食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.7

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。  


料理店に対する満足度の法則

手前勝手であるが、僕的には自分の中でこんな法則でお店の好き嫌いが決まっている。

味×価格×店主(シェフ)の姿勢=心が喜ぶ。「心が喜ぶ」と言うのは記憶が間違っていなければ魯山人が料理を食べた後に感じる言葉としてどこかで使っていた。この店良かったなぁ、と言うのは味だけでなく気持ちの問題が大きい(その他、印象要素としては誰と一緒に行ったか?という事も大きいがそれはお店の好き嫌いとは別問題)。

先日、外苑前の「傳」にお邪魔した時に、亭主の長谷川さんが「外国人客が来て、例え言葉が通じなくても相手が笑っていたら、もっと大きな声で笑うと、和むんですよ」と話してくれた。長谷川さんは相手を喜ばせる天性のものを持っている気がする。

その日も数時間ものすごく楽しい思いをさせてもらった。

傳自体確かに味も良ければ、価格も適度、店主(シェフ)の姿勢(=従業員含めイキイキとして、楽しい店の雰囲気)がステキなので自ずと結果として心は喜んでいた。

ある日全く逆のことにも出くわした。中央区にあるお蕎麦屋さん。

蕎麦は抜群に美味しい。価格もめちゃくちゃリーズナブル。だが亭主がひとりで店を切り盛りしているがために、お茶とオシボリを出し、天ダネを揚げ、他メニュー用のすだちを薄く切り、その間に客席の食べ終えた食器を片付け、蕎麦を茹で、水切りしその出来たモノを運び、お会計もする……。

それだけ聞けばひとりで頑張っていて大変だなぁと思えるが、店の空気が重い。

亭主が蕎麦職人なので黙々と作業する姿はむしろ好意すら持てる。彼に愛想の良いことは別に期待はしていない。だが、この日いくつかコトが起きた。カウンターで僕の隣に座っている方が日本酒を注文。「まだ、前の人の蕎麦をやってるから、注文されても今、日本酒は出ません」と、つっけんどんな対応。注文した方もバツが悪そうに苦笑い。

でも、メニューに書いてあるんだから飲みたい人食べたい人が注文するのは当たり前だと思うのだけれど……。

今度は自分にお鉢が回って来た。亭主ひとりで切り盛りしているから大変、と思い、日本酒を注文した方ではない隣の席の食べ終えた二人の食器をカウンターの上に僕が片付けていたら「余計な事はしないでくれ、自分がやるので置いておいてくれ、ここに積まれたらあなたに出す蕎麦のスペースがなくなるではないか」的な発言を店主からくらった。

なんだかなぁ……。

たったひと言、「ありがとうございます。あとは片付けますから大丈夫ですよ」とか言ってくれれば、穏便に済むことなのに。なので、この店では余計なことはしない事。

負のスパイラル。

店内ではなんとなくみんながヒソヒソ話。空気が重い。

どなたかのレビューにも空気が重いと書いてあったが、確かにマイナスのオーラが出ている。

職人さんなのでコミュニケーション下手は全然構わないのだが、サービス業としては、どうなんだろう。もう一人サービス担当の女性を入れればいいのに、と思う。それによって値上げになっても、全然このレベルの蕎麦の味ならば客はついて来ると思う。

結局僕が食べ始めたのは注文してから50分後。注文する時ももちろん亭主の一連の作業が終わり、向こうから声をかけられるのを待つのでそれだけで3〜5分は経過する。

味×価格×店主(シェフ)の姿勢=心が喜ぶ、の法則で言えば、味良し、価格良し、でも店主の姿勢のところで結果、心が喜べなかった。

本当に蕎麦は水分を多めに含んだ好きなタイプで美味い。蕎麦つゆも辛めで美味い。蕎麦はまた絶対に食べに来たいと思わせるハイレベル。いつか、どんな不快な事があっても自分には心の修行が出来ていると自信を持てたら、この店に再度訪問もあるかもしれない。

さて一方グルメバブルの今、高額の店に毎日のように行っている(お金に余裕のある)人たちには価格要素はあまり関係なく、「味×店主(シェフ)の姿勢」、特にとにかく味重視で成立している気がする。

価格が重要な要素を占めるサラリーマンや女性勤め人には考えられない話。

以前にも書いたが海外の高級料理店に比べれば、確かに日本のモノの物価も高級料理屋店の値段も相対的に安い。

海外の人が今こぞって日本に来て買い物したり、レストランに行くのもそれも理由のひとつ。

でも、日本人の小遣いが上がっていないのも事実。新生銀行が2018年7月に発表した「サラリーマンのお小遣い調査」でサラリーマン(男性会社員)における月額のこづかい推移では2018年は3万9836円。ここ30年間での最高金額は1990年の7万7725円。

と言いつつ、消費者物価指数まで加味すると、1979年を1.00とするとピークの1990年でも1.26、2018年に至ってはその頃のたった6割程度の0.58。つまりは半分近くに小遣いが減っている状態。

これでは、今あるグルメブームは全くサラリーマンには関係ないのも良く理解できる。

高額グルメ系の話題の店でサラリーマンに出会うことは少なくなっていることは否めない。

各所で違和感

僕自身もサラリーマンを経験して来たので、もちろん気持ちはよく分かっている。ただ最近言われた事がある。「その店の予約持ってるよ」と元同僚女性に話したら「その予約持ってるという言葉、なんか変」と。

確かに昔はそんな言葉はなかったし、サラリーマン時代は予約は会合が決まってから取るもので、今のようにとりあえず予約を取ることが第一で、そのあとメンバーを決めるようなことはなかったから違和感があるんだろう。ここ数年で出来た料理業界の「新語」のひとつに間違いない。

さらには恵比寿にある人気焼肉店「Y」。満足度高くとても良い肉を美味しく食べさせてもらえる。最後の〆のすき焼きタレに店主がたっぷりトリュフをかけている時に『あー、お会計はいくらになるかなぁ』とちょっとハラハラドキドキ、最後の精算で「ひとり2万3000円」と言われた時に思わず「え?、安ぃ!」と小さく叫んでしまった。肉もとても上質だし、とってもリーズナブル。心が喜んでいた。

ただあとでこの店の話を後輩サラリーマンにしたところ「え? 僕らには簡単には払えないです……」と言われて、ハタと気づいた。僕自身が違和感を持たれ始めているのか、ヤバい。

そう、最近はひとり3万円、4万円、5万円と言う会計も頻繁にあるので、ちょっと2万円台だとホッとしたり、リーズナブルと感じてしまう自分がいる。一流店で1万円台なら尚のこと得した、いやちょっとビックリするくらい安いと思う気分。それだって、経費の少ない、小遣いも少ないサラリーマンのお財布にはキツイ話。

お寿司屋さんも最近は2万円台で食べれれば御の字で、3万円を超え、4万超えも出てきている。まるで一斉に値上げしてきて、裏で談合でもしてるんじゃないかと思えるほど。

なので逆にdancyuあたりの雑誌では1万5000円で食べられるお寿司屋さん特集などが組まれたりする。

案外そう言う店を探すのも楽しかったりする。もちろんハズレの店に当たることはある。だからこそ、良い店を見つけた時の嬉しさもひと潮である。

でも、せっかく見つけた店も人気が出始めるとあっという間に値上げして来るのが世の常。食材がより良くなっていることも確かだが、また新しい店を探さないといけなくなるイタチごっこは続く。

寿司屋さんに限らず天ぷら屋さんも中華料理店も設定価格がどんどん上がっている。

こうした結果、実はそろそろ、自腹を切って仕事をしている食のライターさんや食を仕事にしている人たちから悲鳴が聞こえ始めてきている。

僕は別に食を仕事の中心にしている訳ではないので、この値上げ高額シンドロームからいつでも抜け出せて大丈夫だが、ここを自腹で仕事にしている人たちには辛い状況。

先日、その食を仕事にしている数人と渋谷の「A」と言う北陸福井発祥の焼鳥、焼きとん屋で食事をする機会があった。これまで、超人気有名高級寿司店「A」や銀座のフュージョン料理「C」や広尾の人気フレンチ「Ode(オード)」などでしか一緒に彼や彼女らと食べたことがなかったので、このワイガヤ感、店内の煙の充満ぶりなど、この人達と食べるには若干違和感のある空間。が、焼きとん、豚足、特にこの店の「シロ」の美味しさと言ったら別格で結局4人でシロだけで40本平らげてしまった。結構飲んで食べてひとり3,500円って値段はまるで違う国に来たような気分。気楽だし、なんだかテーマパーク的で楽しく、心が喜んでいる。

こう言う店を知っているのもひとつの食の幅の広さになる。

トレンドなんて、パッと変わる。1992年に起きた「もつ鍋ブーム」、その前に起きた「エスニック料理ブーム」、ここ最近は「寿司ブーム」であり、外国人には「和食ブーム」。

これをトレンドで終わらせるか、はたまた確固たる地位にできるか、今のあり方が重要なんだと思う。心底、心を喜ばせてくれたら、京都の料理店のようにブームなんて関係ない100年続く長いお付き合いとなると思うのだが。

vol.8に続く

vol.6 グルメ事情百花繚乱


vol.5 食の追っかけ族&スタンプラリー化


川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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