食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.3

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを数回にわたって綴る。  

非常識な客

被害額、750~2000億円。めちゃくちゃアバウトな数字だけど、これが年間でレストラン飲食店がノーショー(無断キャンセル)でくらっている被害額らしい …。んー、なんだかなぁ。

これは店の問題ではなく、客側の常識問題に依る事が大きい。最近本当に色んな店の人からドタキャン、ノーショー(無断キャンセル)の話をよく聞く。

しかも、その来ない客に店側から電話を掛けて確認すると、電話に出てこない事が多く、出ても「え?キャンセルの電話しましたよ」とスッとぼける客、「電話に出た店の人があなた(店主)に伝えてないんじゃないですか?」と逆ギレする客がいるそうだ。客という以前に人としての在り方が問われる。残念ながら店側はこれ以上突っ込めず泣き寝入りすることが多いと言う。

麻布十番の人気寿司店は新規4、既存顧客6を理想に客を取るくらいに新規に開放はしているが、それでもその新規の中から週一回はキャンセルが入るらしい。これだと新規客、要注意と言うのが店の常識になっていく。

別のケースでは、10人で中華店を貸し切り予約した客が約束の時間に15分遅れ、丁寧に外から電話を入れ「今近くにいますが、もう少しでそちらに行けますので」と連絡して来ながら、そのまま全員が現れなかった意味不明の客もいる。お前は愉快犯か。結局その日用意したほとんどの食材はパァ~。この店、その後知り合い以外は入れない、もしくは知り合いが責任持って紹介した人しか入れない方式に変えてしまった。

身近にも僕の常識ではあり得ないことが起きた。先日、得意先と会食をする予定が入り一緒に仕事をしている若手に、行く店の候補は「この店とこの店とこっちの店…。どこか決めて予約しておいて!」と伝えると、なんとこいつ、候補全店に予約を入れて「取れました。どこでも大丈夫です」と。「おいおい、それはないでしょ。お店側は予約が入ったと準備をして、満席になったら次の客を断るんだから」…「え?だって当日じゃなければここキャンセル料とられないっすよ」とその若手。いかん、頭に来た。常識が違う。こいつ自分のことしか考えていない。こちら客サイドも相手の店の気持ちになれないと、それはお互い関係がおかしくなる。

店が客を選びたくなるのもよくわかる。ノーショーではないが、ある高級和食店で、こんな事に出くわした。水を所望した(確かに二度ほど提供を要求していた)お客に提供が遅れたことを理由に小さな店内で大声でその店員に対して怒鳴り、罵声を浴びせる場面に出くわしたことがある。周りの空気は凍てつき、食事も一気に美味しくなくなった。こう言う周りを推し測れない客もいれば、ある広尾のフレンチレストランでは、預けた衣服を帰り際に戻してもらう際に顎で指示を出して要求した客もいて、客だぞ、的な居丈高な人間も本当にいたりする。何様のつもりなんだろう。「紳士、淑女たれ」。こう言う時にどう振る舞えるかは、客としてというよりも人間としての本質が問われる話。

最近、多くなっているカウンター中心の和食、寿司店では特にそこに座る客に1人でも変な人間が入ると店の雰囲気がおかしくなる。それ故、店主の安心できる人たちで店内を固めたくなる気持ちもよく分かる。これでノーショーの危険性も減る。それ故ついつい馴染み客を選び、その人達だけしか集めない店になって行く。

店の逆襲

こうして店の逆襲が始まった。馴染み客、知り合いを中心にする店、さらには客として来て欲しくない人への排除が始まった。

数度ドタキャンを繰り返した客には直接本人にお断りを宣言した店、キャンセル常習客から予約電話が来るといつも満席ですとさりげなく断る店、オンライン予約で入れたくない客には満席が表示されてるサイトまで出て来た。もちろん、料理人さん同士で客の評価を情報交換し合っている事は想像に難くない。そう言うサイトもマイナーだが既にある。サービスを提供した側がされた側(客)から評価される「食べログ」のようなサイトがあるように、Uberのようにサービスを受けた側の客も料理店から評価される「客ログ」があってもおかしくないと思う。

あのお客様は素晴らしいマナーで料理への造詣も深いので4.8点、あちらのお客様は会話の喋り声はでかいし、下ネタ話すし、典型的なフランス料理にカリフォルニア白ワインを合わせてくれと言って、料理も分かっていないので2.5点とか(Bさん、すいません)。こんな評価が存在していたら、怖いもの見たさでちょっと覗いてみたい気もする。

最近では昔からある「会員制レストラン」に加えて、客を選別するレストランが出来て来ている。3月にオープンして既に話題の「東京和食 I」。場所も電話番号も非公開。一年かけて客をふるいにかけてきた。オーナーが認めないと入れない和食店(小十出身の料理長なだけに腕もありつつ、オーナーとの二人三脚でオリジナリティに溢れる食空間になっている)、スタート時点では基本来店はひとりで、と言う今までにない手法。やり過ぎ感もあるが、店が客を選ぶ(もしくは客に自分は特別に選ばれたと優越感を演出する=客も勘違いする)象徴的な店。ここまでやるとちょっとユニークで面白いマーケティング手法。

亀戸の焼き鳥の人気店「鳥さわ」も6月に西麻布に知人のみ入れる店をオープンする。その客を起点にした紹介者だけを受け入れる紹介制を取る。庶民の食べ物だった「焼鳥」までそんな世界になっていく。そうさせているのは誰だ。多分、常識のない客、傍若無人の客が原因になっている。

大箱を運営する店では不可能であるが、10名程度しか入れない小さな人気店、さらには客が一堂に会するカウンター中心の店には、そう言った選別戦略は活きてくる。

ただそれは優良客の囲い込みとしても効く手法ではあるが、来て欲しくない人の排除にもどんどんなっていく。

致し方ないのかもしれないが、あまりにも行き過ぎると、単純にあの店に行きたいと言った純粋な気持ちを持った人でも例えば店主と知り合うルートがないために、行くことが叶わない世の中になってくる。いつかはあの店に行きたいと言ったちょっとした「店への憧れ」は拒否され、「あの店は僕らが行ける店ではない」的な、一部の特別な人間のいく店として「三日月湖(いつのまにか本流と切り離されて池とか湖になって置いてきぼり)店」になっていく。

さらに進めば「こんな面倒ならもうそこまでして食へのこだわりなんてどうでもイイや、ちゃんと美味しいところがあればそれで良い」的なトレンドが出てくる可能性もある。現に僕の周辺にもこの流れが少し出始めている。

こんな感じで客との関係にスキマ風が吹き始めて来ているような気もする。お互いの気持ちが少しづつズレて来ていて違和感が生じて来ている気がしているのは僕だけだろうか。何もかも面倒くさくなって、いち降りた、二(に)降りた、みたいなことにならなければ良いが。

キャンセルの実態

ネット予約顧客管理システム「TableSolution(以下、テーブルソリューション)」を提供する株式会社VESPERの2017年12月~2018年12月調べによると(このテーブルソリューション導入店舗を予約システムに入れている店舗だけなので偏りがあると思われるためあくまでも参考に)、キャンセル・無断キャンセルの実態は月によって変動はあるものの概ね毎月予約者ベースで11%程度のキャンセルがあるという結果が出ている。少し違う動きは1月のキャンセルは他の月に比べやや多めで13.0%、12月は逆に低く7.5%になっている。12月は大切なセレモニーの月のためか。

キャンセル率1割という数字は多いと思う。薄利で運転している店側としてはドタキャンだったりすると経営に相当影響する数字であったりもする。

冒頭に述べた、連絡もせずに来なかったノーショーのケースはキャンセル全体の7.5%(=全体で見れば1000人に8人程度)ではあるようだが、騒ぎになったりネットで炎上騒動になるのは集団キャンセルだったりするので、この数字に現れるような普段のケースとはやや異なるかもしれない。都内で34店舗の居酒屋、レストランを運営するグループでも、昨年75人一気にノーショーと言う、もはや事件のレベルのキャンセルがあったそう。ずっと連絡取り合っていた客が前日から急に連絡が取れなくなったと言う。こうなると、真面目にやってる商売人にとっては怖すぎる。

いずれにしても、コンサートのように最低限の前払い(チケット)制にするとか、デポジット、キャンセルポリシーの厳密な設定(当日キャンセルは100%負担をちゃんとうたう…ただそれでも客とのやりとり、関係で取れないケースは出て来る)などは、今、この空前のグルメブームでもあり個人が特定できるネット予約が増えてきた昨今、一気に制度を進めて仕舞えば良いと思う。6月29日に飯田橋のKADOKAWA富士見ビルにオープンするレストラン「INUA (イヌア)」には「世界のベストレストラン50」で4度世界1位に輝いたレストラン「ノーマ(noma)」のヘッドシェフを務めたトーマス・フレベルが来る。その「INUA (イヌア)」は60人の客の入れるキャパがありつつも、デポジット制を採用。まあ、人気ある外国人シェフのチカラで、今まで日本人のメンタリティと合わなかったデポジットを徐々に文化にできるリードオフマンになるかもしれない。今、この食のバブル化している時期を逃すと、もうタイミングはなさそうな気もする。

ただし、僕の個人的感想ではあるが、昨年インフルエンザが広がった際に、食事を約束していた友人が罹患したケースが2件あった。その際その病気の人の分を出席者で負担。それなりに良い店を予約していたため、分けるとは言え少人数で分けるため全額負担は正直結構財布に響いた。

その時思ったが、実際には食べてはいないので、全額負担という形ではなく、(こちら側に負い目もあるので)店の原価率を3割~多くても5割と計算して最大限の半額負担という落とし所がお互いスッキリしないだろうか。

もちろん、客側にも反対する人は出てくるだろう、それこそ、それぞれ考え方の合う店に行けば済むことである。でも、今こそ次世代の支払いルールを決める時期だと思う。

予約の変化

予約制というのは元々19世紀のアメリカで食事をする時にバンケットルーム(=宴会用の部屋)の確保のために生まれた仕組みだったのだそう。部屋の確保という仕組みが、いつしか食事自体の予約を電話でするようになり、今やインターネットの普及で予約もネットでする事に移りつつある。さらにはSNSで店と客が繋がって、もっと個人的にも分かっているのでそちらが予約の主流に移りつつある。

さて、そうこうしているうちに、さらに結びつきが強くなり、料理人と客が食事に出かけたり、一緒に遊んだり、店で知り合ったグルメ客同士で今度は食事に出かけたり、と言ったケースが出てくる。仕事や会話が目的ではなく、まさに食事と交流が目的の会。

結果、連み始める客同士、そして店側も

そしてグルメ客同士が予約を取り合っては、食事の会を開く。時間が合えば店の人も参加していたりして。料理人さんで『あれ?この時間は営業中じゃなかったっけ?』と言う方も見かけるが、まあそれもまた各自の考え方。昔、京味の西さんとその話をした事がある。「お客さんを迎える時間に自分がいないことはありえない」と。ある料理人が毎晩のように他店で食事をしているのを知って言ったひと言。もちろんその料理人さんは食の勉強のためもあって、色々通っているのかもしれないけれど、客は彼の味、存在を期待して店に行くのだから、その期待を裏切ってはいけない、と言うような意味だったかと思う。それもそれぞれの料理人さんご自身の考え方の差。どう言う料理人が好きかも客によって様々。つるんでくれる料理人さんを楽しいと思う人もいるだろうし、あくまでも料理のプロとして「仕事は仕事、遊びは遊び」とハッキリ割り切っている料理人さんでないと受け入れない客もいる。僕は後者。

一方客側にも変な集まりがある。食べることを趣味にしていてネットで知り合ったグルメ同士が初めてレストランにて一堂に会する食事会。共通会話は基本的にはない。結局、出てくる食事に対する感想やらコメントが会話の中心。メニューや食材に対する自分の知ってる限りのうんちく、批評、そして基本的にはあの店のこれが美味しかったとか、この店の○○が素晴らしかったと言いつつ、あの店もこの店も行ったことのある僕ちゃん凄いでしょ、と言う自慢の会。

そう言う会に誘われたことはあるがお断りした。それは美味しい料理にありつけるかもしれないが楽しくない。いや正確には一度参加して、その時、美味しいものも美味しく感じなくなることを実感してからお断りするようにした。食事はよく言われるように「誰と食べるか」、そして自分の体調が良いかで、決まってくる。この条件がまず整っていなければ、いくら美味しいものを出されても美味しいと感じない。

予約争奪戦で勝利するよりも良き友、楽しい友人、愛する人がちゃんと周辺にいることが最も美味しさを感じられる要素だな、とハッと気づいたりして、それはそれで良い気づきになる。

非常識なノーショーが、意外にも今のグルメ客同士の会食、客と料理人の蜜月人間関係の構図を結果として作ったと考えると、ちょっと話は深い構造になってるかもしれない。

                             第四回に続く

Text=川井 潤

違和感の多い料理店 vol.2


違和感の多い料理店 vol.1






川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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