『やま幸』のマグロが料理人に選ばれる理由 ゲーテイスト2018

『HIBACHI』と『乃南』のオーナーである山口幸隆氏は、マグロ卸『やま幸』の代表でもある。日本一旨いマグロが手に入るという築地場内のお店に向かった。

見城徹が『やま幸』のマグロを意識したのは3、4年前。行きつけの鮨店でマグロの美味しさを絶賛すると、皆『やま幸』の名を挙げた。代表の山口氏は、いいマグロがあればあるだけ落札するという。

自らが競り落とした築地で一番のマグロ。食べ頃まで熟成をかけ、最高の部位を『乃南』のために選ぶ。山口氏自身が一番好きなマグロは、春先の佐渡マグロなんだとか。

「他の店にいいマグロを取られたくない」と笑顔で話す山口氏だが、真の理由は、「顧客をがっかりさせたくないから」。最高の料理店が顧客だからこその重責を担っているのだ。父親は、仲卸の一番番頭を務め、目利きとして一目置かれていた。その父が独立して始めた店に大学2年で手伝いに入り、マグロの虜に。

競り落としたマグロに、実際に包丁を入れて身質を見る瞬間が一番ドキドキするという。酸味、旨み、甘み、脂の乗り具合などを見極め、顧客の好みやシャリとの相性を考慮して届け先を決めていく。

人一倍勝気な山口氏は、誰よりも多くのマグロを見て、味わって経験値を高めた。全国の漁港を歩き、産地や季節による味わいの違いも体感。しかし、当時は、大企業が冷凍で一船買いをするのが主力で、取扱高の8割は冷凍だった。

「出荷調整され、相場の乱高下もないかわりに、美味しく提供する考えが抜け落ちていた。色の美しさだけを重視し、冷たいまま歯ごたえのあるマグロを出す店が多かったですね」

そこで「マグロの美味しさは、食べている餌や、熟成、温度がとても重要。マグロの本質を伝え、価値観を変えたい」と奮起した山口氏。

売れなくても最高級の生のマグロを毎日競り落とし店に並べた。興味を持ってくれた鮨職人には、その店のシャリの味に合う身質をコーディネイト。返品も辞さず、リスクは自らが背負う覚悟で顧客との信頼関係を築き、今があるというわけだ。

今後の目標は、若手を育て次世代へつなげること。日本のマグロ文化を看板に、外食ビジネスを盛り上げたいという想いとアイデアは溢れてやまない。

常にシャリとワサビを用意し、マグロの味を確かめることもしばしば。

Text=藤田実子 Photograph=原 務