【祝・受賞】フレンチ界のレジェンド、三國清三の人生の集大成がアートブックに!

11月18日、美しい写真と5年にわたる入念な取材で、三國氏の30余年におよぶ料理人人生の集大成として「日本の食材と料理」が記録された1冊『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni 』が満を持して発売に。さらに先日、フランスで行われている “グルマン世界料理大賞2019”に出品後、「Gourmand World Cookbook Awards in the Hall of Fame」部門で唯一入賞を果たしたというニュースが入ったのだ。映画界でいう「オスカー賞」と賞賛される、世界唯一の料理本の賞を獲得した、後世に語り継がれる伝説の1冊とは?


30年越しの集大成『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』

『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』。

本書のタイトル、JAPONISÉE=ジャポニゼは、1990年5月10日(亡くなる2ヵ月前)に、巨匠アラン・シャペル氏がオテル・ドゥ・ミクニに食事に来店した際にサイン帳に残されたメッセージが元になっている。
 
ジャポニゼとは日本化ということだ。その「日本化が大切だ」と、このフランス料理界の巨匠は言ったのだ。君は今まで習い覚えたフランス料理を見事に日本化してのけたのだ、と。

当時、というのは1980年代初頭のことだけれど、日本のフランス料理は基本的には『舶来品』だった。フランスの料理こそが至高であり、食材にしても料理法にしても、どれだけ『本場のフランス料理』に近いかで優劣が語られるのが普通だった。

そういう時代に「日本化が大切だ」と言い切ったアラン・シャペルの先見の明には敬服するしかないけれど、その言葉に応えるための弟子の苦労は並大抵ではなかったはずだ。それは完成した一つのアートを踏み台にして、もうひとつの新しいアートを創造することなわけだから。もちろん、簡単なことではない。

11月18日に刊行されたこの『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』は、いうなれば、そのために三國清三が費やした30数年間の悪戦苦闘の結晶だ。頁をめくるごとに登場する料理はうっとりするほど美しく個性的なのだけれど、ただそれだけではなない。どの皿も大地にしっかり根をおろしたかのような力強さに充ち満ちている。その強さの源は、日本の風土だ。

三國はこの30数年間、日本全国を旅して、各地の優れた生産者たちと出会い、深い信頼関係を築き上げて来た。それぞれの生産者がそれぞれの地域で慈しみ、育て、あるいは猟した食材を、三國は一皿の料理へと昇華させた。それはアラン・シャペルから手渡された命題への見事な答えでもある。つまりこれは日本の風土と真正面から向き合い、料理の可能性を広げた三國清三というひとりの料理人の魂の記録であり、現代における日本のフランス料理のひとつの到達点でもある。

『皿の上に、僕がある。』

34年前、東京四ッ谷に『オテル・ドゥ・ミクニ』を開業した三國は、その翌年、31歳の時に一冊の本を出版している。『皿の上に、僕がある。』というその料理書は、120皿の料理すべてを真俯瞰から撮影するという斬新な手法で、欧米の料理界でも大きな話題となった。今回の『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』は、デザインから撮影まで、ほぼすべて当時のメンバーによって作られている。

三國は5年の歳月をかけ、全国の生産者たちとの再会を果たしながら、この本を完成させたという。料理人が食材やその生産者を大切にするのは、当たり前のことかもしれないけれど、それにしても三國の情熱にはただならぬものがあることが、この本の随所から窺い知ることができる。

たとえば備前焼の作家、佐藤苔助(たいすけ)はこの本のために100枚を越える器を焼くことを三國氏から依頼された。登場するすべての料理は、その備前焼の器に盛りつけられている。

「皿も料理の一部だ」と三國は言う。日本の食材の魅力をあますところなく引き出すのが彼の料理なら、その料理を盛りつけるのはやはり日本の焼き物が相応しいということなのだろう。確かに土の風合いを生かした素朴な備前焼の持ち味が、日本の食材の力強さを見事に引き立てている。

『皿の上に、僕がある。』の斬新な真俯瞰の写真は、すべて白い洋皿に盛りつけられていた。それから34年後の『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』の料理を支えるのは、土の風合いの濃厚な備前焼だ。そのコントラストに、三國の34年間の苦闘の痕跡が見える、と言ったら穿ち過ぎかも知れない。

けれど、この二つの料理書の間には、日本におけるフランス料理の変転と進化が横たわっている。日本という東洋の島国にフランス料理の種がもたらされ、それがやがてその風土に根づいて咲かせた新しい花が、この『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』の随所で咲き誇っていることは間違いない。

ミクニ流、記者発表会の悦楽

11月23日の『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』の発刊に先立って、記者発表会が四ッ谷の『オテル・ドゥ・ミクニ』で行われた。どんな記者会見より素敵な会見だったということに、その日集まった記者たちは同意するだろう。なにしろその日の締めくくりは、この本の中にも登場する料理が饗されたのだから!

その日のメニューを以下に掲げよう。
・鮪のづけ、サーモンのづけ、キャビアといくらのせ、わさびマヨネーズ風。
・内田ザリガニのフリカッセと鶏レバーの軽いプディング、そのビスクソースとペッパーキャビア合え。
・秋川牛雌フィレ肉のステーキ、奥多摩わさびそーす合え、江戸東京温野菜6点(小平産しんとり菜と亀戸大根と内藤カボチャ、八王子産滝野川牛蒡、三鷹産寺島茄子、立川産うど)添え。
・和歌山産みかんのかき氷、驚きの煙と香り、御用蔵醬油がけ。

どの料理も食材とその生産者への愛に満ちた料理だった。その料理への感想を書くことは、屋上屋を架すことになりそうだからやめておく。まずはこの本で、三國の料理の集大成をその目で味わっていただきたい。ちなみに、この本の末尾にはそれぞれの料理のレシピも記されている。だから自分で作って見ることも可能だけれど、僕なら『オテル・ドゥ・ミクニ』を予約する。三國の料理の真骨頂は、なんと言っても彼の愛と情熱にあるのだから……。

注:「グルマン世界料理大賞」は1995年にエドゥアール・コアントロー氏(リキュールで有名なコアントロー家出身)によって設立された、 世界唯一の料理本の賞。『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』は「後世における規範となり、多方面から参照され、引用することが期待される傑作」だという評価を得た。

『JAPONISÉE Kiyomi Mikuni』三國清三 著 
A4変型(297×280mm)上製本・ケース装、504頁 
¥27,000 東京美術刊


Text=石川拓治 Photograph=古谷利幸


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