食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.12

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。     


ハレとケのメリハリが重要

今年発表された2019年版ミシュランのビブグルマンにおにぎり専門店「おにぎり浅草宿六」が選ばれて、ちょっと微笑ましかった。

最近外国人にもおにぎりが人気で、ローソンのおにぎりには既に2015年に英語表記、セブンイレブンおにぎりも今年の4月に英語表記を加え、ファミマも7月に具材の画像表記とともに英語表記対応が始まった。

これまで日本のマスコミもネットメディアも動かせなかった米の需要、おにぎり市場の可能性を刺激したのが、外国人インバウンド客と海外発の評価本ミシュラン というのがなんだか嬉しいような、悲しいような。頑張ろうよ、日本のメディア。

ミシュランで評価されると、徐々に値上げされる傾向もあるので、ビブグルマン獲得の「宿六」や大塚の行列のできる人気おにぎり屋さん「ぼんご」など含めてこれに乗じておにぎりを値上げしたり、やたらと高級路線へ行かないで欲しいな。

食事にはハレもあってケもあって、ちょうどバランスがいいのだから。

おにぎりなどで軽く済ますケの日もあるし、高級料亭に楽しみに行くハレ日もあるからこそ楽しみになり、美味しくも感じる。

なんだか1年後に、「特A米コシヒカリ滋賀県の『みずかがみ』に、塩は『天草通詞島の天日塩』、『有明海の一番摘みの海苔』で巻いて、具には『ウトロ漁港のときしらずの鮭』とか『羽立水産の高級ウニ』を入れて」なーんてモノを作って「おにぎり一個、はい、5000円」なんて出てきたりして……。今の食バブルの世の中ならあり得るからなぁ。

しかも、この原稿書いてて食べてみたい気にも自分自身もなってるし……。

食事の競合は食事にあらず

先日都心の料亭にお邪魔して、味も素材もホスピタリティもとても素晴らしく美味しくいただいた。料理として文句なし。そして楽しい時間が過ぎて、お会計のタイミング。ひとり7万円弱のお会計。

……ふと、考えた。この日は特別な日、大接待という訳でもなかった。いわゆる普通の会食。確かに美味しくて、さっきまで幸せだった。会計を聞いてからは心の底から喜んでいない自分が出現した。なんだか、気分が重くどんよりしてきた。自分は無駄なことをしたのではないか?……罪悪感に近い気分。

自分の気持ち良い価格限界値(ここまでは夕食に出してもよいかな、と思える最上限値)は特別な日を例外とすれば現在は3万円くらいだろうか。それでもここ1~2年の飲食店全体の値上げに慣らされて、その数値になった感じ。

それまでは、せいぜい2万円くらいのイメージだったから1万円上がった感じ。

以前にも書いたようにフランス、イギリスなどの海外に比べれば相対的には安いことは分かってはいるのだが……。

昔ペットフードのマーケティングを担当した事があった。その時の調査結果がこの気分に似ている。餌代にある程度お金をかけることを飼い主は自分のペットにかける愛情に比例すると思っているのだが、ある限度の予算を超えると「気分的に、ちょっともうイイや。なんでこんなに餌代にお金をかけているのだろう」と冷静な自分に戻ってペットに対してちょっとネガティブな気分になる、という調査結果が出た事がある。

友人たちと話していて、食事もある限度額を超えると、「食べた事を反省する。美味しかったけど、馬鹿らしい……」と感じる事がある、という話になった。

まっ、それが5万円を超えたの時の話。

もちろん、懐事情はそれぞれの人で違うので、へ?その程度で?と思うリッチな方もいらっしゃると思うけれど、一応、2017年の総務省調査(※)で年収1,295万円(月収換算 1,079,250円)以上の人の外食費支出は月平均22,000円(月収の2.04%)という数字が出ている。これは毎日ランチしていれば普通に支出する額。夜に全くお金を使ってない計算になり、あまりリアリティある数字に見えない。でもまあ、この年収の人なら接待交際費もそれなりに会社員だったら枠を持っているであろう。でも、それでも自腹で幾分は払うだろうから、推して知るべし、一回に使える交際費は上限で1万円くらい。そんな程度のものなのである。

だから、一回数万円使うことはハレの世界であって、ましてや一回の食事にひとり5万円以上の額を使える人は大人数いるわけがない。

今まではあの店にしようか、いやこっちの店にしようか、と言うように「飲食店」の比較対象は「飲食店」だったのだが、ここまで値段が高いと実は一般人としては何か別のものに費用をかけた方がよいのではないか、と迷い始める。

つい先だって、有馬温泉で一番人気の料亭旅館にお邪魔した。温泉は多量の鉄イオンを含み入浴後は肌もスベスベ(個人的感想です)。夜の食事も味もラインアップも悪くはない。一応、このシーズンなので香箱ガニ、しゃぶしゃぶ用に松葉蟹の脚、場所柄神戸牛のA5ステーキまでつく。朝食も相当頑張っていて、印象に残る。干物は鯵の開き、サヨリ。ごはんもお粥、白米などが選べ、湯豆腐、焼き海苔を墨で炙って食べる。

さて、これでひとり一泊35,000円程度。先日の7万円近い食事を考えると、東京からの交通費と宿泊費足しても大して変わらない。

東京の食の世界では数十万円のステーキや10万円前後のフレンチや懐石和食が今現実に展開されている。

体験という意味はあるのかもしれないが、こんなに出すんなら国内旅行、いや下手すれば海外旅行にも行けるなぁという選択肢まで出てくる額が今の食バブルの料金。

飲食店の競合が飲食店ではない時代に突入したのかもしれない。

絶対に必要な会食は別として、2~3回食べるのをやめたらあれができるこれが買える、なんて時代。

いろいろ考えさせられる。

そう、ここで気づく。いつのまにかツールだった食事が目的の時代になってきている。

60、70年代は会社で愛妻弁当を食べ、夜は家庭の食卓で家族で食べるのが普通で、ときどき家族全員でハレの時にオシャレして外食にいくイメージだった。一部会社員は接待族、社用族として毎日のように接待会食といった感じか。これも目的は接待で食事そのものが目的ではない。

一方、上司部下の関係で言えば居酒屋、一杯飲み屋に一緒に行って飲んで食べて喋って「飲みニケーション」とか言って2軒、3軒まわって親睦を深めるツールとして飲食を使っていた。

’80年代後期のバブル期にはデートのツールとして食事は重要な存在になった。不倫が文化、とまでいわれた時代。ニューオープンの店、海のそばや夜景がキレイなレストラン、空間内装もレストラン選択の重要な要素。ワイン知識も重要なツールになった。

その後バブル崩壊時にお財布の中身が厳しくなった時、ちょうど救世主のようにリーズナブルな「モツ鍋」がブームになった。1992年のこと。

そうここまでは食は目的ではなく、盛り上がるための1アイテムであり、ツールに過ぎなかった。

外食する目的は知り合いといろんな積もる話をゆっくりしたいとか、相手との距離を近づけるためとか、もっと相手を分かるための機会とか。たまには嫁さんが料理作るの面倒で外に食べに行くというのもあるけど、そんな時にせっかく食べるなら出来れば美味しい店でと思うのが基本形。

食事は誰と行くか、どんな会話で、結果自分が楽しかったかどうかが美味しさを感じる大きな要因。その時、一緒に行った相手も美味しく楽しんでくれたかどうかも重要。相手にいい気分になってもらえたらこちらもドーパミンが出る。

何回かこのコラムで書いているが、ここ数年、美味しい店に行くために2年前から予約するなんていう行動がちょいちょいある。その時一緒に行く人なんて決められるわけがない。2年後のことは2年後に考えるしかない状態。つい先日もいつも食事に行っていた仲良しだった人間がひとり、ある事で疎遠になって、1年前に約束していた店の参加メンバーを当初予定と変更せざるを得ない状況になった。1年先、メンバーの仲がどうなっているかなんて分からない。

こんな感じで、その時誰と行きたいか、は関係なくてその店に行く事が目的になっているのだ。主役は店であり出てくる食事。一緒に食べる相手はある意味、誰でも構わない状態。これもなんだか気持ち悪い。

目的が食になると、なるべく最高に美味しい店に行きたくなる。そうすると金銭面の工面もそうだが食に合わせて毎日生活するようになって変な生活リズムになって、自分の行動もおかしくなってくる。毎昼、毎晩どこにいくかを何時間も検索したりして……、一種の病気。

料理は愛情、お店とは相性

店の料理は最高峰ではないにしろ、ある程度美味しい、サービスもそこそこ気持ちが良い、お値段もリーズナブル、お店の方とのお話もそこそこ楽しい、客同士の話もそれなりに盛り上がる雰囲気がある、そんな最高ではなくても総合的に自分と相性が良ければ、理想だなぁと最近つくづく思う。

言うなれば、長く付き合う恋人に近いか……。めちゃくちゃ美人より、性格が合う人かの相性選びに似ている。

昔、料理の鉄人のMプロデューサーの仲良し料理人の結城貢さんが言った「料理は愛情!」という有名なセリフがある。相手に美味しく食べて欲しいと思う裏に、どれだけちゃんと食材を理解し、どう使うと美味しくなるかが分かっておくべきなのが愛情なのだと。

その言葉を真似させてもらえれば僕らにとっては「お店とは相性」が鍵となる。

店との相性というのは、恋愛関係同様あくまでも個人的な感覚だから人それぞれで異なると思うが、最近出会った店では大井町のタイ料理「サバイサバイタイ」は僕にとってはリーズナブルで美味しくて、居心地が良くて、とても相性の良いお店。

元薬剤師の娘さんが料理人、明るいお母さんが店内を切り盛りしてほんわかした雰囲気。「今日は川井さんに食べてもらいたい料理を作りました」と言って出してくださる。なんだか気持ち良い。結局「あれ食べて、これ食べて」といろんなモノを出してくれて、まるで田舎の親戚に遊びにきたかのような雰囲気。自ずと長居してしまう。

ヘビーローテしている常連さんも多いのもよくわかる。

そう、味、価格、料理人さんの心持ち、サービス提供のされ方、の結果が居心地の良さに繋がり、店との相性が決まってくる。「料理は愛情、お店とは相性」。シャレではないけど、店との価格競争に疲れてきた自分は今後はこんな基準値で選んで行くような気がする。

もちろん、例えある程度高額でも納得できる料理店には伺いたいとは思う。でもそれは食事のみが目的ではなく、一緒に行った方や、料理人さんとの会話をより楽しむために、美味しさが潤滑油となることを期待しての事である。

※2017年 総務省統計局 年間収入五分位階級別1世帯当たり品目別支出金額(総世帯)

vol.13に続く


vol.10 飲食店からの選民が進む時代。SNSやらあれこれ


vol.10 勘違いしている料理店


vol.9 経営権と料理人と


川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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