「アジアのベストレストラン50」チェアマン・中村孝則が読み解く、食と旅の最新トレンド

2002年に始まり、かつてはエルブリやNOMAに世界一のレストランという称号を与えたレストランアワード「世界のベストレストラン50」。そのアジア版として2013年に始まったサンペレグリノとアクアパンナがスポンサーを務める「アジアのベストレストラン50」2018年版リストが3月27日に発表された。その結果について、日本のチェアマンを務める中村孝則氏にうかがった。

「アジアのベストレストラン50」とは何なのか?

2018年版の授賞式およびパーティが開催されたのは、ラスベガスを超える勢いで発展するマカオの最新カジノリゾート「ウィン・パレス」。日本勢が圧倒的な強さを見せつけた結果については、前回の速報でお伝えした通り。

アジア各国から集まった有名シェフ、飲食業界関係者、メディア、フーディーズなど約800人が一堂に会して熱気あふれる会場は、さながら食のアカデミー賞と言うべき、きらびやかなムードに包まれている。

そんななかで、羽織と袴を粋に着こなし、旧知のシェフやアワード関係者と再会を喜び合い語り合う、長身の日本人紳士の姿がひときわ目を引いた。雑誌「ゲーテ」でもお馴染みのジャーナリストで美食家の中村孝則氏である。

中村氏は「世界のベストレストラン50」の審査委員に長年かかわった後、日本のチェアマンに就任。同時にサブカテゴリーとして生まれたアジア版のチェアマン(アジア6地域から各1名選出される)にも任命され、ランキングの発展に寄与し続けながらその変遷も見つめてきた。

受賞式を終えた祝福ムードに包まれたアフターパーティーの会場で、中村氏に、「アジアのベストレストラン50」とは何か、今年の結果から読み取れる食と旅のトレンドをうかがい、ゲーテ読者に対する「アジアのベストレストラン50」楽しみ方を指南していただいた。

味だけではないトータルなエンタテインメント性が評価される

「世界のベストレストラン50」は、まさにシェフ本人に注目が集まるスターシェフ、セレブリティシェフの時代を築き上げた立役者。アジア版もやはり、同じ流れを引き継いでいます。

味はもちろん大切だけれども、人々がレストランに求めるのは味だけじゃない。むしろ味は、全体で1/3~1/4程度の比重しか持たないのかもしれない。美味しさの基準は人それぞれだし、同じアジアの中でも好まれる味覚は、気候や文化、国によってもまったく異なります。とにかく味覚には、絶対評価というものがないですからね。

「アジアのベストレストラン50」では、シェフの個性や哲学、インテリアデザイン、カトラリーのチョイス、おもてなしのスタイルなど、さまざまな要素が入り込んだトータルな評価が結果に表れています。なかでも、いちばんのキーワードになるのは「Joyful(楽しさ)とShare(共有)」。そんな価値観を体現できるレストランの評価が高くなるのが、「アジアのベストレストラン50」ならではの大きな特徴です。

「このレストランが入って、あれが入っていない」、「ここよりあちらの順位がなぜ高い」など、ランキングやアワードの結果を見れば、必ずそのような議論が上がってきて、「アジアのベストレストラン50」に対してもいろいろな声が聞かれます。しかし私には、このランキングの結果が非常に順当なものに感じられるのです。その理由は、今お話しした「味以外の評価が大きい」という特性に加えて、審査の仕組みまでをお話すると、さらに明確になるはずです。

審査員の新陳代謝で生まれる「時代性」がアワードの真髄

実は、チェアマンの主な任務とは、担当リージョン、私の場合は日本での審査員選出です。リアルに世界中を食べ歩いて、特定のレストランに利害関係がなく、公平性を保てることが、審査員になる必須条件。審査員のリストは原則非公開です。

このアワードでは世界を6つのリージョンにセグメントし、ひとつのリージョンに53人の審査員を置き、毎年その25%を入れ替えることがルールになっています。これが実際とても大変な作業で、財界、政界、マスコミ、シェフ、フーディーズなど、広範囲での聞き込みによりスキャニングを続けています。そして私が最終的に選んだ人物のリストを英国本部に送り、先方が厳正な審査を経て決定するという仕組みなのです。

こうやって毎年入れ替わりも続く審査員に課せられるミッションは、「国内外で過去18ヶ月に訪ねたレストランの中で、ベストと思うレストラン10軒を選び出すこと」のみ。そう、このアワードには、細かい審査項目は一切ないのです。

こんな仕組みによる投票の結果、このランキングに反映されるのは「時代性」。まさに食のトレンドがここから見えて来ます。そしてもうひとつ見えてくるのは「旅のトレンド」なのです。

楽しい食体験が旅のデスティネーションのアイデアになる

今の時代、人々が旅をする最大の目的は「食」。そこに行かないと味わえない味覚や食材、食文化を楽しめるレストランが、旅のデスティネーションになっています。世界中で流通が発達した現代でも、やはりその土地に行かないと食べられないものって、まだまだあるんです。ぜひ、このアワードから食のトレンドを読み取って、次に訪ねるレストラン選び、旅のデスティネーションのアイデアとして生かしてほしいと思います。

それは同時に、このアワードで好結果を残すには、国外からもわざわざ日本まで食べに来てもらわなければならない。そこで大事になるのがシェフ本人やレストランによる情報発信力です。

これにもっとも効果的なのが、海外でのポップアップや、国外のシェフとのコラボレーション。行った先での調理技術のシェアや、食文化と食材のリサーチができるというメリットはもちろんですが、最大のアドバンテージはシェフ同士でファンをシェアできること。「今度はこのシェフの店に行ってみよう」と思ってもらえますから。

今回2位になった『傳』の長谷川在佑シェフ、3位『フロリレージュ』の川手寛康シェフ、17位に初ランクインした『ラ シーム』の高田裕介シェフは、大変な努力を重ねて非常に戦略的な海外での活動を続けていましたから、今回の好結果にも頷けました。

アワードから読み取ってほしいことのひとつとして、今までまったくノーマークだったエリアに、すばらしいガストロノミーが生まれていることが見えてくるんです。

たとえば今回25位に入ったスリランカ・コロンボの『ミニストリー・オブ・クラブ』では日本人ハーフのオーナーシェフが、地元のマッドクラブという驚くべき蟹を使った、日本では食べられない美食を披露してくれています。また来年のランクインが期待される「注目のレストラン ミーレ賞」を獲得したフィリピン・マニラの『トーヨーイータリー』など、私自身もこのアワードがなかったら出会わなかった、同時代の輝いているレストランを知ることができました。

2018年の結果から読み取れる食のトレンドとキーワード、実はそれが「日本」なのです。日本の若手シェフが大活躍して高評価を受け、日本の食文化への興味も高まっている。2019年はマカオでの開催が決定していますので、その次はぜひ日本にこのアワードを持ってきたい。それがチェアマンとしての私の悲願です。

皆さんにも、今までの食の分野になかったスタイリッシュさとエンターテインメント性にあふれる「アジアのベストレストラン50」をもっと知ってほしい。ぜひアワードの結果に注目して、一緒にこの楽しさを共有して行きましょう。

Takanori Nakamura
コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワインにシガーまで、ラグジュアリーをテーマに、執筆活動を行う。また、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開。2007年にフランス・シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を、2010年にはスペインよりカヴァ騎士の称号も授勲。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授

Text=甲斐美也子 Photograph=鈴木拓也