食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.13

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。     


「2018年、食の総括。光と陰。ボーっと食べてんじゃねえよ!」

華やかに今年発表された「ミシュランガイド東京2019」では、三つ星13軒、二つ星52軒、一つ星165軒、計230軒(2018年234軒、2017年 227軒)。星付き飲食店の数は世界一。ミシュラン本社のあるパリ版ですら118軒に過ぎない。東京の食の華やかさはある意味世界最高レベルなんだと思う。

一方、大好きだった東京のレストランや食堂が今年2018年、知らぬ間に閉業している。

池波正太郎が贔屓にしていた両国の「かど家」、去年の冬に行った時にはそんな様子は一切なかったのに、今年の夏に閉業。江戸時代末期の文久2年(1862年)からの156年の歴史を閉じることになった(鬼平犯科帳で「五鉄」と言う店で「軍鶏鍋」を食べるシーンがちょくちょく出てくるが、そのモデルがこのお店)。鳥鍋の八丁味噌仕立てが創業時からのメニューで名物だった。

そしてもう一店舗、池波正太郎、吉行淳之介、開高健たちが通っていた日比谷の広東料理の名店「慶楽」がまさにこの原稿がアップされる12月28日をもって68年の歴史を閉じる。池波正太郎がよくオーダーしたのが「肉絲炒麺(豚肉トモヤシヤキソバ)」。グルメ道しるべ役だった作家池波正太郎ご贔屓の店がここでもまた消えていく。

そして昨日27日をもって新富町の町中華「萬金食堂」も100年の歴史を閉じた。

他にもお兄ちゃんが後を継ぐんだなぁと親子で店の切り盛りしている姿を見て勝手に安心していた100年以上続いていた稲荷町「田中食堂」もこの7月、知らぬ間に閉業していた。鄙びた店構えではあったが安倍首相も訪れるほどの店で、料理もいわゆる食堂メニューではあるが風情がある。特にこの店の「ハムカツ」は外はサクサク、中がふわっとしていて不思議に美味しかった(ハムカツ定食600円と激安)。僕的にとってはハムカツNo.1の店だった。ボーッと生きていたら、大好きだった歴史ある店が続々閉業していく。

渋谷や築地の再開発に巻き込まれてやめてしまった店も多々ある。

開発に巻き込まれた事情のほか、ご主人や料理人の高齢化、後継者が見つからない、そもそもの人手不足、材料費・人件費・場所代高騰による収益悪化、今までのやり方が時代に合わなくなった、様々な理由があろう。今年華やかにスポットライトが当たる店も多々出てきた一方で、例年にも増して、今年は飲食店業廃業数が増えていると言う。

今になって、自分達にも何か手助け出来なかったのか、考える始末。後継者不足問題は、金融関係者や新聞社の方達とも話し、何か対応出来ないか模索はしていたのだが、実際には具体的な情報が寸前まで入りにくく動けていなかった。お店の資産でもある長年積み重ねてきたブランドをこのままゼロにするのはもったいない。

振り返ってみれば、今年の食事は流行語大賞にもなった「ボーっと生きてんじゃねえよ!」とチコちゃんに叱られても仕方のない「ボーっと食べてんじゃねえよ!」状態。

と言うのも、こんな後継者問題やブランド価値のゼロ化は頭の片隅には置いてはいたものの、結局はそれを横に置いて刹那的になかなか予約の取れない店に行けただけで喜んで、美味しい美味しいと2~3時間無邪気に楽しんで、実はレストラン側のジワジワの値上げ断行に基本なんの抵抗もなく流されて、会計時に想定を超える値段を見て落ち込んで、「もう、こんな生活やめようかなぁ」と思いつつ、それでもそんな生活をほぼ毎週のように繰り返して、一年経過して、あれ?今年は本当の意味で幸せな食生活だったのか?と振り返ると、ちょいちょいアホらしくなってくる。

一年間で食べた費用なんて怖くて考えたくないけど、たまにかえりみないとそれこそ「ボーっと食べてんじゃねえよ!」と嫁さんに怒られる。

店では究極のこだわりの最上級食材を使う店が増えている気がする。料理人さんに聞くと一度は最上級の食材を使いたいものなんだそう。ただ、それを客は本当に望んでいるのか?その値段は当然支払いに反映される訳で、そこまで美味しくないと客は満足しないのか、実際にはそれほどの差異は分からないと思う。それは作り手側の料理人さんも認めている「わかりませんよねぇ」と。

ブランド好きだった僕ら80年代バブル世代が通ってきた道……洋服やらバック、車は卒業したけど、今度は食の産地ブランドに右往左往させらている気がする。上天草の黄金の鱧、由良の鮑、鵡川のシシャモ、春には京都大枝塚原の朝掘り筍……、有名なところでは鯵と鯖。同じ豊後水道でも四国側であがると値が安いが、大分市佐賀関にあがると「関アジ、関サバ」となり、値が高く付く。呼子のイカ(実は対馬で獲っても呼子の市場に持って行った方が高く売れるので、持っていって呼子のイカとして市場に出る話)にしても、そのブランドを有り難がって喜んで多くのお金を払う僕らってどうなの? むしろ、同じ鯵や鯖なら安い方が嬉しいはずなのに……。「ボーっと食べてんじゃねえよ!」本当そういう声が聞こえてきてもおかしくない。

考え方次第でニーズなんてガラッと変わる。ただでさえ、今年は自然災害で野菜、果物等だいぶ被害に遭い、北海道のそばの収穫量も半減だそうで、この年末の年越し蕎麦の価格にも影響が出そうだ。魚だって乱獲やら気候変動で収穫が減っているし、そんな厳しい状況の中で最上級やら高級食材になんてこだわらなくても良いんじゃないか、食べれるだけで有り難い。何も考えずにただひたすら美味しいモノだけ求めて食べていると、ホントにそのうち神様から怒られそうな気がする。

一方で食べることがままならない貧困の子供たちも増えている。「子ども食堂」が各地で増えて今年2200箇所を超えたという話になっているのもなんだか切ない。

そんなことの一方、贅沢に「肉のこの芯の部分だけを使い、残りはまかないで使う」と発言した料理人さんにも先日出くわした。その結構な部分も僕らが負担するんなら、恵まれない人に食べさせてあげたいと思った。なんだか気持ちが妙にモヤっとしてしまった。

実際に僕らは最上級の食材とそれほどでもない食材の味の差がわかるほどスゴイ舌を持っているわけではない。京味の西さんが2018年の「食べログアワード」の際におっしゃっていたように日本には旬の食材と言う高級食材より数段意味のあるモノに恵まれている。旬の食材が楽しめたり、その食材を最大限の活かした食べ方で食べられる方が嬉しいと思う。キャビアやフォアグラにやたらと頼らなくても正直良いと思うのだが……。それこそ、「ボーっと作ってんじゃねえよ」と言いたくなってくる。

こんなやり取りのエピソードが身近であった。たまたま湖魚を扱っている水産会社の社長さんが知り合いにいて、鮎の養魚場を数回見学させてもらったことがある。その時育て方も聞いて驚いた。美味しくなってもらうために与える餌の研究は毎年少しづつ改良が加えられているようで、今ではミトコンドリアまで入っているのだそう。研究開発費用もそこそこかかっている。

さらに驚いたのは、出荷直前の数日は急流に泳がせて、内臓を含めた体全体を引き締めるのだそう。そんな努力をしている事を見聞きしたら、ある程度この会社の鮎の値段が高いことは納得できる。

さらにそこの鮎をシーズン中ずーっと使っている麻布十番の「天冨良 Y」のご主人がその会社社長にこう言った「シーズン終了間際にエラが硬くなる。なので、その時期はいつもより深く揚げる」と。このプロ同士のやりとりを聞いていて、これなら良い値段払うのは全然納得!と合点がいってしまった(でも、実はこの店の値段は値上げもしないしそれほど高くない。もちろん味はとても美味しい)。

さらにはその話を聞いて湖魚を扱う社長が「それは知りませんでした。さらに研究してみます」と返答している謙虚な姿を見ていると、両方ともに精一杯の応援をしたくなる。この場は全員、ボーッと生きてない感じがしたなぁ。

価格が上がっても成立するのはある意味正当な利益が出るのだから良いとは思うが、最近は僕ら食べる側の論理が排除されているのが気になる。今年の年末、経済産業省と予約サイト等が一緒になってキャンセル問題解消へ一歩歩みを前進させた。予約は契約だから、無断キャンセルは契約違反だと、なのでキャンセル料を取るのは正当だと言う流れ。

全然オッケー、僕も無断キャンセル撲滅派なので大いに賛成なのだが、一方で値段の契約は案外曖昧である。当日キャンセルは100%と言うのももちろん了解だが実は一方、だいたい、その日のコースがいくら掛かると言う話も案外適当で、15000円コースと言いながら、蓋を開けてみると、お酒だワインだで30000円、と言うケースも多々見られる。何回も書いているが、ワイン飲むと5万、10万のフレンチもあれば、気に入らない人には高く取るイタリアンまである。これって契約成立しているのか?甚だ疑問。

昔はお寿司屋さんに多かった時価の形式にみんなが暗黙のうちになっている感じがする。そう、店の言いなり。先日伺ったお寿司屋さんは3万円が基本でありながら、その中に一貫3000円以上するウニが入ってきた。でも、それはお約束の値段の中に含まれているから全然安心。一方不明瞭なお任せ、飲料代が曲者で知らない間に予定の倍払っているケースがこの一年やたら増えた気がする。この連載を始めたのもそんな変な動きがきっかけで書き始めた。

だが実際にはその形式が多くなってきていてこのまま放置していてはチコちゃんに叱られる。

僕的には高くてもいいから選択の自由が欲しい。頼む、頼まないの主導権は消費者側が持ちたい。食材に無駄を出したくない、お腹いっぱいにさせて満足させるには量を多目にしておいた方が無難、その方がお金も取りやすい、という事で今のコース主体の料理は成立しているのかと推察できる。さらにメニュー数が多くなるのはインスタ映え、SNS対応だとある料理人さんは言う。マジか?そんな発想はこちら側にはなかったが、見栄えだけで今年のクリスマスケーキを買って、食べきれず捨てるケースが出て廃棄量がハンパない話を聞いて正直悲しくなった。ならば、食べられない人に分けてあげることを考えようよと。

僕的には年齢もあってか最近は量を昔ほど食べられない。店からするとコースにすると無駄は出にくいかもしれないけど、一方客側には無駄が出ている可能性もある。高齢化、特に高級店での利用者は年齢も高い人が多いのだから、量の忖度は今後重要になると思う。先日も高級料亭で10品以上出てきて、途中でギブアップ。後輩に刺身、揚げ物など全面的に食べるのを助けてもらった。お金の問題でもなく、決められた固定量でのコースにするのではなく、ある程度選べるアラカルトでやってくれるとありがたいと思うが、今の時代はそうはさせない店側の論理がある。店と客が気軽に(予算も含めて)話し合いながらこれは食べたい、これは要らない、これはもう少し欲しいと言った会話が出来る事も、その店の優しさ懐の広さを感じさせてくれるし、結果すごく心の通った食事になるような気がする。

もっとも僕の友人で、寿司屋に行けばマグロばかりしか食べない変人?がいる。京都の有名料亭ではその店で仕入れていた鮎全匹を強いネゴをして食べてしまったり……まあ、店にとっては嫌な客なのかも知れないがその対応を平気でする一流寿司屋さん、一流料亭があることにも感心させられた。もちろん彼はその店とは気心知れた仲であることも確かであるし、結果常連でもある。店と客はこう言うダイアログ(対話)な関係になれたら素敵だと思う。

そう、以前、埼玉の人気お寿司屋さん「I」でひと通り食べ終わった後に追加で、その日のセリで最高値60000円で落とした利尻ウニを食べたことがある(ひと通りのコースにも別のウニは含まれていた)。その時大将は食べてもいいし、食べなくてもいいけれど、利益乗せず原価で一貫4000円でお分けしますと僕らに話しかけ判断を委ねて来たことがある。

実はこの店には、ウニを食べに来たようなものだから、「もちろんいただきます」と全員一致で食べさせてもらった。確かに美味い。でも一貫2000~3000円くらいで出てくるウニとの違いは正直分からない。でも、そこには明朗な値段もありつつ、対話があって、こちらの判断、意志も生きて決定しているのでモヤモヤすることが全くない。全面的に納得して、むしろ食べないでこのまま帰ることの方が後々後悔することになる、と思って、食べた。

結果、満足度が違う一日になった。

来年は世の中の食糧事情のことも視野に入れつつもう少し考えて食に臨みたいと思う。

来年の干支は「イノシシ」。鹿と同様にイノシシも増えすぎて、各地で被害が増えている。彼らにしても突然、人間から害獣と呼ばれるのも不本意だろうが、このままでは被害が増えすぎてどうにもならない状態になって来ている。農林水産省は今いるイノシシと鹿の数を半減させたいのだそう。そのための処理施設も続々と色んな県に作られ始めている。そうなると、せめて美味しく食べてあげたいと思う。

北大路魯山人が「猪の味(出典 中央公論社中公文庫「魯山人味道」)」と言うエッセイで牛肉よりもイノシシ肉を楽しみにしていた話や「猪の肉を煮て食うには三州味噌がよい。脂っこいものであるから、味噌を入れると口あたりがよいのである」とも書いていたりする。三洲味噌とは八丁味噌のことで、先ほど書いた今年閉業した「かど家」が得意とした材料でもあり、同じ両国であれば今年で創業300年の老舗「ももんじや」で八丁味噌仕立て(白味噌も入る合わせ味噌)の「イノシシ鍋(ボタン鍋)」も食すことが出来る。さらには神楽坂中華「エンジン」の新進気鋭の松下シェフがこれを食べたら豚は食べられないとまで言う「イノシシ肉のシュウマイ」も味が濃厚でたいそう美味い。

食の世界も時事刻々と動いている。ボーッと食べてないで来年は色んな事を視野に入れて食生活を過ごしたいものである。皆さまも心にも体にも充実した良き食生活の年をお迎え下さい。

vol.14に続く


vol.12 ハレとケのメリハリが重要


vol.11 飲食店からの選民が進む時代。SNSやらあれこれ


vol.10 勘違いしている料理店



川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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