アジア企画 異国文化が混在する美食都市 アジアのハブ、シンガポールへ

チキンライスに代表されるB級グルメからお洒落なフレンチやバーにいたるまで、多彩な食文化が交差するシンガポール。そんな"食の坩堝(るつぼ)"を日本から海を渡った寿司職人、橋田建二郎がナビゲート!

寿司でかの地を席巻。サムライ寿司職人
NAVIGATOR 橋田建二郎氏

隠れた名店、勝どきの老舗寿司屋「はし田」の2代目。修業後、2013年に「はし田 シンガポール」をオープンした。寿司を通じて、シンガポールで日本文化を広く伝えている。


世界の食通が目指すアートなフレンチ

牡蠣(かき)とマッシュルーム、青リンゴの一皿。

 シンガポール初のミシュランガイドで2つ星を獲得した「アンドレ」。「オーナーシェフのアンドレ・チャン氏が、自身の経験や思い出からクリエイトする料理をアートとして楽しめます」と橋田さん。気さくで何でも話せるアンドレ氏は、いい兄貴的な存在でもあるとか。

 シェフの哲学が反映されたコース「オクタフィロソフィー」では、「アルチザン、記憶、ピュア、塩、南、テロワール、テクスチャー、ユニーク」に沿って展開され、実に独創的。例えば、スライスした生のアワビと肝、そして海藻にほんの少しトリュフオイルをかけた一皿は、素材が持つ塩気だけで味わうことで、アワビ本来の香りや旨さを強烈に感じさせる逸品だ。

 予約困難だが、今シンガポールで絶対に外せない屈指のフレンチレストランである。

アワビのアミューズ/料理はすべてコースの一例。ランチ198シンガポールドル、ディナー350シンガポールドル。
レストラン アンドレ(Restaurant André)
TEL:6534-8880
住所:41 Bukit Pasoh Rd, Singapore
営業時間:12:00~15:00(水曜、金曜のみ)/19:00~23:00(火曜~日曜)
休み:月曜、隔週日曜
URL:http://restaurantandre.com/


ボタニカルな楽園で記憶に残るランチを

周囲は緑が生い茂り、野生のリスや鳥が窓の外に遊ぶ。清々しく食事を楽しむのに絶景のロケーション。

 橋田さんと妻のネネさんのお気に入りの一軒が、「コーナーハウス」。街の喧騒とは無縁の広大な世界遺産「シンガポール植物園」の中の、エキゾティックなレストランだ。

「妻とよくレストラン巡りをしますが、この店の発見は大きな感動でした。緑が美しいロケーションに加えて、オーナーシェフ、ジェイソン・タン氏がつくるフレンチは記憶に深く残ります」と橋田さんは絶賛。

ソルベ、マリネ、コンフィなど、トマトの味を多彩に楽しめる一皿。

 その言葉どおり、大柄な体格からは想像もつかない、繊細な仕事が施されるジェイソンの料理は驚きの連続。例えば、玉ねぎの4種はベイク、カプチーノ仕立てなど、玉ねぎの甘くて豊かな味わいを4種類の異なる調理法で表現してあり、実に独創的だ。

 オープンして2年でミシュランガイドの1つ星を獲得。その急成長ぶり、そして卓越した才能には目が離せない

4種の玉ねぎのスペシャリテ。
コーナーハウス(Corner House)
TEL:6469-1000
住所:1 Cluny Rd, E J H Corner House, Singapore Botanic Gardens(Nassim Gate Entrance), Singapore
営業時間:12:00~15:00(日曜はブランチ11:30~L.O.14:30)、18:30~L.O.22:00
休み:月曜
URL:http://cornerhouse.com.sg


ここは銀座の老舗バーか? 絶品カクテルで憩う異国の夜

左:味わい深いマンハッタン37シンガポールドル。「高度なシェイカー技術でカクテルをつくる日本人バーテンダーは海外で人気ですよ」と金高さん/右:グリーンミントリキュールをベースにしたグラスホッパー35シンガポールドル。

 仕事帰りに1杯飲みたい時はD.Bespokeがお薦め。シンガポールとは思えない驚きのバーです」。そう橋田さんが語るように、そこはまるで銀座のオーセンティックなバーのよう。バーテンダーもほぼ日本人だ。

 オーナーの金高大輝(かねたかだいき)さんは銀座の有名店で修業後、インドネシア人のパートナーとともに北京でバーを開店。店を軌道に乗せて、シンガポールに進出した。

金高さんの美しいシェイクを見られるのも楽しみのひとつ。

「バーは文化の発信地。日本の高度なバー文化をこの店で伝えています。若手の日本人バーテンダーが海外で挑戦できるよう、さらに新しい舞台も作っていきたい」と金高さんは熱く語る。

 座り心地のよいオーダーメイドの椅子や京都の老舗「細尾(ほそお)」の西陣織のクッション、「金網つじ」のランプシェードなど、金高さんのこだわる上質な空間にて絶品カクテルで喉を潤す──シンガポールの大人の夜は、こんなバーで締めくくりたい。

左:バーは客の好みに合わせて服を仕立てるビスポークと似ていると、トルソーにクラシックなスーツをディスプレイ/右:ウェルカムドリンクは、京都の一保堂の煎茶を供している。
ディー.ビスポーク(D.Bespoke)
TEL:8141-5741
住所:2 Bukit Pasoh Rd, Singapore
営業時間:18:00~翌1:00(金曜・土曜~翌2:00)、18:00~24:00(日曜)
休み:元旦
URL:http://dbespoke.sg


リピート必至! 旨さに悶絶のB級グルメ

店の外にまでテーブルが置かれ、連夜遅くまで客が賑わう。

 橋田さんが月に数回は必ず通うという、ローカルに人気の「天天海鮮魚頭爐」。「D.Bespoke」の金高さんも大絶賛のシーフードレストランだ。「仕事が終わり小腹が空いた時に、店の仲間たちと深夜から鍋を囲みます。朝4時まで営業しているので心強い存在です」と橋田さん。

 鍋はクリア、ハーブ、スパイシー、トムヤムと4種のスープから。さらに、数十種類の具から好みのものをオーダーする。クリアのスープに、地鶏肉や肉団子、豚ばら肉に、白菜やほうれん草などの野菜を選ぶのが橋田さんのお気に入りだが、絶対外せないシメの具が揚げ湯葉だ。

「カラッと揚がった湯葉に、旨みたっぷりのスープが浸み込んで病みつきになりますよ」

 確かな味に加えて、リーズナブルなのも魅力。リピートすること間違いなしのB級グルメとして、シンガポールのマイリストに必ず加えたい1店だ。

左:鍋の具は、肉、魚介、野菜、餃子、ビーフンなど約40種類から選ぶ。この日は6人で食べて60シンガポールドル足らずで大変リーズナブル/右:新鮮なマテ貝の刺身は、1ピース14シンガポールドル。
天天海鮮魚頭爐(Tian Tian Seahood Restaurant)
TEL:6324-1082
住所:239,Outram Road, Singapore
営業時間:17:00~翌4:00
休み:日曜


地元の名士たちの御用達寿司屋

築地直送のマグロの握りは、飛行機で近隣国から訪れる客も居るほど人気。

 父親が経営する勝どきの老舗寿司店「はし田」で、寿司職人の道に入った橋田建二郎さん。若い時は父に強く反発した時期もあったというが、厳しい修業にまい進するなか、約4年前にある転機が訪れた。橋田さんの腕を見込んだシンガポールの客が、現地での出店話を持ちこんだのである。

 チャレンジ精神が旺盛な橋田さんは、すぐに出店を決意。包丁一本でアウェイの地に乗り込み、ネタは築地や北海道から、また食器や設えにいたるまで徹底的にこだわり、妥協なき寿司屋として一等地に店を構えている。

 おまかせコースの昼は80シンガポールドル~、夜は350シンガポールドル~と高額だが、橋田さんの寿司を求めて現地の人はもちろん、海外からの著名人客も多く、連日カウンター席を賑わす。シンガポールを訪れたなら、日本の心意気で勝負するサムライ寿司職人に、ぜひ会ってきてほしい。

アワビ、里芋、ミニトマトが涼しげな前菜/料理はすべてコースの一例から。
はし田 シンガポール(Hashida singapore)
TEL:6733-2114
住所:#4-16, Mandarin Gallery, 333A, Orchard Road, Singapore
営業時間:12:00~15:00/19:00~22:00
休み:月曜
URL:http://hashida.com.sg/

Text=伊藤美智子 Photograph=岡村昌宏

※料金はすべて消費税・サービス料別。*本記事の内容は16年8月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格) ※1シンガポールドル=¥75.5(8月11日現在)