食べログフォロワー数日本一・川井潤の「違和感の多い料理店」vol.1

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを数回にわたって綴る。


予約困難な店の続出

食べログ等ネットの評判サイトの影響もあって、人気が出るとその店に集中して予約が集まり、あっという間に予約が取れなくなる。とにかく、予約のために一日中電話をかけ続ける人、ネット予約をクリックし続ける人が周辺にもたくさんいる。

かく言う私自身も今持っている予約の一番先は2年後。オリンピック開催年の予約。その時、ちゃんと生きているのか? 自分でもわからない。この状況、普通じゃない。

本来、会う人が決まってから食べたい店を決めるのが当たり前だった。最近は店の予約を取ってから、その日にそこに来ることができる人との会食が多くなっている。食がいつの間にか人生のスケジュールを左右している。このあたりもちょっとした違和感を感じる。

基本的に予約者に連れてもらった人でも、その後は予約できない「鮨さいとう」。面識があって携帯電話番号を知る人しか予約できない(1日で1年分の予約を取る)名古屋のフュージョン料理「トゥ・ラ・ジョア」。半年分の予約を半年に一回、店の電話のみで受け付ける蒲田のはずれにあるイタリアン「トラッテリア ラ マルゲリータ」。数ヶ月前にオンライン「OMAKASE」サイトを使って予約を争奪する鮨「東麻布 天本」、日比谷ミッドタウン「鮨なんば」。近々の予約可能日のお知らせがフェイスブック上の友人に来る二子玉川「鮨喜邑」。毎月1日に来月分の予約を電話で受け付けるというルールの鮨「すきやばし次郎」、三ノ輪の焼肉「かがやき」。首相だろうが昔からの常連だろうが、夕方5時前に並ばないと入れない焼肉 「鹿浜 スタミナ苑」。今年から会員紹介制にした戸越銀座のイタリアン「ピッツェリア恭子」。訪問した時に次の予約を入れていく形だったことをやめて毎月月初の木曜に電話のみで来年の前月予約を受付ける形(2018年5月4日の月初木曜に電話を入れると来年の4月の予約が取れる)に変えた池袋の鰻屋「かぶと」。

各店、いろんな形で試行錯誤、工夫をしてきている。グルメな時代の証といえばそうかもしれないが、これもちょっと加熱しすぎて違和感を感じるのは自分だけだろうか。

インフレ化する一部レストラン

一方、こう言うものは需要と供給のバランスがあるので、人気店は自ずと値段が上がっていく傾向にある。特にここ1年はインフレ気味。

和仏中華鮨天ぷら、客単価3万円超えがよく聞かれる数字になってきた。ペアリング等で飲めば4、5万円の店もザラに出てきている。京都の予約困難有名店も今年からお料理代だけで4万円になっている。飲めば5万円超えか……。さらにスゴいところは10万円、またもっとスゴいところは20万円、はたまた会員制レストランで30万円という話も耳に入ってくる。これは毎日のように行ってたら普通の人はパンクする。

普通の感覚じゃない……。普通というのが昔の一億総中流とは基準が違うのだろうけど、食事自体がヨーロッパの貴族社会や昔の武家社会のように、階級で変わってきているのか。

もともと日本のレストラン料金が安すぎるという話もあったが、対給与金額のベースアップの幅に比べて最近の人気レストラン料金の上がり方は激しい。

確かに僕らには見えない店側の仕込みへかける時間や食材へのこだわりの話を裏で聞くと、このくらい取らないとやってられない事情もよく分かる。でも、お金を持ってないと、美味しいものを食べる機会も減らざるをえない時代になってきた。

チキンレースが始まった

夜な夜なこうした有名高級人気レストランに現れている人数は感覚的には東京で700~800人程度に過ぎない感じがするが、店が客を値段で選別し始めているのかもしれない。

それよりも頻度の低い層(10日とか一週間に一回程度は人気高級レストランに行く人)がアバウト数千人いる感じか。

と、ここで冷静に見てみると「ホットペッパーグルメ外食総研(2018年2月調査)」調べでは、首都圏で夜外食する頻度は男女平均で月にわずか4.25回、外食単価は2,663円。

えええええ? 月に20回以上、夜に外食する僕は特殊だとは自覚していたが、平均するとそんなものとはビックリする。このたった数千人の塊が今の変な美食の時代を作り出しているのかもしれない。実は底は浅いかも。

この高額を週に何回も出せる人がそんなの多いわけもないのだが、実感としては最近1万円程度ではあまり美味しいものになかなかありつけない感覚になってきている。

さりとて、毎日3万~5万円以上払える人が大人数でいるわけもなく、どこで脱落するのか、「あっ、あの人、最近美食周りからいなくなったね」と言われるようなチキンレース(だんだん馬鹿らしくなってくることも含めて)が始まっているような気もする。

ならば日本人客にこだわらない

逆にインバウンドで外国人のグルメさんが確実に目立つようになってきている。まだ人数こそ限られているが各店舗に食べにきている場面に出くわす。今年のアジア50でNo2に選ばれた外苑前の「傳」では、客の半数近くが海外からのお客さんが占めているイメージである。

他の店、特にお寿司屋さんでは有名なタイの彼やシンガポールの彼と彼、アメリカのプロデューサーなど含め、台湾、香港、中国メインランドの方などを見かける。ある意味、飲む量も違って単価も高くお金に糸目をつけない存在の人たちによって新しいマーケットが作られ始めてきている。彼らにとっては自国で食べるのと同じ感覚で毎週のように、日本にちょくちょく来日してハシゴ状態で食べて行く。

店の常連のひとりとしてカウントできる存在であると同時に、その国から客を送り込んでくれる貴重な存在にもなっているのだ。

もちろん以前から選ばれし人間だけが行ける店は存在した。普通の人が踏み入れられない自然の結界。銀座の一流店で、持っているお金の多寡とは別に本物のオトナ中心のコミュニティ。生き様そのもの。カウンター割烹の始まりの昭和初期の「本店 浜作」、初代と二代目の鮨の「きよ田」、場所は銀座ではないが昭和40年代の飯倉「キャンティ」のような店。今でいえば「京味」か。

今はお金さえあれば普通に入れてくれる店が増えて、憧れることもなく、艶っぽくもなく、趣もないので面白くはなくなっている。

特に先程も述べた予約争奪戦は色っぽくない。

なんだかバブル期のタクシー争奪戦に近いニュアンスを感じる。

あの頃はタクシー予約のしやすい裏の電話番号(通称「裏電」)を知っている人がモテたり、リスペクトされるちょっとありえない時代。それに少し似ている気もする。

店の予約が取れる人がもてはやされたり、にわか友達が増えたり……ちょっと違和感。

このあたり、少ない経費や先の予定が立たないサラリーマンではなかなか参戦しにくい話。

接待費にしてもせいぜい充てられるのはひとり1万円代。

ましてや個人の小遣いとなるともっと厳しい。ランチも2次会もあったりするだろうし。日本経済を支える有業者の8割以上を占めるサラリーマンはここでは相手にされていない構造になってきている(一方、逆にだからこそ1万円程度で美味しいものを食べられる店の情報ニーズも強くなってきている)。

こうした食事の高額化は、家計のエンゲル係数(家庭経費のうち食費に占める割合) を押し上げ、かつての経済理論の困窮化の指数だったモノと別モノに思える。少なくともうちの家計では……。

数ヶ月前に安倍首相の発言で注目を浴びたエンゲル係数上昇の説明で「物価変動、食生活や生活スタイルの変化が含まれている」と語っていたが、この夜な夜な店に通う700~800人(そこまで行かないけど、その下の層約数千人)の人間には当てはまっているかもしれない。

僕のように子供が独立してくれると、自分の欲しいものも特にないので、出費はついつい外食の楽しみに偏りがちになる。

どこまでの値上げを客はオッケーするのか。世界一美味しいといわれている日本の食事の本当の価値、値付け、これからの料理店のあり方が今決まろうとしている気がする。

高級店舗の予約席数に客の数が足りなくなれば値下げせざるをえない店も出てくるかもしれない。

違和感は何かが生まれてくる前兆なんだと思う。食事情変化の時代を生き証人のように目の当たりに出来る事がとても面白い。

第二回に続く

Text=川井 潤


川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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