆共通だと思う。

最近は逆転現象が起きていて、美味いものを食べるためにわざわざ地方に行く。正確に言えば、地方の人気料理店に行くためだけに交通費を使って移動する(これは旅ではなく移動)人が多く出現してきている。

このエスカレートぶりは、今までにはそれ程なかった現象。東京のグルメ達だろうが大阪のグルメ達だろうが、そのグルメさん達がどれほど遠くとも美味しいと言われれば移動する。

岡山の山奥、飛行場からタクシーで小一時間のところにある寿司店「ひさ田」、秋田の日本料理「たかむら」、名古屋から1時間かけて岐阜県の瑞浪という駅に到着、さらに迎車を利用して数十分の場所にある「柳家」にジビエや鰻などを求めてワンサカと人が押し寄せる。日帰りも多い。店も日帰りできるようにスタート時間から終電までを計算して料理を出してくる。もちろん京都辺りの有名店もこの例外ではない。

軽井沢のイタリアン「フォリオリーナ・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナ」あたりがその発端だったかもしれないが、軽井沢は東京から新幹線で1時間なのでハードルがそこまで高くなかったのは事実(予約はハードルが高いが……)。

九州鹿児島の寿司店「名山きみや」も今や一年待ち、静岡の人気天ぷら店「成生」も東京からだけでなく関西からも客が押し寄せ、年内予約は満杯。その後の予約もなかなか難しい状態になっている。

地方の人気料理店の値段はどんどん東京価格に近づいて行く、いや超えている店もたくさんある。そのため地元住民にも高いハードルになってきている。

東京では高級料理店の多くは、今や当たり前価格の2~3万円。この額を払える人、払いたくない人、払えない人、の格差が確実に広がっている気がする。

みんなが地方に移動して、お土産のひとつも買って帰れば地方活性化にも役立つのでそれも良いが、そんなこととは別にこういう店で地元の人は見かけないことに違和感を感じる。

僕も含めて、地元の方が行く事を邪魔をしているのではないか、と、つい感じてしまう。

本当は地元の人のためにスケジュールを空けてあげる仕組みも作った方が良いのでは? と思ってしまう。

地方は食材がいいところも多く、その食材自体を楽しむ店もいっぱいある。例えば静岡で駅そばにある「清水港 みなみ」は開店前から並びはするけれど、ランチ時に1000円程度の予算で抜群のコスパの「マグロ丼」や「海鮮丼」が食べられる。予約困難な人気高級店にあくせく行くよりも、地元の人もたくさんいて賑わう、値段が安くて食材が楽しめる店に行くのもとても楽しいものである。

こういう店を見つける方がある意味、人生が豊かになるかもしれない。

徳島の海鮮料理店「ししくい」は1万円もあれば、獲れたての生きた伊勢海老を2尾、鮑、うちわ海老、車海老、ハマグリ、その他、を食べることができて贅沢な気分になれる。海老も鮑も生きた状態で焼くのでそのメニュー名も「残酷焼き」と呼ばれる。東京ではまず味わえない鮮度と値段と量と食べ方なので、まさに僕らにとってはプライスレス。食べログで3.5点台なのでそれほど目立ってないので、予約は余程のことがない限り取れるが、ここも気づかれたらあっという間に混んでしまいそうな気がする。

若い人の食の欲望の育成

今はグルメバブル時代(来年の消費税アップで多少冷えるか……)。80年代後半のバブル時のような小ベンツやらベーエムベー(=BMW)を見栄で買っていた時代とも少し違い、多少の金余りの人たちが、消費の行き先に困って使っている気がする。

いや。当初は確かにこの店行った、あの店知ってる、が見栄の材料だったかもしれない。

ところが、実際にそのこと自体を羨ましがってくれる人はそれ程多くなく、見栄張りが成立しない。

ドワンゴの川上量生氏曰く「消費対象の想像力のなさが、みんなを食に向かわせている」と分析する。

なるほど、それもある。僕らおじさん世代はある程度持つもの持ったし、買うもの買ったし、新たな欲求もなかなか生まれない。確かに消費対象アイテム、お金の出し先が頭に浮かばない。だから美味しいものを食べに行く。若い世代は車も特に欲しがらない、酒も飲まない。元々欲望が薄い層。

こんな話を少し前に聞いた。肉で有名な銀座「マルディグラ」の和知シェフが、ある時、日頃たいしたものを食べていない若者に、とにかく美味しいものを食べさせたいと振る舞ったところ、「こんなに美味しくなくても、良いんじゃないですか?」と言われた話。もちろん「足るを知る」という気持ちは大切にしたい。でも何か今の若者の欲望のなさ、草食動物的感覚、成長志向のない感じ……余計なお世話かもしれないが、和知シェフのように上には上がある(永遠にキリがないが)ことも伝えないと、そして行けるような仕組みを作らないと次世代はこのエピソードのようにグルメにまったく興味を持たないで人生を過ごしていく。美味しいものを食べた時は素直にハッピーになれる経験ができる事も社会への希望を持つひとつだと思うのだが。

若い人の食の育成も僕ら世代が考えないといけないのかも。

僕らが若い頃は背伸びをしてでも、少し緊張するようなお店に彼女を連れて、ドキドキしながら行ったもの。

予約を取る時から、服装、振る舞い、飲み物やメニューのセレクト、すべてを店の人から見られているような気がして、結構緊張した記憶がある。銀座「レカン」、芝公園「クレッセント」のようなオーセンティックなフランス料理を提供するいわゆるグランメゾン、和食の「京味」、京都の「瓢亭」とか老舗和食、背筋を伸ばして訪ねてみると、ちょっとドキドキ、オトナの階段を登る感じがした。

先日原宿のリストランテ「ダ・フィオーレ」で少し背伸びをしている若者カップルを見かけた。この店はもちろん上記の店のような高額とか予約困難とかの店ではないが、日頃それほどきちんとした店での食の経験の少ないカップルには、それでもリストランテは十分緊張するよう。その彼らの頑張っている姿がすごく微笑ましく感じられた。こうした経験が次のグルメさんを育てていく。

だいぶジャンルは違うが、株式会社エー・ピーカンパニーが中目黒にあった「塚田農場」を3月にリニューアルして新業態の少しオシャレな焼鳥屋に変身させた。最高級な空間ではないものの、内装も塚田農場にゆかりの宮崎県の杉材を使って仕上げたモノ。建設は佐藤可士和氏チームの考えで、店のコンセプトも若者が少し背伸びするお店、ということらしい。

もちろん焼鳥は元々庶民的なものだから、そこと比べて相対的にという事だと思うが、なるほど「焼鳥つかだ」は若者の背伸び初心者コースには良いかも知れない。ちなみに表に描かれている墨絵風な鶏の絵は佐藤可士和氏の描いたものだそうで、これと一緒に撮るインスタも若者に受けているよう。

焼鳥で背伸びはあまりないが、オトナでも「世良田」であったり、今月6月西麻布に会員制焼鳥店を出した「鳥さわ22」であったりは、オトナの階段には良いかもしれない。

今、次の世代のグルメ育成の芽をグルメなオトナたちと常連志向の高級人気料理店とで、摘んではいないだろうか。

先輩が若者を人気高級有名料理店に一緒に連れて行って体験させる事も重要。さらには若者同士、特にカップルが少し緊張感を持って自腹で背伸びをする、あのドキドキ感を味わえる経験を持てるような機会を作らないと未来の客が育たない。

今さえ良ければ良いとか、自分の店さえ繁盛すれば良い、と言う時代とも違う、もっと大きな視点で食の未来を考える時が来ている気がしてならない。

vol.6に続く


食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.4


食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.3


食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.2


食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.1


川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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