マリリン・モンローら銀幕スターも愛した「レア・シャンパーニュ」を知っているか?

希少なシャンパーニュ、その名も「レア・シャンパーニュ」を味わうディナーが六本木のグランド・キュイジーヌ「フィリップ・ミル東京」で開催された。はたして何をもってこのシャンパーニュはレアなのか? ワインジャーナリストの柳 忠之がレポートする。


アカデミー賞も公認! わずか9ヴィンテージのみの“レア”なシャンパーニュ

パイパー・エドシックの「キュヴェ・レア」が、昨年、ひとつのシャンパーニュブランドとして独立。写真は1998年ヴィンテージのレア。

レア・シャンパーニュと聞いても、なんのことやらピンと来ない人が少なくなかろう。しかし、「パイパー・エドシック」の名を挙げれば、「あの赤いラベルの?」と思い出す人がきっといるはずだ。レア・シャンパーニュはもともとパイパー・エドシックのプレステージ・キュヴェとして1976年に誕生した「キュヴェ・レア」が起源。昨年、「レア・シャンパーニュ」の名を与えられ、ひとつのブランドとして独立を果たした。

メゾンの歴史は華々しい。1785年にドイツ生まれのフローレンス・ルイ・エドシックが創設。まさに革命前夜の1789年5月6日、自ら仕上げたシャンパーニュをヴェルサイユ宮に持ち込み、王妃マリー・アントワネットに献上したと伝わる。創立から100年目の1885年、メゾンはロシア皇帝アレクサンドル3世御用達の宝石商、ピエール・カール・ファベルジェに特製ボトルを発注。金やダイヤモンド、ラピスラズリを施したこのボトルに最高のシャンパーニュを詰めた、ワンオフの記念品を作成した。

そしてさらに1世紀を経た1985年。メゾンの200周年を迎えるにあたり、今度はヴァン・クリーフ&アーペルによって、ファベルジェ同様、ダイヤモンドやラピスラズリをあしらった特注ボトルが完成。これを模したボトルに詰められた1976年産のシャンパーニュが、パイパー・エドシックの「キュヴェ・レア」として世の中にお目見えする。

その後、レアはシェフ・ド・カーヴが最高と認めた年にのみ造られた。’79年、’85年、’88年、’90年、’98年、’99年、2002年。そして3年前に加わった’07年のロゼを加えても、これまで9ヴィンテージしか造られていない幻のシャンパーニュ。ゆえに「レア」なのである。

「フィリップ・ミル東京」でのディナーで供された3種類のレア。

またパイパー・エドシックは銀幕との関わりも深い。マリリン・モンローのお気に入りシャンパーニュとしてもよく知られ、モンローは、「毎晩数滴のシャネルNo.5をつけて眠りにつき、毎朝一杯のパイパー・エドシックで目覚める」との名言を残している。その後、’93年にはカンヌ国際映画祭の公式シャンパーニュとなり、’15年以降、アカデミー賞の授賞式で振る舞われている。今年、主演男優賞を受賞した「ボヘミアン・ラプソディー」のラミ・マレックが、壇上で振りまいていたシャンパーニュこそ、まさにレアの’98年なのだ。

少々前置きが長過ぎた。

この日、フィリップ・ミルのダイニングに入ると、驚きのボトルが目に飛び込んだ。それはわずか10本しか生産されず、日本にも1本しか存在しないはずの「レア ル・スクレ」! マリー・アントワネットがご贔屓だった老舗ジュエラーのメイリオが装飾を手がけ、1.38カラットのルビーを中心に、優美な曲線を描くゴールドとプラチナの台座に散りばめたダイヤモンドの総量はじつに4.34カラット。まさかここでお目にかかれるとは……と感動していたら、なんとこれはフィリップ・ミルのパティシエールが手がけたイミテーション。二重の驚きだった。

本物と見紛うほど精巧に作り込まれた「レア ル・スクレ」のイミテーション・ジュエリー。

ディナーでグラスに注がれたのは3種類のレア。現行最新の’02年(¥25,000)、マグナムボトルの’98年(¥70,000)、そしてロゼの’07年(¥60,000)である。

他のメゾンのプレステージ・キュヴェがすでに’08年、早いところでは’12年へと移行する中、現行ヴィンテージが’02年という事実に、レアならではのこだわりが感じられる。これはシェフ・ド・カーヴのレジス・カミュが’02年のポテンシャルに痛く惚れ込み、長期の熟成に耐え得ることを見込んで十分な量を仕込んだため。1年半ほど前に澱抜きされた最終ロットは、レモンピールのコンフィやアカシアの蜂蜜に、ブリオッシュの香ばしいフレーバーを重ねる。収穫から’17年もの時を経てもまったく衰えを感じさせず、凛とした若々しさにただ脱帽するばかり。

’98年はマグナムのみ造られたヴィンテージ。色合いは黄金がかり、香りに一層複雑さが増す。醸造にオーク樽は一切使用していないにもかかわらず、ヘーゼルナッツや炒ったアーモンドの香ばしさ。マッシュルームのような熟成香も出始め、アフターにはキャラメルのフレーバーも感じられる。味わいは重層的で膨らみも大きいが、調和のとれた酸味が垂直方向へきれいに伸びる。この熟成感と新鮮味のコントラストはマグナムならではの妙だろう。

シャンパーニュ地方と深い関わりを持つフィリップ・ミル氏のレシピは、絵画のように美しく、季節感や食材の組み合わせはもちろん、シャンパーニュとの相性もきめ細かく計算されている。

そして’07年のロゼ。レアとして満足できる赤ワインが出来ず、ロゼの醸造を拒んできたレジス・カミュが、初めて仕込んだレア・ロゼだ。色調は美しい赤銅がかったサーモンピンク。コリコリッとした食感を連想させるチェリーをはじめ、赤い果実の芳醇なフレーバー。シナモンやアニスなどスパイシーなニュアンスをともないながら、エレガントなスタイルを貫く。このレア・ロゼはメインの飛騨牛とともに供されたが、赤身の肉料理にも負けない力強さも兼ね備えていた。

「たいていのシャンパーニュは飲み尽くした」と豪語する方にこそ試していただきたい、レアなシャンパーニュなのである。レア・シャンパーニュはその希少性と熟成のポテンシャル、奥深い味わいにおいてシャンパーニュ愛好家の期待を裏切らない。


問い合わせ
レア・シャンパーニュ輸入元
日本リカー TEL:03ー5643-9772

レアとのマリアージュを楽しめる
フィリップ・ミル東京


Tadayuki Yanagi
1965年神奈川県生まれ。ワイン専門誌記者を経て、1997年に独立。フリーのワインジャーナリストに。山梨から地球の裏側のチリまで、世界中のワイン産地を訪問。現地の最新ワイン事情を伝える。数々のワイン専門誌、ライフスタイル誌にも寄稿。


Text & Photograph=柳 忠之