珈琲をめぐるビジネス戦略

コンビニから老舗喫茶店まで、さまざまな業態で珈琲(コーヒー)に情熱をかける男たちがいる。1杯の珈琲をめぐるそれぞれの戦略とは。 

発売約1年で4.5億杯を突破!セブンカフェがこんなにも売れているワケ

セブンカフェの原点は創業時から
 平日午前8時のセブン-イレブン。レジ横カウンターでは出勤前のビジネスマンたちが、行列をなし専用マシンで次々と珈琲を淹れていく。
 2013年のヒット商品となった“コンビニコーヒー”。なかでもセブン-イレブンのセルフ式ドリップコーヒー「セブンカフェ」は、昨年1月の本格導入以来、急速に販売数を伸ばし、今年2月末にはなんと累計4億5000万杯に達する見込みという大ヒットだ。

都内某所のセブン‐イレブン。3台あるコーヒーマシンはフル回転。


 実はセブン-イレブンの珈琲販売は、40年前の創業当時から始まっていた。ポットに作り置きしておくタイプから始まり、ドリップ、カートリッジ方式、そしてセルフ方式のエスプレッソなどの試行錯誤を経て、今回が5度目の挑戦となる。
「これまではまず機械(珈琲抽出の方式)ありきの発想でした。しかし今回第一に考えたのは“味”。日本人の嗜好性に合った味を徹底的に追求しました」と語るのはセブンカフェを担当する商品本部チーフマーチャンダイザー・工藤克俊さん。全国約1万6000店舗のセブンカフェは、彼を含め社員わずか3名で担当する。なぜそんな少人数で可能なのか。それはセブン-イレブンの「チームMD(マーチャンダイジング)」というシステムにある。生豆輸入商社や焙煎、コーヒーマシンなど各業界のプロである取引先とチームを組み、情報やノウハウを共有。店舗調査や市場・業界動向などのフィードバックを常に繰り返す。その結果、上質なアラビカ豆、ダブル焙煎、抽出は日本の軟水に合わせたドリップ方式を採用。さらにアイス用の氷はセブンカフェ専用の氷をトップメーカーに依頼し、1杯ずつ個装したカップで輸送、店舗で保管するなど、妥協ない商品作りで、高い品質と納得できる価格の珈琲が完成。まさに1杯に珈琲のプロ集団の技が結集しているというわけだ。

セブンカフェの今後を担う、工藤克俊チーフマーチャンダイザー。


 発売前には一部地域でテストマーケティングを実施。そこでの確実な手応えが、結果の販売数4億5000万杯という驚異的な数字へとつながった。
 この1杯の珈琲によりセブン-イレブンの店舗利用者自体に変化も表れた。
「珈琲飲用者のメインである30~40代に加え、50代以上のシニア層や女性の利用者も増加しました」
 セブン-イレブン来店者のボリュームゾーンは30代~40代。このセブンカフェは、さらに新しい層を取りこむフックになったのだ。
 セブンカフェのリピート率も55%という数字に。半数以上の人が何度も手を伸ばしたことになる。しかも、店頭で販売されるペットボトルや缶などの珈琲の売り上げにはほぼ影響がなく、サンドウィッチなどと一緒に買うという購買行動も増え、来店誘致と実売に大きな効果をもたらしている。

100円で毎日美味しい珈琲を

「近くて便利」新たな珈琲のスタイル

 コンビニコーヒーのヒット後、回転寿司店や牛丼店などの外食チェーンでも珈琲の販売が始まるなど、続々と新商品・新スタイルが現れる珈琲業界。
 そのなかでセブンカフェは過去40年、時に挫折もあった経験からお客が求める味の追求へ、そしてプロとの連携で築いた緻密な戦略で驚異の結果を生んだのだ。
 近くで、誰もが簡単に買える美味しい珈琲。それはセブン-イレブンのコンセプト「近くて便利」を珈琲が体現しているとも言えるだろう。喫茶店とも珈琲チェーンとも違う、まったく新しいジャンルを大いなる成功に導く、珈琲市場に打たれた布石。それがセブンカフェなのだ。

セブンカフェを作るプロ集団

都内某所の会議室に次々と集まるビジネスマン。商社、電機メーカー、製氷会社など所属先はさまざま。彼らはすべて、セブンカフェに関わるエキスパートたちだ。月に一度開催されるのがセブン‐イレブンの「珈琲部会」。セブンカフェの直近の販売動向や他社情報、生豆の生産状況や価格など各社の情報を共有し、今後のセブンカフェの方向性を決定する。店頭で淹れる珈琲1杯は、ここから始まるのだ。

1 マシン 富士電機
1杯ごとに豆を挽く方式を採用。部品は着脱式で店舗で清掃が簡単。

2 豆焙煎 AGF
コクを出すダブル焙煎。ホットとアイス各々最適なブレンドで。

3 豆調達 三井物産/丸紅
農産物のため価格変動が大きい生豆(アラビカ豆)の取引を担う。

4 備品 ベンダーサービス
佐藤可士和氏とのコラボレーションによりマドラーなどを生産。

5 トッピング システムコミュニケーションズ
マシンに合わせて、カップやミルクなどを置く専用什器を開発。

6 カップ・マシンデザイン 佐藤可士和
ブランドマネージメントを手がける。マシンは威圧感のないシンプルなデザインに。

7 紙コップ製作 東罐興業/デキシー
カップのエンボス加工など手におさまりやすい工夫がされている。

8 氷 小久保製氷
「ロックアイス」でおなじみ。セブンカフェ用に溶けにくい氷を。


開発・研究に13年 ヘルシアコーヒーを生んだエキスパートたち

 メタボな身体を、毎日飲んでいる缶コーヒーで改善できる!? その効果に発売わずか3カ月でトクホ飲料売上本数ナンバーワンを達成したのが、花王「ヘルシアコーヒー」だ。
 花王といえば、脂肪を消費しやすくする“機能”をうたった「ヘルシア緑茶」で緑茶市場に斬りこみ、トクホ(特定保健用食品)飲料という分野を確立した牽引役。今回は珈琲豆に含まれる「コーヒークロロゲン酸」の脂肪燃焼促進作用に着目。緑茶と同時期に研究を開始しながら、商品化には13年もの歳月が。
「困難だったのは、焙煎で減少してしまうクロロゲン酸を高濃度に含有させ珈琲本来の健康機能をいかに引きだすかということ。そのため花王独自の製法を開発、工業化にいたるまで長い年月を要しました」と語るのは、ブランドマネージャー・小出敏治さん。立ち上げから関わり、ヘルシアコーヒーのブランディングを確立。10万人ものモニターに1カ月分のヘルシアコーヒーを配布するという大がかりなサンプリングもしかけた人物だ。

ブランドマネージャー小出敏治氏。「珈琲とヘルシアの健康習慣を世界に広めたい」。
風味をさらに高めた改良版を3月4日に発売。


 もちろん嗜好品として最大のポイントである味わいの追求も大事だった。
「脂肪を消費しやすくなる機能は珈琲豆本来が持つもの。だから味も、何かを添加するのではなく、豆自体から風味を引きだすことにこだわりました」
 成分という科学的側面と味わいという官能的側面、その相反する面から最大限の効果を引きだす秘密。それは研究室のスタッフにあった。

研究者かつ珈琲のプロであること

 実はヘルシアの珈琲開発研究チームの8割が、全日本コーヒー商工組合連合会認定「コーヒーインストラクター2級」の資格を持つ珈琲のエキスパート。栽培や焙煎の知識や、カッピング(テイスティング)、淹れ方までを習得。さらに専門的な知識を要し、合格率わずか5%以下というコーヒーインストラクター1級を持つ研究員もいる。土門さや香さんもそのひとりだ。

花王ヘルスケア食品研究所で。研究員・土門さや香さん。


「開発で一番難しいのは風味設計。脂肪燃焼の機能を果たしながら、珈琲らしい後味よい苦みや香りも、しっかり立たせたい」
 機能と味の両立。それは開発者が研究者かつ珈琲のスペシャリストだからできること。
「フラスコを振っている人間が、豆の違いや珈琲の味わいも語れる」(小出さん)
 それこそがヘルシアコーヒーの強みなのだ。トクホ市場には他の飲料メーカーも参戦。
「世界で親しまれてきた珈琲で健康習慣を提案できたことは嬉しい」と小出さんも達成感を感じている。
 飲料メーカーではない花王が、珈琲市場の一角でトップに立つ、その事実を支えるのは彼らエキスパートたちなのだ。

自ら焙煎した豆の色・香りをチェック。


上空1万メートルにいたって、珈琲にはこだわる!
オーストリア航空 空の上の珈琲店

 珈琲が愛される街、オーストリアのウィーン。カフェハウスと呼ばれる伝統的なカフェで、人々はゆったり過ごす。ユネスコ無形文化遺産でもあるこの文化を空の上で楽しめるのが、オーストリア航空が長距離路線のビジネスクラスで展開する「ウィーン風カフェサービス」だ。ウィーンの老舗、ユリウス・マインル社の豆を使用し、機内でドリップするメニューは10種類。オーダーを受けて、フライング・シェフが淹れ、座席に運んでくれることも。珈琲を入れるグラスや陶器のカップ、銀のトレー、水やスイーツとともに運ばれてくるのも、本場カフェハウスを忠実に再現した。香ばしい香りに包まれた空間はまさに、カフェハウス。航空会社初の本格的な珈琲サービスだ。

旅の途中で「カフェー・フェアケールト」を。
ウィーンのカフェハウス。市民にとっては、生活の一部でもある。



ハワイの名店アイランドヴィンテージコーヒーを口説いた男


 ヘルシーなアサイーボウルと地元産珈琲を“売り”にしたハワイ屈指の人気珈琲店が2013年、日本に進出。現地で直接交渉に臨み、出店の権利を得たのは、柄澤博人・アイランドヴィンテージコーヒージャパン取締役だった。

「内装はハワイの店舗と同じ建材を使いました」と柄澤博人氏。


「ハワイの風と食文化を、日本にそのまま運んできたかった。なかなか首を縦に振らない本店に対して、ひたすら時間をかけ、想いを伝えたことが実を結んだ」
 本格ドリップマシンで淹れるハワイアンコーヒーは、青山の1号店に常連客を多数生み、昼時には行列が絶えないほど。口に含めばなんともすっきりした味わいで、飲み干す頃には気分が一新される。ハワイで知られるのは「コナ」ブランドだが、「うちの豆はコナより希少な“カウ”100%。清涼な飲み味はカウの特長です」

ドリップコーヒーM ¥380。アサイーボウルハーフ ¥800。


 このカウを日本で安定供給できるのはここだけ。希少な豆を提供するため、いたずらに多店舗化はしない。まさに日本唯一の味を提供しているのである。

住所:東京都渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル1F
TEL:03-6418-2416
営業時間:8:00~21:00
休み:無し


街に愛されるためにinspired by STARBUCKSが考えたこと


 昨年2店舗目をオープンしたスターバックスの新業態「インスパイアード バイ スターバックス」。駅から離れた住宅街に立地し、スタッフはみな私服。二子玉川では明るく開放的、下北沢ではアンティークの椅子を配するなど、その街の雰囲気に溶けこむ造りに。メインは目の前で淹れる珈琲。豆を選べ、抽出方法もハンドドリップと特別なマシーン・Cloverを選択可能。毎日の生活のなかで思い思いに、くつろいだひとときを過ごせる、特別な場所がここにある。

選べる珈琲豆は6種類。コクや酸味など特徴をバリスタが教える。
国内で限られた店舗にしか設置されていないクローバーなら、雑みのないクリアな風味を堪能できる。
ハンドドリップでゆっくり落ちる珈琲を見ながらの会話も楽しい。


 日本上陸以来18年。国内に1000店舗を超える一大コーヒーチェーンとなったスターバックス。彼らが次に仕かけたのは、“Your Neighborhood and Coffee”というコンセプトのとおり、近隣の人が集い珈琲の魅力を感じられる場所。思えばCEOのハワード・シュルツが目指したのは、家と会社の間にある“サードプレイス”。この新しい試みこそ、その原点を感じる場所ではないだろうか。

アーモンドクロワッサン¥300、コールド フォーム モカ¥650。


玉川3丁目店
住所:東京都世田谷区玉川3-34-2 リオ・ヴェルテ1F
TEL:03-5797-2350
営業時間:7:30~22:00
休み:不定休
代沢5丁目店
住所:東京都世田谷区代沢5-8-13 クリークス代沢
TEL:03-5431-5250
営業時間:9:00~22:00(月~木、日曜・祝日)、9:00~23:00(金、土曜)
休み:不定休


Text=牛丸由紀子、芹澤和美、山内宏泰  Photograph=吉山裕次郎、鈴木拓也、PAK OK SUN


*本記事の内容は14年2月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい