食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.8

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。  


違和感ある現象、対応などあれこれ

親睦やらミーティングが目的の食事会と、食事が目的で集まる会の違いは、支払いが前者は主催者持ち、後者は割り勘、ということが多い。

グルメさん達は食事目的で店に集まる事がやたらと多いので、そう言う会にお呼ばれされて参加する最近は割り勘になる比率が高い。

今まで生きてきた中で、この時代ほど割り勘が当たり前になっている時代はないのではないか? この傾向はそれほど高い料理店でなくとも若い人たちもその傾向が強いと言う。

元々、僕ら世代の男性は女性には払わせない、という文化で育って来たからこの方式はとても違和感がある。

とは言え、(ビジネスでも個人的な感情でも)付き合いたいとか付き合っている、お世話になりっぱなしの間柄として食事をしている訳ではないので奢る理由もなく、ただひたすらに食べたら割り勘という事が多くなる。食事が高額になりすぎてとてもじゃないけど奢れる範囲を超えているのも一因だが……。

大変なのは店側で、料理はコースメニューが多いのでコースの値段は一定としても、誰が何をどれだけ飲んだのかそれぞれ各人を把握していないといけない。結構面倒な話。

今度はそれが当たり前になると、店側は飲もうが飲むまいが一定の値段にしてしまうという方式も出てくる。鹿児島のお寿司屋さん「N」もそうだし、銀座の割烹「S」も酒を飲もうが飲むまいがほとんど変わらない方式になっている。

ただ、これ、最初に教えてもらっておいた方がスッキリする。あとから知ると、え?なんでこんなに飲んだ量が違うのに同じ料金なの?と言う割り勘負け(一方飲める人はラッキー)に近い気分になる。ちょっとした違和感を感じる。最初からいろんな約束が分かっていればスッキリ納得出来る。後から言うとか、全く言わないとか、違和感会計ではなく明朗会計をお願いしたい。

もちろん、以前から言っているように料理店にとって来て欲しい客、来て欲しくない客がいるのはわからないでもない。

先ほど「コースの値段は一定」と書いたが実はそうでもないケースが案外あって、ちょっと戸惑う事がある。僕ら食べる側と店側の常識が違うのか。

2年ほど前に京都人気店「M」で隣に座る常連さんグループと同じコース料理、ほぼ同じ飲み物で数千円勘定が違っているのを見て、違和感を感じた事を覚えている(2万円代の上の方と下の方の差)。京都と言う土地柄ゆえか、と無理くり自分を納得させたものの、未だに覚えているのだから根に持っているのかもしれない。料理はとても美味しかったのに、少し残念な気分だった事が後味として残ったのも確か。

実際に関西系の料理人さんから聞いた話でもあり、気づいた客の話でもあるが京都、大阪では気に入らない客に一緒に行った他の客よりも多く請求しているケースも案外あると言う。高く取られた客は来て欲しくないサインを送られた訳だが、本人は気づいているかどうか曖昧だ。北陸でも数年前に料理評判の良い店で、会計時に計算が不透明、人によって値段が違うと言う話がネット上を駆け巡った事がある。

さて、その流れがいよいよ、関東東京に上陸してきたようだ。最近有名な話は東京下町のイタリアンで、店主の好きではない人や酒を飲めない客には高額が請求されるという話。

好き嫌いは、お互いの相性だから原因は分からない。客側が店を嫌いな場合はもちろん店に行かないだけで済むので簡単だが、店側から嫌われている場合は「あなた嫌い」とハッキリ言われるしか分からない。なので同条件でひとりだけ高額請求というのはぼったくられた気分に近い。

飲めない人からより高額を取るケースはある意味分かりやすいサインになっている。結果そう言う噂が出ることで確かに狙い通りゲコは来なくなるかもしれないが、ならば以前にも書いたようにそうハッキリ表明すれば良い。

「こんなモノ入ったから食べる?」と本来のメニューでなく試食させてくれたり、他の人に出す量はないがちょっとだけおすそ分けで出してもらえるのは確かに嬉しい。でも、値段を他の人よりも安くして欲しいとは思わない。それをすると料理店さんに借りを作ってしまった気分にもなるし、また行かないといけないプレッシャーにもなる。

そう、くだらない話、SNSに思ったことも書けなくなったりもする。あくまでも店と客の関係はニュートラルが気持ち良い。

「店の(緊急時の)対応能力」に不満あり!

例えば、
①後から急に人数が増減する時に対応できるallowance(許容量)。
②お店側が間違ってダブルブッキングをした時の対応能力。
③緊急事態ではあるがたまにあるあの時の対応力。
④なにかをしでかした時の対応。

これは実際にここ数年内に僕もしくは友人が体験した話。

企業で言えば用意されていて当然の「コンティンジェンシープラン」が、当たり前のように全く店には用意されていない。コンティンジェンシープランとは「予期せぬ事態に備え、前もって対応を決めておく緊急時対応計画の事」。もちろん、大型の飲食チェーン店舗では用意されているが、むしろ逆に高額を取る高級独立店舗の殆どは昭和の時代から何も変わっておらず、値段だけは立派だがこうしたちゃんとした企業体にはなっていない。ほとんどはその場の店主の機転であったり、女将のホスピタリティであったり、従業員個人個人の対応能力に頼りきっている。危機管理計画は持ってないのである。

上記①〜④の課題に呼応した形で具体的な話を❶〜❹でしよう。

❶最近は予約を入れる際に事前に人数・コースを決めての予約がだいぶ当たり前になっているが、たまに何人集まってくるか分からない会もある。仕事で遅れる人、参加意志はあるけれどひょっとして来れなくなる人、突然参加できるようになる人、が出てくるケース。意外にこう言う事は多い。最近は申告した人数が減った場合キャンセル料を要求されるケースもあるが、こうなるとワイワイと三々五々集まってくる会は開きにくい。懇意にしているカジュアルなお店や良い意味で適当なお店がとても大切な存在になったりする。

そんな時、僕敵には赤坂見附の四川料理「B」や麻布十番の居酒屋「K」は重宝できるとっておきの存在で、人数がアバウトにしか決まらない時はこれらの店を使う事に決めている。もう少し人数対応に柔軟な店があると良いのだけれど、今はそのためには融通をきかせてくれる仲の良い店をどれだけ自分が作れるかにかかって来てしまう。

ただこういうシチュエーションは案外多いので、店の方にも出来ればその時の条件やら対応も一緒に考えていただけるとありがたい。

もう少し、お互いの落とし所を探る余地はあって良いと思う。かつて相当通った中華料理店、僕の方は相当仲良しだと思っていくつか相談させてもらったが、結局やんわり全部断られ対応して下さらなかったのが原因でいつしか足が遠のいてしまったケースもある。そんなにワガママな話ではなかったと自分では思ったのだが、その時の対応がすごく寂しく感じた事を今でも覚えている。あたかも両想いと思っていたのが、事実は一方的片想いだった事に気付かされたように。

❷次にダブルブッキングの話。場所は都内ではあるが都心から1時間近く離れた郊外。僕の友人達と人気店「B」を貸切で予約を入れたケースでこの事件は起きた。他のグループと見事にダブルブッキングされていたのである。実はその日は参加者のひとりの誕生日会も兼ねていた。プレゼントも用意して準備万端整えて。

僕の予約が入っている事は店主も認めた。もうひとつのグループも同日同時刻に予約を確かにとっていた。さあ、どうする。その時の店主の対応は「え、え、…」と言うだけ。謝罪の一言が出てこない。僕らは僕らでダブルブッキングしたもの同士ギューギュー詰めに座って一緒に食べる事も模索した。ただ、そのダブルブッキングしたもうひと組の方達は自分達が食べる事が当たり前で、僕らグループを明らかに疎く思っている態度に出た。こうなると一緒に食事をする気にはならない。

結局僕らがその店で食べる事をやめて他の店に行く事にした。その場所は他に食べるような店がある場所ではないので結局都心に小一時間かけて戻ることになった。

店主からはその日は最後まで謝罪の言葉はなく、今後の対応のような話も出ず終いだった。謎な店として売り出すプロモーションにばかりにチカラが入っていて肝心のサービス対応、危機管理能力が全くなかった。その後自宅に謝罪の意味で付け届けが2回ほど届いたが、僕だけへの問題でもないし、その場の臨機応変な対応が重要なのであって、後から謝罪されても気持ちは戻らない。その後この店に行くことはなくなった。

それまで贔屓にしていてもこう言うトラブル時の対応力が実は一番重要で、それ次第で関係がなくなる事にもなるし、実はその対応が良ければもっと良い関係にも発展も出来る。

渋谷区の人気イタリアンでもダブルブッキングがあったが、謝罪の本気感とその場の対応で次の日程が即時に決められたことと、この事をきっかけに逆に少し融通が効くようになったケースもあり、関係がより良くなったケースもある。

❸これはまあよくあると言えばそうなのだが、店に黒や茶色の物体Gがうごめいている時の対応。自分の周辺にウロチョロすれば自分で対処するケースも多い。ただし、本当に苦手な人(特に女性)がいた場合の対処や、隣のテーブルに現れている時は店側の対応に頼らざるを得ない。町中華や汚い居酒屋あたりでは一風景として受け入れてしまう事もあるが、高級店となるとそう言う気持ちになれない。

先日、これもひとり3万円を超える高級寿司店でのこと。出た出た、友人の携帯電話の上を割と大きな物体が走っている。寿司屋のカウンターでの出現は結構厳しい。亭主は性格からあまりちゃんと謝ることの出来るタイプではない様子。「すいません」と声では出ているものの、なんとなく上から目線の謝罪。それは一緒にいた3人が同じように感じたのであながち勝手な印象でもない。

勝手に入り込んでうごめくGは正確に言えば店主のせいではないけれど、やはり店内で起きたことは店の支配下にある。ならば誠心誠意謝る事、これが実はこうした緊急時にはまず第一に大切な対応力となる。

❹食アレルギー対策でアレルギー食材や苦手食材を聞くことは店としてやらねばいけない事だが、その他にも最近は牛肉の生食禁止や、ノロウイルスやアニサキス問題など料理業界には問題は山積している。

飲食系大企業では採用されているケースが多々あるが、より安心安全確保のためHACCP(=Hazard Analysis and Critical Control Point - 日本語ではハサップもしくはハセップと呼ばれる)のような国際的な食品安全管理基準を取り入れることは、小さな店が多数存在する日本の料飲店経営にはあまりにも大きな負担になってしまい難しい。

そこまで大掛かりではないにしろ、プリミティブな対応くらいはちゃんとして欲しい。食べログで高得点のとある高級フレンチで、サービスの方が皿にサーブすべき肉をテーブル上に落としてしまったケース。店側の人が「焼き直すと時間がかかるけどいいですか?」という質問をしたらしい。んん? それは今落としたヤツを食べろ、と言う意味か。。いわゆる3秒ルールか。食べる方からすると「えぇぇ?」と反応せざるを得ない。ほとんどこうなるとギャグレベルで対応力どころか、それ以前の問題。

昔、ナンシー関さんがご存命の時に話してくれたエピソードを思い出した。近所のコンビニに行った時の話、ナンシーさんがパック入り玉子を買おうと店員さんに渡したら店員さんがレジ台に落としてしまって数個の玉子を割ってしまった。店員さんはしばらく玉子を見て、それからナンシーさんに目を向け「……ダメ?……」と聞いたそうだ。ナンシーさんが「そりゃ、ダメだろう……」と返答して交換したそうだが、こっちは後々笑い話になったが、さっきの話はシャレにならない。客側が店に期待している対応レベルも全く違う。

個人の力で対応できないなら、店全体での対応力アップを考える時間も作った方が良い。食の仕込みももちろん重要だが、日頃の何事もない平穏時のホスピタリティ同様、緊急時の対応力が実は客との関係を長続きさせられる大きな要素になる。

今でさえ増加している外国人客は来年再来年開催のラグビーWカップ、オリンピックでは当然増えるしさらにVIPも来日する。その時「うちにはそんな客は来ない」とタカをくくっていても食する場が不足すると店に流れて来る可能性はかなりある。その時の対応を店はどうするのか?別に緊急時ではないが、想定した練習、訓練は必要になる。

店の継続運営のためにも、次に何が起きそうかを想定しておくこと、そうなったら店全体でどう対応するかの対策をも考えておく。何事も起きずに無駄になってくれたら御の字で、常に想定しておいた方が良いと思う。

少なくとも夜は今日もGはうごめいているのだから。

vol.9に続く

vol.7 料理店に対する満足度の法則


vol.6 グルメ事情百花繚乱

vol.5 グルメ有名人の追っかけ族 & 食のスタンプラリー化


川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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