東京で感じる小さな京都

京都は秋がいい。紅葉に彩られた山々、旬を彩る味覚。ただ、忙しくてなかなか現地へ行けないのも現実。鱧(はも)に松茸、新米……秋を飾る食材の数々。京都にもヒケを取らない上質な食材と技術の高さ、そして、おもてなしの心でゲストを迎える東京の美食店へ。

喰膳あべ 趣き溢れる“おくどさん”を前に旬を感じる贅

 扉を開けると、カウンター10席の小さな店内に、ひときわ目を引く“おくどさん”。登り窯(がま)の耐火煉瓦で作られたこの竈(かまど)が、いわばこの店の“顔”。炭火で焼き上げる旬の野菜や魚、そして蒸し物などが目の前で調理されていく様子を眺めながらの夕膳は、京の片田舎の割烹にでも迷い込んだかのように、しんみりとした気持ちにしてくれる。

ご主人の阿部善一氏。ご飯はもちろん、煮炊きもすべておくどさんで。


 紅葉の野山を思わせる籠盛(かごも)りの八寸には、柿の白和えや焼きかます鮨など旬の味覚が色彩よく盛りつけられ、深まりゆく秋の風情が感じられる。
「野菜そのものの味を生かすよう心がけています」とはご主人の阿部善一氏。京都の名料理人、中東久雄氏の薫陶(くんとう)を受ければこその真っ当な素材への取り組み方を最も象徴しているのが、おくどさんで炊き上げる土鍋ご飯だろう。必要以上に甘すぎず、ひと粒ひと粒が力強い味わいの白飯は、メザシやちりめん山椒などのご飯のお供と一緒にいただけば、旨さも倍増だ。

1.八寸。焼き栗や揚げ銀杏など秋の味覚が満載。2.旅館の朝餉(あさげ)のような〆(しめ)の食事。ご飯は、福島産コシヒカリ。おこげも美味。3.小芋のきのこあんかけ。4種のきのこと菊花を散らして。料理はすべて¥12,000のコースより。
店内の造りは薫陶を受けた京都の『草喰なかひがし』のイメージで。

正しい日本の食卓の、原風景がここにある。

Syokuzen Abe 
TEL:03-3572-4855
住所:東京都中央区銀座5-6-10 ミヤコビル4F
営業時間:18:00~L.O.21:00
休み:日曜、祝日不定休
席数:10席
アクセス:地下鉄銀座駅A1出口より徒歩3分


御料理 与志福 今はなき京の名店の面影を感じる美味

 蓋(ふた)をそっと開ければ、かぐわしい出汁の香りに包まれる。名残りの鱧に旬の松茸、吸い口の黄柚子(きゆず)が深まりゆく秋を忍ばせる。丹精なこのお椀が、料理人の出自(しゅつじ)の確かさを物語る京割烹『与志福』。ご主人の高橋憲治さんが、今はなき京都の名割烹『桜田』出身と聞けば、それも納得。地元東北沢に店を構えて今年で8年目になる。

すっきりと凛々しい佇まいの店内。この9月から日曜日限定でアラカルトも始めた。デザートも美味。


「料理の美味しさはもちろん、(桜田の)気品ある盛り付けに魅かれました。器に対する具の大きさ、具材同士のバランスなど盛り付けに妥協がなかった」と当時の思いを話す。
 修業先の教えに倣い、ひと皿ひと皿、華美な仕立てではないものの、奥ゆかしい品のよさが漂う。それでいて鶏そぼろあんをかけた南京の葛豆腐など料理屋らしい手の込んだ逸品でコースの流れに変化をつける。最近ではトリュフ塩やフォアグラなど洋のエッセンスもさり気なく取り入れ、現在は自らのスタイルを打ち出している。

冬瓜と松茸、鱧のお椀。料理はすべて¥13,000のコースから。
左:炊き合わせは、南京の葛豆腐と焼きナス、三度豆の鶏そぼろあん。優しい味わいだ。右:先付けの汲み上げ湯葉と車海老、ウニ、毛ガニと銀杏の土佐酢ゼリーがけ。
ご主人の高橋憲治さん36歳。名店と謳われた『桜田』で9年間修業。
Oryori Yshihuku  
TEL:03-6905-7767
住所:東京都世田谷区北沢3-1-10 ニューアイランド東北沢2F
営業時間:12:00~L.O.13:30/18:00~L.O.20:30※要予約
休み:水曜
席数:14席
アクセス:小田急線東北沢駅西口より徒歩1分


京のおばんざい 真理福 生粋の京都生まれ祇園を知る女将さんの温かさに心なごむ

“一見さんお断り”の祇園の店に通うのは、昔から男のステータスのひとつとされてきた。敷居の高さは伝統を重んじる心の表れ。誰でも足を踏み入れられる場所ではないからこそ、人は憧れの気持ちを抱くのだ。

今年で開店10年となる『真理福』の女将・蛯名由起子さん。女性ゲストのファンも多い。


 祇園に生まれ育ち、15歳で舞妓としてデビューした蛯名由起子さんが赤坂にバー『真理福』をオープンさせたのは39年前。
「祇園のままのお店をやったら東京のお客様が喜ぶよ」という常連客の言葉がその背中を後押ししたのだという。その後、10年前に銀座でおばんざいの店を開店。屋号はかつての芸名から取り、旬味や京野菜をふんだんに盛り込んだ料理を供することに決めた。

左:おばんざいの盛り合わせ。あしらいも美しい。料理はすべて¥7,800のおまかせコースの一例。右:お茄子とにしんのたいたん。
店内の右と左にカウンター席が。ゆったりと寛(くつろ)げる空間だ。


 おばんざいの語源は“晩菜”。『真理福』では京都に伝わる家庭の味を堪能することができる。“走り、盛り、名残”と季節の移ろいを感じさせる料理は見た目も美しく、滋味深い味わい。“一見さん”も、ここでは歓迎。京の伝統を感じながらゆるやかに過ごせる場所が、銀座にあった。

Marifuku 
TEL:03-3571-2255
住所:東京都中央区銀座6-8-6 木の実ビルB2
営業時間:17:30~L.O.22:00
休み:日曜、祝日
席数:30席
アクセス:地下鉄銀座駅A1出口より徒歩3分


枝魯枝魯 神楽坂 世界からも注目される京都発“くずし割烹”の神髄

 京都・四条川端(しじょうかわばた)で誕生し、瞬く間にパリとハワイに出店し、世界の美食家を魅了してきた『枝魯枝魯(ぎろぎろ)』。

ここ神楽坂のお店でも人気のスタイルは健在で、月替わりのコースは4500円の1本勝負。神楽坂上の表通りより、ひと筋、路地裏に位置した古民家をリノベーションした1階には、厨房の隅々までが見渡せる名物のコの字カウンターが広がる。このライブ型のカウンターで料理人自らがゲストと積極的にコミュニケーションをとるという接客は、“食べる”という行為に、“楽しむ”をプラス。どの客席でも話に花が咲き、夜毎、笑い声が飛び交っているのだ。

1.先付けは秋刀魚の牛蒡八幡(ごぼうやわた)巻き ごまと肝のお醤油 炒り銀杏。2.向付けは鱧の落とし 松茸のお醤油。3.前菜は、秋なす尽くし。なす田楽やうに茄子、生水茄子のオリーブオイル漬けなど。料理はすべて月替わり¥4,500のコースの一例。


 京割烹の伝統を大切にしながらも、そこに新たな取り合わせや食材などの息吹を加えるくずし割烹。一度登場した料理が、二度と登場しないという月替わりコースは、訪れるたびに、新たなサプライズをもたらしてくれる。世界が認めた、京都発のくずし割烹は、東京の花街・神楽坂でも、その神髄を遺憾なく発揮している。

枝魯枝魯 神楽坂 東京/神楽坂  
TEL:03-3269-8010
住所:東京都新宿区神楽坂5-30
営業時間:17:30~(閉店時間はお客様の状況しだいで異なる)
休み:不定休
席数:42席
個室:2室(4~6名)
アクセス:地下鉄牛込神楽坂駅A3出口より徒歩2分


銀座米料亭 八代目儀兵衛 老舗米屋の矜持が息づく魅惑の米料亭

「米が主役」と潔く、その名に違わぬ多様な米の魅力を発信する『八代目儀兵衛』。京都・七条で寛政年間から続く老舗米屋の八代目、橋本隆志さんが米ギフト事業に次いで開いた店だ。京都・八坂神社前の本店は6年前の開業以来、常に長蛇の列。旅をせずともそれが銀座で味わえるのだから、嬉しい限りだ。

竹をモチーフにした清潔感溢れる店内。米の香りが立ち込める。


「米は料理に合わせて選ぶ」が、信条。社長ほか5名いる五ツ星お米マイスターが厳選し、米の旨みと甘さが際立つブレンドを行う。食前酒に粥、鮨、八寸と、いずれにも米を使いつつ京都の食文化や季節を感じる逸品で盛り上げ、独自ブレンド米「翁霞(おきなかすみ)」を特製土鍋炊飯釜で炊き上げるご飯の登場で、コースは最高潮に。旬の焼き物や塩海苔、香の物でたっぷりご飯を食べたと思えば、できたておこげの登場と、至れり尽くせりの、米三昧だ。

1.米八寸。もち米団子と鱧、松茸のお椀、秋刀魚のおむすびなど。2.オリジナルの土鍋炊飯釜Bamboo!!で炊いたご飯が主菜。他に焼き物などが並ぶ。料理はすべて¥9,050(税込)のコースより。3.厨房のおくどさんには炊飯釜が並ぶ。


 できる限り京都から食材を運び、炊飯の水を軟水に調整するなど、細やか。11月頭は全国の新米が出揃う季節。『八代目儀兵衛』に旬が来る時だ。

銀座米料亭 八代目儀兵衛  
TEL:03-6280-6383
住所東京都中央区銀座5-4-15 エフローレ銀座1F
営業時間11:00~14:30/18:00~L.O.21:00
休み水曜
席数16席
アクセス地下鉄銀座駅B6出口より徒歩1分


ぎおん徳屋 原宿店

 2004年の開業以来、変わらぬ人気を誇る京都・園の甘味処『ぎおん徳屋』唯一の支店。
 メニューは長い歴史と矜持を持った産地の食材で丁寧に作られている。看板は希少な南九州産わらび粉と阿波和三盆(あわわさんぼん)を使う徳屋の本わらびもち。注文後に雪平鍋で練り上げ、かき氷を張った漆器に並べて供される。最初はそのまま、次はきな粉で、次は黒蜜でと、味を違えていただくのがお薦め。甘味の濃さや違いはもちろん、温度で変わるわらびもちの食感が楽しめる。

1.徳屋の本わらびもち¥1,200(税込)。最後は氷に黒みつをかけてどうぞ。2.ゲストが火鉢で餅を焼く、もちやきぜんざい¥1,000(税込)。小豆は丹波産の大納言。

ゲストが餅を焼くぜんざいも人気。京都の食への探究心が凝縮した、美味の世界観を堪能あれ。

左:風情ある提灯が下がる外観。右:本店同様、舞妓や芸妓の名入り丸うちわが飾られる。
ぎおん徳屋 原宿店 
TEL:03-5772-6860
住所東京都渋谷区神宮前2-31-12 ユナイテッドアローズ原宿本店 ウィメンズ館内1F
営業時間12:00~ L.O.19:30(土曜・日曜・祝日11:00~)
休み無休
席数24席
個室1室(6名)
アクセス地下鉄明治神宮前駅5番出口より徒歩7分

 

茶寮 都路里 大丸東京店

 西と東は何かと食文化が異なるが、甘味のお茶使いで間違いなく京都に勝るものはない。創業150年の宇治茶製造・販売『祇園辻利』の喫茶部門である『茶寮 都路里』は、抹茶やほうじ茶、玄米茶などを巧みに取り込んだパフェなどで長い人気を誇る。その東京店が、こちら。


 甘味には、アイスクリーム、白玉など、アイテム別に5種類以上の抹茶を使い分けるこだわりよう。場所柄、商談利用の男性客も多いが、ボリュームあるパフェも控え目な甘さとお茶の深い苦味でさらりと食べ切ってしまうとか。抹茶蜜でいただくところ天も、京都流を貫く。

都路里ところ天¥1,080(税込)。蜜は抹茶と黒から選べる。
紅芋や栗など、秋の味覚が詰まった古都パフェ¥1,544(税込)は11月末までの販売。
カウンター席の窓からは八重洲エリアが見渡せて爽快。舞妓の絵がそこかしこに。
茶寮 都路里 大丸東京店 
TEL:03-3214-3322
住所東京都千代田区丸の内1-9-1 大丸東京店10F
営業時間10:00~L.O.19:30(木曜・金曜~L.O.20:30)
休み不定休
席数80席
アクセスJR、地下鉄東京駅八重洲北口改札を出てすぐ


Text=森脇慶子、小寺慶子、大西健俊、木原美芽 Photograph=中庭諭生、菅野祐二、富澤 元、岡本 寿、大谷次郎


*本記事の内容は15年10月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)